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就活ルール廃止は、大学生と大学生活、就労環境にどのような影響を与えるか

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 中西経団連会長の2021年春入社組からの就活ルール廃止についての言及が大きな波紋を呼んでいる。

採用指針:廃止表明 経団連会長「21年春入社から」- 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20180904/ddm/001/100/156000c

安倍首相、就活ルール維持求める=経団連の廃止方針に反対:時事ドットコム

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018090301063&g=pol

官邸は「中立」強調=安倍首相の発言を軌道修正-就活解禁:時事ドットコム

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018090400854&g=eco

就活ルール廃止、企業に困惑=実情反映と評価も-経団連会長発言で:時事ドットコム

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018090301097&g=eco

同友会代表幹事、就活ルール廃止の言及「前向きに評価したい」:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL04HNQ_U8A900C1000000/

 総合すると、経団連は以前から検討していたものの、どうやら十分関係各所と調整した内容ではなさそうだ。そうであるにもかかわらず、9月4日付け朝刊では一面掲載した読売新聞をはじめ多くの報道が流れており、日本社会の「就活」の浸透と関心の高さを浮き彫りにする。

(2018/3/6 18:00)

就活面接3月解禁検討 経団連、21年入社から前倒し:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27763740W8A300C1MM8000/

(2018/9/5 1:31)

就活ルール見直しへ 経団連・政府・大学が協議:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34990090U8A900C1MM8000/

 大学生と大学生活、就労環境にはどのような影響をもたらしうるだろうか。そう思って検索していると、城繁幸氏の短いエントリが見つかった。短いエントリだが端的に問題を腑分けし、現状の見立てとしては筆者も概ね同意するものである。なかでも企業サイドが新卒一括採用の終焉が就活のみならず日本型雇用慣習それ自体を終わらせたいのではないかという指摘は重要だ。

経団連会長の就活ルール廃止発言の裏を読む(城繁幸)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/joshigeyuki/20180904-00095609/

 付け加えるなら、経団連の弱体化だろうか。就職協定の時代と異なり、外資系企業等のみならず、加盟各社ですら形骸化している。言い換えれば経団連が利益団体として統率することができていないということだ。経済団体や利益団体の力学が変化するなかで、存在感は相対的に沈下している。

 ただし学生のあり方について、城氏が比較的この変化を「そうならざるをえないし、学生と大学は対応するべきだ」と淡々と評している点については違和感も残る。城氏が指摘する将来が訪れたときに、しわ寄せをうけるのは誰か、ということを考えると、それはやはり必ずしも意識が高くない、言い換えれば過渡期におけるボリュームゾーンの学生だろうと推測されるからだ。

 最初から「就活とはそのようなものだ」と十分社会で認識されているならば学生も十分に備えを行うことができるし、そうすべきだ。だが過渡期の学生たちにとってはやや酷に思える。筆者も「就活ルールの廃止、新卒一括採用は経済団体が主導しながら(≒5年程度の猶予期間をおいて)、ソフトランディングのもと終わらせるほかないのではないか」ということを述べた。5年という期間は大学の学生が概ね入れ替わる期間だ。

企業の採用手法、変える時期:日本経済新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM17013_Y2A910C1000000/

 学生に甘いといえば甘いかもしれない。だが、大学教員が「大学生中心の就活」のあり方を考えないとすれば、ほかに誰が考えるのだろうか。現在でさえ、長い就活は明らかに大学における教育上のボトルネックになっている。企業は「優秀な学生を採りたい」というが、就活やインターンでこれまで以上に長く、早い時期から大学生をキャンパスから引き離すような自体が生じればこれは本末転倒というほかない。「優秀な大学生を採用したい」という個々の企業の利益にも叶わないはずだ。採用側にとっても大手が大量に内定を出してしまいかねず、また複数の内定を集められる就活に長けた学生ほど多くの内定を早期から獲得し最終的に入社しない可能性もありうる。

 新卒一括採用はドメスティックなルールであることは確かだが、それによって多くの大学生が就職できるという「グローバル・スタンダード」とは異なる利益を享受できていたし、また先行世代が享受していたことも想起したい。実際、諸外国の若年失業率は総じて高い。日本の90%を越える就職率(ただし、分母は就職希望者)の高さは特異だが、これは大学生、多くの普通の生活を送る人の利益だったことになる。就職氷河期やリーマンショックの時期でさえ、大卒者の就職率は90%前後と現在より5ポイント前後低かったに過ぎないのである。それでも社会保障制度等含めて現在にまで禍根を残す大きな問題となった。日本企業の存在感の低迷を考えると、中長期間での現状ルールの廃止は避けられないにせよ、改めて企業の採用活動と大学生が対応できるソフトランディングのあり方が模索されるべきだ。

 追記するなら、新卒一括採用の終わりは日本の大手企業の伝統的なメンバーシップ雇用に終止符を打つことになる。そうであるなら自動昇給や手厚い退職金、伝統的な企業中心の人事戦略といった雇用慣習も見直されていくだろう。そのような意味ではこれはこれから就職活動を行う学生にとどまらず、多くの労働者のキャリアに影響しうる。そのこともよく考慮しながら動向を注視したい。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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