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政治家のうちわをめぐる内輪な話の法的な解説

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

松島法務大臣が辞任しましたね。小渕優子氏を含めてこの問題を長引かせたくない安倍首相がもろとも首を切った感じですね。筆者はこの短い在任期間の間に得た、被告代表者として松島みどりこと本名馬場みどり法務大臣名が書かれたレアな判決文を所持していますが、これはヤフオクに出しても売れないんじゃないかと思います(そんな事したら筆者のバッヂが飛ぶので売らないけど)。

松島法務大臣が辞任したのは財産的価値がある(とみなされた)から

この問題、色々と問題になっているので交通整理しておこうと思います。まず、松島法務大臣が政治責任をとって辞任したのは、有権者に対するうちわの配付が公選法で禁止されている選挙人に対する寄付(法199条の2)に該当する可能性があるからだと思われます。これが選挙期間中や選挙に近い時期であれば買収及び利益誘導罪(法221条、多人数なら222条)に該当する可能性もあります。

この場合問題となるのは、うちわに「寄付」や「買収」と言えるだけの価値があるか否かです。うちわの骨組みがどうとか、作りがしっかりしているとかが議論になるのはこのためです。

たしかに、筆者も街頭やお店などでもらったうちわは捨てずに保管する方なので、うちわにも価値はあると思われますが、一方で、うちわを何枚もらったからといってその候補に投票したくなるかというとそうでもないのも現実です。実際に処罰を受けるレベルかはグレーゾーンなのではないでしょうか。選挙人に対する利益供与で分かりやすいのは、食事の接待とか、弁当を振る舞うとか、酒を飲ませるとか、酷いのになると「一票5000円」など札びらが飛ぶ例です。松島氏やその関係者が起訴されて有罪になるところまでは行かないような気がしなくもありません(もちろん断言はできませんが)。

もちろん、法務大臣が法律の適用に厳しくないとイケナイのはその通りなので、「辞任すべきではなかった」とまでの感想もありませんが、本来は、寄付に当たる範囲について政党間で協定を結んでも良いくらいの話なのかな、と思います。取り締まりを警察任せにして、何かある度に時の野党が警察権力を頼りにやり玉に挙げるのもあまり美しくはない気がするのです。

いずれにせよ、このように価値の有無の問題なので「討議資料だ」などと言って逃げることはできません。例えば、松島陣営の討議資料をしかるべき商店に持っていけば下仁田ネギをプレゼントされるのであれば、やはりクロなのです。そういう意味で、松島氏は最初から答弁の仕方を間違っていたと思われます。

なお、骨組みのあるうちわであっても、相当額を徴収して販売する場合は買収に当たらないのは、もちろんです。

蓮舫さんのはビラ頒布の問題(と思われる)

一方、民主党の蓮舫氏が選挙でうちわを配ったとしてネット上では話題になっていますが、これはネットで出回っている写真を見る限りは単なる厚紙で骨組みがないため、それ自体に価値があるかはさらに疑問符がつきます。蓮舫氏が国会で逆ねじを食らわないのはこのためです。

そして、蓮舫氏が「証紙を張っている」と言っているのは利益供与とは全く別問題のことで、うちわ様の厚紙に蓮舫氏の使命や写真を掲載し、政策を掲げたものを選挙期間中やそれに近い時期に配付することが、選挙ビラに該当するためです。日本の公職選挙法は選挙用文書の配布を厳しく制限しており、ツイッターやフェイスブックまで選挙運動用の「文書」「図画」に当たるというそれこそ常識外れの解釈によってがんじがらめにされてきました。ネット選挙について“解禁”と書かれるのも、選挙運動用の「文書」「図画」が包括的に規制されているところ、ネット部分だけ禁止を解除したからです。この規制は日本国憲法が出来る前からの明治憲法下の規制で、本来は日本国憲法発布時に廃止されるべきだったのに、戦後、つぎはぎ的に規制が強められ、公選法はもはや法律家でも訳の分からない条文構造になってしまっています。そして、ツイッターと同じ意味で、選挙の候補者は選挙期間中に選管が発行する証紙が張られたビラを一定枚数頒布することができます。

ネット上では、証紙を張ればうちわも可みたいな記事もありますが、松島氏のうちわに証紙を張っても、やはり利益供与の問題が出てきてしまうのです。

まとめ

このように同じうちわでも差がでてくるのは結局、(世間一般から見た場合の)価値の有無の違いなのだと思います。はっきり言って分かりにくいですね。そして、すでに述べたように選挙に関わる問題で、なにかグレーゾーンのビミョーな問題が起こる度に野党第一党ともあろうものが警察頼みの国会質問をするのも美しくない、というか、民主主義国家の国会議員のあり方としてどうなのかと思うので、与野党(もちろん少数政党も含めて)で、寄付として問題にならない範囲を協定してはどうかと思うのですが。まあ、日本の政党政治の現状ではそういう事は無理でしょうけど。ちなみに、自由法曹団が1994年(古いですが)に行ったドイツ総選挙の調査によると、あっちでは選挙期間中に演説会の会場でリンゴを配ったり、実費でビールを振る舞ってそれを飲んで一杯やりながら演説を聴いたりするそうです。それで問題となる事もなければ、それで買収されたと感じる有権者もいないのでしょう。民主主義の成熟とはそういう事なのかもしれません。

追伸・小渕優子氏

一方、小渕優子氏の問題は、報道されていることが事実であれば、相当に深刻な問題であり、法律上は真っ黒です。多人数選挙人の買収に発展する可能性すらあります。成り行き次第では議員辞職や、連座制の適用で立候補禁止にすら至る可能性すら排除できません。もちろん、政治資金規正法上も大問題です。安倍首相は大臣の首を切って終わらせたいのかもしれませんが、この問題こそ、野党は「大臣を辞めたから」などという意味不明な“みそぎ”を許さず、徹底的に追及すべきだと思います。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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