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そろそろ本格的に「コロナ後」の働き方を考えねばなりません〜合意形成は人事制度設計と同等の慎重さを〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
「私、今、ふつうに働いているところです」(写真:アフロ)

■DXはどんどん進むが

デジタルトランスフォーメーション、略してDX(英語圏では「Trans」を省略する際にXと表記することが多いため、そう表記される)は、日本でも2018年に経済産業省がガイドラインをまとめるなどして、世の中に広まってきました。

ここでの定義は「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。

基本的にどんどん進めていけばいいだけのことのように思うのですが、コロナ明けの職場ではいろいろ小さな問題があるようです。

■コロナ体制をどこまで戻すのかが大問題

それはDXによってさらに実現しやすくなったテレワークに関することです。新型コロナウィルス感染症に対する緊急事態宣言が明けて、さまざまなオフィスで起こっている問題は、一旦テレワークのほうに一気に振った働き方を、これからどこまで戻すのかということです。

コロナ対策としてテレワーク化した際は、会社側としてほかに選択肢はなかったので、全社的な合意形成を行う必要はありませんでした。ところが、コロナ明けはそうではありません。

完全に元通りにするのも良し、完全にテレワークを維持するも良し。たいていの会社はおそらくその間に「落とし所」を求めるわけですが、そこには「絶対解」はありません。

■「働き方×DX」にはまだまだ問題が山積み

各社、何らかの意志を持って、自分で新しい働き方を決めなくてはならないのです。選択の余地があると、議論が生まれます。

働き方は、好き嫌いの幅が広い領域なので、なかなか「落とし所」は決まりません。そのため、多くの会社で、今まさに侃々諤々議論しているというわけです。育児や介護をはじめ、働き方のニーズがどんどん多様化していく現在では、DXによってテレワークが進んでいくことについては誰も異論はないでしょう。

しかし、近い将来そうなるとしても、今すぐそうなるべきかと言われると疑問です。というのも、特に働き方においては、リアルよりもDXを進めるほうが現時点ですべて良いという単純なものではないからです。

■まだリアルのほうが良いものもある

例えば、アイデア出しのようなものはリアル場であるような「空気を読む」といった他者への気遣いがなくなるためにデジタルコミュニケーションのほうが意外に効果的だという調査があるものの、意思決定や問題解決のミーティングはリアルのほうが良いという研究もあります。

また、オンラインでは雑談などが減るために、社内の人間関係を作ったり維持したりするような行動が減るという傾向もあり、組織の一体感に対して大きな影響がありそうです。つまり、今のところは何でもかんでもDXが良いわけではないということです。

■まずは「事業自体のDX」が本筋

そもそも、事業のDXが進んでいなければ、働き方を変えることなどできません。それをコロナの影響を受けてテレワークを無理やりやってみたところ、なんとかなったということで、「じゃあ、これからは働き方もDX推しでいこう」というのではあまりに短絡的です。

物事には順序があり、まずは事業そのもののDXを推し進めたうえで、それに従ってようやく働き方も無理なくDXとなるというものです。また、事業のDXが遅れていたとすれば、それは上司を含めた経営層がその判断が遅れていたからでしょう。

事業のDXが遅れているのに、働き方だけ進めてもむしろ効率的でない場合もあり、事業のDXをさらに遅滞させてしまう可能性だってあります。

■働き方に関しては慎重な合意形成を

確かにコロナによる社会経済の遅滞は、リアルをベースにビジネスを行うことのリスクを顕在化させ、ビジネスのDXの重要性を改めて認識させられました。ですから、経営幹部であるマネジメント層としては、あらゆるDXを可能な限り推し進めたくなることもわかります。

ビジネスはスピードが命ですから、思い立ったら改革を始めることも大事です。ただ、ことテレワークなどの働き方のDXに関しては、社員個々の価値観や家庭の事情などが強く関係しており、事業上どうしても必要だとしても、すぐには納得いかない場合もあります。

人事制度を作る際には、長い時間をかけて社員の意見を聞いたうえで、合理的な説明を納得行くまでして、全社の合意形成をするはずですが、同じぐらいの慎重さが新しい働き方を決める際にも必要です。

スピードは早めたいが拙速ではいけないと、難しい経営判断ですが、うまくバランスを取らなければ、せっかく正しいことを進めても、社員の不満が募ってうまくいかないということになってしまっては本末転倒ではないでしょうか。

OCEANSにて若手のマネジメントについての連載をしています。こちらも是非ご覧ください。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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