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日銀の指し値オペによって円安が加速し、ドル円は125円台に急上昇、何が起きてこれからどうなるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 25日に米国の中央銀行にあたるFRBのなかでも重要ポストでもあるニューヨーク連銀の総裁が、0.5%の利上げが適切ならばそうすべきだと述べ、次回のFOMCで0.5%以上の利上げが確実視された。

 これを受けて25日に米国の長期金利は一時2.50%と2019年5月以来の水準に上昇した。欧州の長期金利も軒並み上昇した。

 28日の東京市場では米長期金利の上昇を受け、日本の長期金利も前場に0.245%まで上昇し、日銀は指し値オペをオファーした。しかし、0.250%はつけなかったことで、このオペの応札額はゼロとなった。

 後場に入り東京時間の米長期金利が2.53%に上昇するなどしたことで、日本の長期金利は0.250%と2016年1月6日以来の水準を付けた。これを受けて日銀は同日で2度目となる指し値オペをオファー。こちらは0.250%を付けていたことで、645億円の応札があった。金融機関の応札分を原則全て買い入れる指し値オペで実際に買い入れたのは2018年7月以来3年8か月ぶりとなる。

 いずれにしても日銀は日本の長期金利を0.250%で抑える姿勢を明確にした。このため日銀(異次元緩和)とFRB(正常化から引き締め)の金融政策の方向性の違いが顕著となり、ドル円は28日の午前中に123円台に上昇してきた。

 この方向性の違いとは、金融政策で異常な緩和のままの日銀に対しFRBは今後、利上げを加速することで生じる。政策金利である短期金利が日本はマイナス、米国はプラス幅拡大となる。長期金利は日本が0.250%で押さえ込み、米国はすでに2.5%となりこちらも格差が拡大中。お金は金利が高い方に向かいがちとなり、それはつまり円を売ってドルを買う動きを強めることになる。

 日銀はさらに追加の政策を実施してきた。複数日にまたがって国債を決まった利回りで無制限に買い入れるという秘策、「連続指し値オペ」を実施すると発表したのである。同オペの実施は2021年3月の導入決定以来初めてとなる。このような際に使えると準備していた政策を実行に移した格好となる。

 指し値オペで無制限に国債を買い入れる、つまりこれは量的緩和策の再来ともなる。それを連続で行うという強力なオペレーションを打ち出したことで、日米の金融政策の方向性の違いがさらに顕著となり、外為市場では円安が急加速した。ドル円はあっと言う間に6年7カ月ぶりとなる125円台に上昇してきた。

 円安は輸入物価の上昇を通じて消費者物価の上昇要因となる。携帯電話料金の引き下げによる影響が4月から剥落するとともに、エネルギー価格や食料品価格などの上昇で、4月の消費者物価指数(除く生鮮)の前年同月比2%以上の上昇が予想されている。日銀はさらなる円安にすることで2%を確実にさせようとしたようにもみえなくもない。

 ただし、日銀の黒田総裁はコストプッシュによる物価上昇での2%の目標達成でもあくまで一時的なものとの認識であり、緩和の修正などはありえないとしている。数値上の2%の目標が達成されようと緩和の手綱は緩めない姿勢を示している。これはさらなる円安を招き、物価への上昇圧力も加速させる可能性がある。

 債券市場では日銀が押さえ付ける10年債までの国債利回りと、20年、30年、40年という国債の利回りの格差が今後さらに広がる可能性が出てきた。これは日本の国債利回りの形成を歪にさせかねない。

 これまでは日本の物価上昇が低位で推移していたことで、国債利回りを日銀がさも押さえ付けられていたように見えたが、現実には長期金利を含めて、本来の国債利回りは市場で形成されるものである。これを無理に押さえ込むと当然ながら弊害が今後大きくなりかねない。

 円安による副作用が心配になると為替介入を期待する向きも出よう。為替介入は言うまでもなく日銀管轄ではなく財務省管轄ではある。円安加速の張本人が日銀であるならば、どうしてその尻拭いを財務省が行わなければならないのかという疑問も当然生じよう。また、為替介入で円安が止まる保証もない。

 日銀が緩和修正はしたくないとの気持ちもわからないではないものの、そもそも2%の物価目標達成に無理があった。つまり本当に2%を達成するというのは、日本の物価に余程の上昇圧力が加わっているということにもなりうる。

 足下物価の上昇によって、日銀が言うところのデフレマインドが払拭するのかもしれないが、それはつまり急速なインフレマインドへの変化となる危険性も秘めている。

 日銀など中央銀行の金融政策にとって本来必要となるのが柔軟性なのだが、現在の日銀はそれをなくしてしまっており、次第に日銀が追い込まれる懸念も強まる。現状は日銀が円安に追い込んでいるとしか見えないのではあるが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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