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メーガン妃インタビューで英メディア界に激震 著名司会者、メディア団体幹部の辞任劇を辿る

小林恭子ジャーナリスト
「グッド・モーニング・ブリテン」の司会者だった、ピアーズ・モーガン氏(左)(写真:REX/アフロ)

(3月23日発行の「新聞協会報」掲載の筆者コラムに加筆しました。)

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 エリザベス英女王の孫ヘンリー王子とその妻メーガン妃が米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏のインタビュー番組(米CBSで7日、英ITVで8日放送)の中で王室の内情を暴露し、英国内外に大きな波紋が広がった。

 番組内で、メーガン妃は結婚後、自殺を考えるほど孤独を感じていたことや、長男アーチー君の妊娠中に王室内で「子供の肌がどれほど黒くなるかについて言及があった」ことなどを赤裸々に語った。

 ヘンリー王子は米国移住について、英大衆紙の人種差別的な報道が「大きな理由だった」と明かした。大衆紙には偏見があり、有害な環境を生み出しているとも述べた。父チャールズ皇太子や兄ウイリアム王子との関係悪化も話題にした。

 メーガン妃は元女優でアフリカ系の血を引く米国人。2018年に結婚した王子夫妻は昨年3月末に公務を引退した後、米国で暮らしている。

 9日付の保守系メディアは、王子夫妻の行動を批判的に報道した。高級紙テレグラフのコラムニストは「女王に対する侮辱だ」と書き、大衆紙デイリー・メールは1面に「なんてことをしてくれたんだ」という大見出しを付けた。

 ITVの朝の情報番組「グッド・モーニング・ブリテン」の人気司会者ピアーズ・モーガン氏は、メーガン妃を突き放した発言で視聴者の反感を買い、降板に追い込まれた。元大衆紙編集長のモーガン氏は歯に衣着せぬ論評で知られ、ツイッターのフォロワーは790万人を超える

圧倒的な数のフォロワーを持つ、モーガン氏のツイッター画面(ツイッターのサイトより)
圧倒的な数のフォロワーを持つ、モーガン氏のツイッター画面(ツイッターのサイトより)

 問題となったのは8日の放送。メーガン妃が自殺を考えるほど苦しんだと吐露した場面の後、モーガン氏は「メーガン妃の言うことは一言も信じない」と述べた。翌日の放送では、共同司会者の1人がモーガン氏のコメントを強く批判。モーガン氏が一時スタジオを出る一幕があった。

 通信・放送業の監督機関オフコムには、9日夕方までに4万1千件以上の苦情が殺到した。オフコムはモーガン氏の発言が「危害・侮辱」を禁じる放送基準に違反するかどうか調査に乗り出した。

 ITVは同日夜、モーガン氏の降板を発表。英国では近年、メンタルヘルスを大きな社会問題として捉える動きがある。メーガン妃の心の悩みを取るに足らないものとして一蹴したことが重くみられ、事態を急展開させたようだ。

「偏見はない」と一蹴した業界幹部が辞任

 英国メディア約400社の編集幹部が加盟する編集者協会でも辞任劇があった。

 編集者協会は8日、ウィンフリー氏の番組が英国で放送される数時間前に、王子夫妻が番組の中で大衆紙を「(人種差別的)偏見がある」と評したことへの反論声明を発表。「英国のメディアは偏見を持っていない」とし、王子夫妻に攻撃されても、権力者に説明責任を果たさせる役割は変わらないと記した。

 また、夫妻が「英国のメディアが人種差別の一端を担っていると感じる」と語ったことに関し「偏見はない」、「夫妻が根拠を示さずこのような主張をしたことは受け入れられない」とするイアン・マレー事務局長のコメントを添えた。マレー氏はその後、複数の放送局に取材を受けた際も「偏見はない」と繰り返した。

 この声明はすぐに業界内から反発を招く。BBC、チャンネル4などの放送局、ガーディアン、フィナンシャル・タイムズなどの新聞各紙で働く約240人のジャーナリストや編集者、学者らが9日、連名で公開書簡を出した。

 「英新聞界に偏見は一切ないと言い切るのは滑稽だ。現状を否定している」、「編集者協会は人種差別的報道を抑止する方策について、オープンで建設的な議論を始めるべきだ」などと指摘した。

 マレー氏は10日、辞任した。また、編集者協会のウェブサイトに掲載された声明には「意図を明確にするため」として次の文章が追加された。

 「メディアの多様性と受容性を改善するために、やるべきことがたくさんある。声明への反応が引き起こした影響を顧みて、私たちの行動が問題解決の一部になるようにしたい」。

 編集者協会は31日、優れたジャーナリズムを顕彰する「全英プレスアワード」のセレモニーをオンライン開催する予定だ。しかし、先の声明に反発したITVのニュース番組の司会者がセレモニーの進行役を辞退し、大衆紙デイリー・ミラーを含む複数の新聞が参加を取りやめている。

 マレー氏に続き、編集者協会の理事の一人で、元サンデー・タイムズの編集幹部エレノア・ミルズさんも辞任した。協会のこれまでの声明文に「失望した」という。

「多様性に欠ける、ニュースの編集室」

 ミルズさんの辞任表明文書は、英国の報道機関が多様性に欠けていることを指摘した。

 昨年8月、ミルズさんは「ジャーナリズム界の女性たち」というテーマの会議で司会を務めた。この時紹介された調査によると、調査対象となった1週間の中で、1面に黒人記者による記事が掲載されていた新聞は1つもなかったという。

 「英国の新聞は英国社会を真に反映していない。新聞編集の決定権を持つ人や原稿を書く人が人口構成を反映していないのであれば、新聞はゆがんだレンズのようなものだ」。

 「英国の新聞社の編集室には慢性的に多様性が欠けている。有色人種の市民は編集上の決定権を持つ位置におらず、このため、メディア界には構造的な人種差別主義があると思う」。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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