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社員数が増えるとマネジメントはどう変わるか 〜組織の発達段階〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
企業の成長は一足飛びにはいかない(写真:アフロ)

■社員数が増えると、マネジメントが変わる

企業の成長とは、売上増やシェアアップであり、それに伴う組織の成長、つまり「社員数の増加」でもあります。特に社員数は大変重要なパラメーターで、組織の発展段階とその課題の質的変化に大きな影響を与えます。

社員数の増加につれて、組織はどのようなマネジメントの変化を必要とするのでしょうか。基本的に「統制」と「自由化」を繰り返すことが多いようですが、今回は経営学者のグライナーの唱えた「組織の成長の5段階説」を私なりに解釈したもので説明してみたいと思います。

■創業期は「経営者の背中」でマネジメントする

組織にとって社員数がなぜ重要なのか。その理由は、人間には「認知限界」というものがあるからです。認知限界とは人間の認知能力や情報処理能力の限界のことで、もともとは組織論において「一人の人間が安定した関係を維持できる人数には限界がある」という経営学者のサイモンが用いた用語です。

人には誰でもこの「認知限界」があるので、複雑な情報処理をする際には、処理対象となる情報を細かく分け、別々に対応することが必要となります。組織に当てはめると、社員数が増えると経営者が直接メンバーを見ることができなくなるので、組織を細かく分けて、それぞれに管理者を置き、権限を委譲しなければなりません。

認知の限界人数は4人程度とも、7人プラスマイナス1人とも諸説ありますが、権限委譲するにしても勝手にやらせるわけにはいかないので、そこに何らかの「マネジメント」が発生することになり、このやり方が社員数によって変化していくのです。

まずは第1段階、人数が極小の創業期の会社では、基本的には経営者自らがほとんどのことについて指示や判断をします。フォーマルな制度などはなく、リアルタイムに柔軟なマネジメントを、経営者が直接的に自由に行います。

ほとんどのことはあらかじめ決まっていないため、見通しを持つことがなかなかできず、メンバーは「振り回される」感覚を持つでしょう。しかし、話は早い。面倒な根回しなど不要。物事はバンバン決まる、ジェットコースターのようなスリリングな毎日です。私はこれを「背中でマネジメントする」ステージと言っています。

■「自由と自己責任」ではギスギスした雰囲気に感じる人も

社員の数が経営者の認知限界を超えると、社長の前に判断を待つ人が行列をなすようになり、自由なマネジメントでは立ち行かなくなります。そこで第2段階として「行動をマネジメントする」必要が生じてきます。

つまり、経営者の頭の中にある判断基準や成果行動を形式知化、マニュアル化するなどして外に出し、「こういう時にはこういうことをしなさい」と、すべき行動そのものを1から10まであらかじめ指示しておくマネジメントスタイルです。

この時期の職場は、少し窮屈かもしれません。あまり行動の自由がなくなります。「とやかく考えずにやれ!」というステージです。自分でいろいろ考えたい人にとっては嫌な職場ですが、指示が明確なので快適だという人もいるでしょう。しかし、このステージが長く続くと徐々に組織全体がモノを考えなくなっていき、活力が失われていくかもしれません。

そこで次のマネジメントの進化、自由化が必要となります。第3段階の「結果でマネジメントする」ステージです。目標や目的、ゴール等の求める結果を与えて、そこに到るまでの道は自由に考えてよい(考えなさい)、そして結果を達成したらインセンティブを与えるというマネジメントスタイルです。

この段階では「自由と自己責任」という言葉がよく使われるようになります。職場は「協調よりも競争」で社内競争が激しくなり、ややギスギスした雰囲気が出てくることもあるでしょう。インセンティブの作り方によっては、社員が自分のことばかり考えて、全体最適な行動を取らない場合も出てきます。

■「計画経済」から「文化によるマネジメント」へ

部分最適化のデメリットが極致に達すると、また「そろそろ協調路線を」と統制化が始まります。これが第4段階の「計画でマネジメントする」ステージです。基本的には自分達で考えていろいろやっていいが、事前に何をするかについての計画を出して、それが承認されてからやりなさい、というマネジメントスタイルです。

こうすることで、日々の業務遂行の大部分は現場に移譲しながらも、事前に「部分最適」な計画を修正し、ヒト・モノ・カネなどのリソースの全体最適配分をしておくことができます。

ところが、こうした計画経済もデメリットがあります。計画が独り歩きし、状況が変わっても柔軟で自由な対応ができなくなり、「期初の予算を消費するために、道路を掘って埋めるような意味のない作業を行う」といった非合理な組織行動が生まれてしまいます。

この弊害が大きくなりすぎると、第5段階(最終段階)である「文化でマネジメントする」ステージに移行するニーズが高まります。これは「自由化と統制化の統合」されたようなマネジメントスタイルです。

行動や結果などの明示的なもので厳密に統制するのではなく、文化(価値観や考え方・思想・理念)などで社員の意識を「ゆるく統制する」ことで、孔子の「心の欲する所に従えども矩を踰えず」ではありませんが、全体としては緩やかに統制されていながら、個々人の自由な創造性を発揮できるような環境にするようなものです。

■最終段階、「文化によるマネジメント」でも社員によって「合う合わない」がある

「文化によるマネジメント」は、このように一見すると理想的ではあるのですが、社員の成熟度や自律性、高度な知識・スキル、経験などが求められる、実現するには難しいマネジメントスタイルです。いくら理想的だからといって一足飛びにこの段階に達するのは容易ではなく、無理にやっても空中分解してしまうと思います。

また、この段階に達した職場の雰囲気は、コリンズとポラスの共著「ビジョナリー・カンパニー」(日経BP出版センター)の中で「カルトのような文化」と評されたように、やや宗教がかった「価値観の統制」が行われることが多いものです。

このため、人によってはこの理想的なマネジメントスタイルも「気持ち悪い職場だ」と感じることもあるので、合う合わないはあります。結局、いずれのマネジメントスタイルも誰にとっても完璧なものはないのです。

以上、今回は社員数とマネジメントスタイルの5段階、および各段階での従業員の働き方の関係について簡単に説明しました。自分にとって働きやすい職場を探す際の参考になれば幸いです。

キャリコネニュースより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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