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仙台vs盛岡 東北ダービーに敗れるも成熟していた仙台サポーター

柄谷雅紀スポーツ記者
仙台サポーターの声援は、温かく、時に厳しい(写真:田村翔/アフロスポーツ)

仙台サポーターは成熟している。そう思わせるシーンがあった。

格下に惨敗した仙台

9月3日にユアテックスタジアム仙台で行われた天皇杯2回戦でのことだ。J3盛岡との「東北ダービー」となったこの一戦。J1に定着している仙台と、J3で13位の盛岡。仙台が無難に勝ち上がることが予想されたが、結果は正反対だった。

盛岡は序盤から、ボールを持つと人数をかけて積極的に攻めてきた。それに対し、仙台は寄せが甘かった。前半13分、サイドを起点に守備を崩されて先制を許す。5分後に追い付いたが、前半26分に勝ち越され、前半32分にも失点。後半も劣勢を覆すことはできず、2-5で完敗した。格下相手に一度もリードを奪えず、サポーターにとってはフラストレーションが溜まる試合だったはずだ。

それを象徴するように、前半終了時にはブーイングが行われた。大勢が決した後半30分ごろからは、ゴール裏に20枚近くあった横断幕の撤収作業が始められ、試合終了までにはきれいになくなっていた。そして、試合後の挨拶に仙台の選手、スタッフが来ると、激しいブーイングがスタジアムに鳴り響いた。

ブーイングと拍手

しかし、ブーイングばかりだったわけではない。盛岡に対しては、黄色い仙台のユニフォームを着たサポーターからも大きな拍手が送られた。「盛岡いいぞ!」という声も聞こえ、盛岡の選手のヒーローインタビューが終わった後も、盛岡サポーターはもちろん、仙台サポーターからの拍手も鳴り止まなかった。

盛岡はボールを持った選手の前への意識が高かった。「縦に刺す」という攻撃コンセプトの下、少ないタッチでゴールに迫る攻撃には迫力があり、見ていてワクワクさせられた。球際での競り合いにも強く、高い位置からプレッシャーをかける姿に「闘志」と「魂」を感じた。それは確かに、拍手を送るに値するプレーだった。

それでも、である。仙台サポーターにとっては、自分たちがひいきにするチームが格下に完敗し、はらわたが煮えくりかえっている状態だ。そんな中で相手チームをたたえることはそうそうできることではない。ましてや隣県同士の東北ダービーである。東北6県で唯一のJ1クラブという矜恃もあったに違いない。そういうものも全てひっくるめ、仙台サポーターは敗者となった仙台には厳しいブーイングを、ジャイアントキリングを達成した盛岡には温かい祝福の拍手を送った。

「仙台サポーターっていいなぁ」。そんな何とも言えない幸せな気分になった試合だった。

スポーツ記者

1985年生まれ、大阪府箕面市出身。中学から始めたバレーボールにのめり込み、大学までバレー一筋。筑波大バレー部でプレーした。2008年に大手新聞社に入社し、新潟、横浜、東京社会部で事件、事故、裁判を担当。新潟時代の2009年、高校野球担当として夏の甲子園で準優勝した日本文理を密着取材した。2013年に大手通信社へ。プロ野球やJリーグの取材を経て、2018年平昌五輪、2019年ジャカルタ・アジア大会、2021年東京五輪、2022年北京五輪を現地で取材。バレーボールの取材は2015年W杯から本格的に開始。冬はスキーを取材する。スポーツのおもしろさをわかりやすく伝えたいと奮闘中。

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