外貨不足の北朝鮮が手を染める違法ビジネスの実態…ミサイルから覚せい剤、バイアグラまで
バングラデシュで、北朝鮮の外交官が酒やバイアグラ210錠などを無許可で販売していた容疑で摘発されたと地元の有力紙プロトムアロが報道した。
3月にも北朝鮮外交官が、27キログラムの金を無申告でに持ち込もうとして摘発されているが、彼らが危険を冒してまで違法行為に手を染める理由はふたつある。
まず、財政難の本国が大使館の維持費すらろくに送って寄こさないために、運営資金を自ら稼がねばならないからだ。さらに、国家指導者のための秘密資金、すなわち金正恩氏を頂点とする金一族への上納金づくりが重要な職務になる。
一説によると「米韓両国が把握しているのは50億ドル(約4900億円)」とも言われているが、この資金がいかにしてつくられたのかを知る手がかりになる資料がある。
こうした秘密資金づくりの中心人物が、駐スイス大使の李徹(リ・チョル)。正日氏の3人の息子たち、正男(ジョンナム)、正哲(ジョンチョル)、正恩のスイス留学時に、世話人となり、「ロイヤルファミリーの金庫番」といわれた人物だ。
本名を李洙ヨン(リ・スヨン)といい、2010年にスイス大使を離任して帰国したが、2014年3月には外相に就任した。ここからも金正恩氏に並々ならぬ信頼を得ていることがわかる。
報告書によると、李徹は麻薬取引だけなく、欧米の犯罪組織からアングラマネーのロンダリング(洗浄)を請け負っていた。さらに、中東諸国などのイスラム圏と武器取引を通じて秘密資金づくりに励んできた。
北朝鮮は国産スカッドとノドンをエジプト、シリア、リビア、イエメン、イラン、パキスタンなどの国々に輸出し、戦車や歩兵用火器なども大量に売って来た。シリアとは、核開発で協力関係にあったことが指摘されている。
北朝鮮と中東諸国の武器取引の実態について、脱北した元北朝鮮外交官は、次のように話す。
「北朝鮮の外交官で最も優秀な面々は、対米部門や国連代表部を志望する『戦士タイプ』だ。次に優秀なグループが、中東に赴く『商人タイプ』だ。武器取引で外貨(上納金)を稼ぎ、上層部に取り入るのが上手い」
李徹こと李洙ヨンは、まさにスイスを拠点とした秘密資金稼づぐりに暗躍し、今の地位に登り詰めた人物と見られている。ただし、外貨稼ぎが思わぬ自業自得となって返ってくるケースもある。それが、覚せい剤ビジネスだ。
こうした北朝鮮絡みの覚せい剤事件は、たびたび起きているが、流通拠点となる中国側が近年厳しくなったことから、かつてほどの鳴りを潜めている。その影響で、余剰覚せい剤が国内に出回り、中毒者が増えるという北朝鮮にとっては皮肉な結果を招いている。
こうした事態に焦った北朝鮮当局も、司法機関を総動員して麻薬犯罪を摘発しているが、効果がなく殺人事件など麻薬がらみの事件が続発している。
いずれにせよ、こうした違法手段で集められた秘密資金は、金一族の贅沢品を購入する資金になるだけでなく、幹部たちを手なずける統治資金になる。ただし、米国の制裁や国際社会の目も厳しいことから、年々厳しくなっている。
なによりも、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)という看板を背負い、本来エリートであるはずの外交官たちが違法ビジネスに手を染め、時には摘発されているようでは、この先も健全な国家運営など出来るはずもないことを金正恩体制は知るべきだ。