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すべての「抗体薬」が無効に 変異ウイルスBQ.1.1に対するワクチンや抗ウイルス薬への影響は?

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

新型コロナの治療薬には、抗ウイルス薬・抗体薬・抗炎症薬の3種類があります。このうち、抗体薬は軽症例や発症予防目的で使われてきましたが、軽症者向けの抗ウイルス薬が充実してきたことと、ウイルスが変異を繰り返すことから、抗体薬の投与頻度は減っていきました。さらに、最新の研究結果で台頭しつつある変異ウイルスBQ.1.1に、既存の抗体薬はほぼ中和活性がないことが示されました。ワクチンや抗ウイルス薬への影響はないのでしょうか?

変異に創薬が追い付かず

BA.2以降、抗体薬であるカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)、ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)で有効性が低下することが示されていました。

特にゼビュディは、これまで新型コロナの軽症者にも用いてきた抗体薬だったため、「ウイルスの変異は速いなあ」と驚きを隠せません。

現在BA.5が主流であることから、ワクチンの効果が得られにくい人に対するチキサゲビマブ/シルガビマブ(商品名:エバシェルド)が、唯一の抗体薬として使われています(図1)。

図1. 新型コロナに対する抗体薬(筆者作成)
図1. 新型コロナに対する抗体薬(筆者作成)

しかし、現在増加しつつある変異ウイルスBQ.1.1に対して、もはや流通している抗体薬にほぼ効果がみられないことが複数の研究で示されています(1, 2)。

実質的に、免疫逃避を続けた新型コロナウイルスが勝利した形となります。

また、BA.5に有効であったことから期待されていた抗体薬について、アメリカ食品医薬品局(FDA)は「もはや新たな変異ウイルスを中和できない」と考え、緊急承認を許可しない方針を発表しました(3)。

アメリカはすでにBA.5が約3割にまで低下し、BQ.1.1などが増加しています。これから台頭する変異ウイルスには効果が期待できないと早期に決断したわけです。

製薬会社としても、新しく抗体薬を上梓しても変異を繰り返され、薬剤が売れなくなるなら、なかなかビジネスチャンスを見いだすことができないかもしれません。

日本でもBQ.1.1が増えてきた

もう変異ウイルスの名前を追っていない人がほとんどだと思いますが、現在耳にする変異ウイルスはオミクロン株の名前です。BQ.1.1は通称「ケルベロス」と呼ばれていますが、ちょっと小恥ずかしくて、現場ではこの用語をあまり使っていません。

現在まだBA.5が主流ですが、ここにきて、BQ.1.1などが急速に増えつつあります(図2)(4)。今後、アメリカと同じようにBQ.1.1などが優勢になっていくと予想されています。

図2. 変異ウイルスのゲノム解析結果の推移(参考資料4より引用)
図2. 変異ウイルスのゲノム解析結果の推移(参考資料4より引用)

ワクチンの効果は保たれている

かといって、初回接種しているワクチンに効果がないわけではありません。新型コロナワクチンは、BA.5から変異を繰り返して生まれたBQ.1.1にも有効に機能します。

現在3回目接種以降で用いられている2価ワクチンは、BQ.1.1に対して有効性が高いとされています(5)。

そのため、EU(ヨーロッパ連合)では、初回接種からオミクロン株対応2価ワクチンを接種することを可能としました。国内では初回接種ではまだ2価ワクチンを使用できませんが、これが使える日が来るかもしれません。

抗ウイルス薬の効果も保たれている

抗ウイルス薬は、国際的にはレムデシビル(商品名ベクルリー)、モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(商品名パキロビッド)が使用されています。

新しく承認になったエンシトレルビル(商品名ゾコーバ)は、海外では使われていません。

さて、先ほどの東京大学医科学研究所などの研究グループによると、BQ.1.1やXBBといった新しい変異ウイルスに対しても抗ウイルス薬の有効性は維持されることが示されています(1)。

新しい抗体薬が登場しても、「いたちごっこ」の様相になる可能性があることから、今後抗体薬の使用は減っていき、抗ウイルス薬を主体に治療を組む流れになっていくかもしれません(図3)。

図3. 現時点での新型コロナ治療薬のまとめ(筆者作成)
図3. 現時点での新型コロナ治療薬のまとめ(筆者作成)

参考)

(1) Imai M, et al. N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMc2214302

(2) Arora P, et al. Lancet Infect Dis. 2022; S1473-3099(22)00733-2.

(3) FDA Announces Bebtelovimab is Not Currently Authorized in Any US Region(URL:https://www.fda.gov/drugs/drug-safety-and-availability/fda-announces-bebtelovimab-not-currently-authorized-any-us-region

(4) 令和4年度東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議・分析資料. モニタリング項目の分析(令和4年12月8日公表)(URL:https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/022/706/20221208_05.pdf

(5) Zou J, et al. bioRxiv preprint DOI;10.1101/2022.11.17.516898.(査読前論文)

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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