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若手に説得力ある話をするために、中年世代は歴史を学びなおしましょう

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
織田信長の話を例に出しても「えー、それ古いですね」とは言われまい(提供:アフロ)

■説得力を高めるための「たとえ話」に登場させるスターは、世代によって違う

私たちが何かを説明するときにたとえ話を使うのは、誰もが知っている事例を使うことで、説明を簡素化するとともに、内容の説得力を高めるためです。特に、効果のあるのは、スターにまつわる事例です。自分が尊敬するあの人もこんな場合こんな風にしていたのか、だったら僕もそうしてみようかな……という風に持っていきたいということです。

私もメンバーに何かを教える時に、自分だけの経験に基づくだけでは、やや力不足かなという場合は、「スティーブ・ジョブズもこう言っていた」「イチローも」とみんなが知っている流行りの有名人の力を借ります。ところが、世代が大きく異なると、流行していることも、「誰もが知っている」スターも違ってきて、かえって話が通じなくなります。私は人事部長や経営者向けのセミナーで、たまに長嶋茂雄さんのたとえ話をするのですが、20代の学生向けセミナーだと残念ながらほとんど伝わりません。隔世の感がありますが、ミスターも引退されて長くなるので、仕方ないことかもしれません。

■若者文化を探ろうとネットを検索しても、中年世代は閉じ込められている

そこで、我々中年世代の中でもある種の人々は、若者にわかる事例を探し出そうといろいろと努力をします。特に、最近の若者はネットをよく見ているということで、YouTubeやInstagramなどのネットを一生懸命眺めたります。

しかし、ここにある落とし穴は、ネットは基本的には自分で検索して目的の情報にたどりつくメディアであるということです。中年は、中年が関心のあるものを検索して中年のネット世界を作り出します。中年の検索データから情報を得たAIなどからレコメンドされてくるものは、すべて自分になじみ深い中年世界のものです。ネットはもちろん無限に広がる世界ですが、下手すると中年達が独力でたどりつけるのは中年色の強い、中年世代には心地良い世界だけということにもなりかねません。せっかく若者文化を知ろうとしているのに、そうさせてくれないのが切ないことですね。

■ちょっと前の流行りをたとえ話に引用することが、最もカッコ悪い

その結果、長い道のりを経て、ようやく我々中年世代にまでたどりついた若者文化は「ちょっと前」のものであることが多くなります。東大生に就職一番人気の企業は既に成熟した下り坂企業であるとか、田舎の女子高生まで到達したファッションは既にダサいとか言われるのと似たような感じで、中年世代にまで到達したちょっと前の若者文化は、実は若者から見て一番カッコ悪いものです。

なぜならば、ちょっと前に流行ったもの、すなわち今は流行っていないすぐ消えたものは、結局は一過性のものであり普遍的価値を獲得できなかった敗北者だからです。それをわからずに、「これは最新の若者文化だ」と誤解して、意気揚々とたとえ話に使ってみれば、もちろんそれは逆効果です。努力は認めてくれるかもしれませんが、若者からすれば、「もう飽きられたものだよ」「無理しちゃってカッコ悪い……」「すり寄ってきている」「日和っている」とも見えてしまうかもしれません。これでは若者からリスペクトを勝ちえて、動かすことなど難しいことでしょう。

■中年は歴史を学びなおせ。歴史的スターは、普遍的な価値を持っている

では、どうすれば良いのか。それは、若者にとっても、中年世代にとっても、等距離にあるものを利用すれば良いのです。それは「歴史」です。若者と中年世代の年齢差は大きいとは言ってもたかだか10~20年でしょう。ところが、例えば、織田信長の生きていた時代と今との間は400年以上。若者と織田信長の差と、中年と織田信長の差は、誤差の範囲です。織田信長という存在は、若者と中年にとってはほぼ等距離、共通の常識と言って良いでしょう。

他にもカエサルやらナポレオン、ブッダにキリスト、スーパースターは歴史の中にいくらでもいます。彼ら英雄を、何かのたとえ話で使ったとして、「古い」と非難されるでしょうか。いや、もちろん古いのですが、上述の「ちょっとの間で消えた価値の低いもの」とは真逆で、その古さは、普遍的な価値を持つために極めて長い時間を経ても今に残ったというカッコいい古さです。このように、我々オッサン達は下手に流行を追うよりも、歴史を学びなおし、それによって若者とコミュニケーションを取るほうが自分の身の丈にも合い、かつ彼らのリスペクトも勝ちえることのできる良い方法ではないでしょうか。

OCEANSにて、中高年の皆様向けに、20代を中心とした若手を理解するための記事を連載しています。よろしければ、こちらもご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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