新生エアアジア・ジャパンは定着するのか
10月29日、新生エアアジア・ジャパンが中部国際空港(セントレア)を拠点に運航を開始した。就航当初は1路線のみで、中部~新千歳を1日2往復、180人乗りのエアバスA320で運航される。
運賃は片道4190円からの設定となるが、10月17日に発売が開始された就航記念セール(発売終了)では片道「5円」で販売されたことも話題となった。
かつてはANAと手を組んでいた
冒頭に新生エアアジア・ジャパンと書いたが、かつて、マレーシアのエアアジアとANAの合弁で設立された旧エアアジア・ジャパンは、2012年8月~2013年10月まで成田を拠点に国内路線に加え、韓国や台湾などの国際線にも就航していた。マレーシアで成功したエアアジアのビジネスモデルが日本ではフィットせずに搭乗率が低迷した。特にホームページでの予約が複雑であることに加えて、チェックインの締め切りが国内線でも45分前に設定されるなど、フルサービスキャリアの飛行機や新幹線に乗り慣れている人にとっては不便な部分が多かった。
手荷物を預ける場合のチェックイン締め切り時間は更に早く、チェックイン時に機内持ち込み手荷物の重量が超過し、手荷物のチェックインの締め切り時刻を過ぎてしまった場合は有料でも預けられず、空港内の宅配便で送っている姿を何度も目の当たりした。LCCのルールがまだ浸透しておらず、混乱に拍車をかけ搭乗率の低迷が続いた。
方向性の違いもあり、結果的にANAホールディングスがエアアジア出資の資本を買い取る形で合弁を解消し、ANAホールディングスはエアアジア・ジャパンでの運航を休止し、新たなLCCブランドとしてバニラエアを立ち上げ、2013年12月から運航を開始した。当初は苦戦を強いられたが今では年間を通じて8割を超える搭乗率となった。
新生エアアジア・ジャパンでは楽天、ノエビアなどが出資
合弁を解消したことで、国内線でエアアジアのブランドが無くなってしまったマレーシアのエアアジア本体は、航空業界以外の日本企業と手を組むことを目指した。日本では、航空法によって海外からの議決権割合を3分の1未満に抑える「外資規制」というのがあり、3分の2は日本企業の出資が航空会社設立の条件となるからだ。そこで手を組んだのが、楽天、ノエビアやアルペンなどだ。
2014年7月1日に会社設立記者会見が行われ、エアアジアのトニー・フェルナンデスCEOに加え、楽天の三木谷浩史会長兼社長をはじめ、出資する企業のトップが勢揃いした。設立会見の際には2015年夏の就航を予定していたが、準備の遅れに加えて、度重なるエアアジア・ジャパンのトップの交代もあった。エアアジア・ジャパンで使用する飛行機も既に2015年に到着していたが、業界内では就航を断念するのではないかという声も聞かれたが、今年夏頃から再就航へ向けての最終段階に入ったニュースが駆け巡り、10月16日にようやく就航日が発表された。
課題となっていたチェックインの締め切り時刻も30分前となり、以前に比べると数字の上では使い易くなったが、まだまだ他のLCCに比べるとホームページからの予約の手間がかかっているなど課題も多いが、再就航できたことをまずは評価したい。
国内LCC就航から5年。ピーチ、ジェットスター、バニラエアは路線拡大
日本では、ピーチが2012年3月に国内LCCとして初就航してから5年が経過した。ピーチは日本流LCCのビジネスモデルを構築したことで運航開始直後から安定した搭乗率を記録し、今や関西国際空港だけでなく、沖縄の那覇空港、そして今年9月には仙台空港をそれぞれ拠点化し、いち早く黒字化を達成した。
その後に就航したジェットスター・ジャパンやバニラエアも就航当初は苦しんだが、LCCが国内で認知度が上がったことや安全性の大きなトラブルがなかったことも追い風となり利用者が増加。一時ストップしていた新型機の納入も再開し、新しい路線にも続々と就航している。現在の路線数はピーチは28路線(国内線14路線・国際線14路線)、ジェットスター・ジャパンは25路線(国内線16路線・国際線9路線)、バニラエアは14路線(国内線7路線・国際線7路線)となっている。
更に2014年8月には中国のLCCである春秋航空が出資した春秋航空日本(スプリングジャパン)も就航し、国内LCCは4社体制が続いていたが、エアアジア・ジャパンの就航で国内LCCは5社体制となった。
「低価格」を武器にするが、認知度不足は否めない
この段階での参入となるエアアジア・ジャパンであるが、既に関西空港はピーチ、成田空港はジェットスター・ジャパンとバニラエアが多くの路線に就航している。福岡や新千歳は発着枠に限りがあり、24時間空港で発着枠に余裕があるセントレアを選んだエアアジア・ジャパンであるが、既にジェットスター・ジャパンが7路線を展開しており、来年春には成田に次いで中部を拠点化する。最初の路線となる中部~新千歳線にはANA、JAL、スカイマーク、AIRDO、ジェットスター・ジャパンも乗り入れており、同一路線で6社が就航することになり、競争は熾烈を極めるだろう。
就航発表から就航までもわずか2週間しかなく認知度不足は否めない。実際に中部からの初便は92%(166名)の搭乗率であったが、折り返し便で55%(99名)となり、筆者が搭乗した2便目の中部発で8割程度だった。就航2日目の新千歳発では3分の1程度しか搭乗していなかった模様だ。まだまだ認知度不足は否めない。エアアジアのホームページで同路線を検索すると、就航初日や年末年始などの繁忙期を除けば、ほとんどの便が最安値で購入できる。空席連動性の運賃であるLCCにとって最安値運賃が続くと収益面でも厳しくなる。
既に就航している航空会社よりもエアアジア・ジャパンに魅力がないと利用してもらえない。記者会見で侍の格好で登場したエアアジアのトニー・フェルナンデスCEOは「私が戦おうとしている敵は高い運賃で、高い航空運賃のためにこれまで海外へ行くことができなかった人達を海外に連れて行きたい」と話す。東南アジアでは低価格を武器に勢力を拡大したが、日本でも航空券の安さを最大の武器に戦うようだ。低価格と共に、前回の失敗の要因となった遅延・欠航をいかに少なくできるかも試される。リピーターを確保できなければ、黒字化への道は険しくなる。
既に先行する3社が軌道に乗った中で、エアアジア・ジャパンが存在感を出せるのか、スタートから厳しい船出となったが、今後、満席のお客様を乗せることができるのかが注目される。同じ失敗は2度と許されない。