Yahoo!ニュース

人口だけでない自治体の大きな課題 益々拡大する社会的基盤維持管理費の都道府県ランキング

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

公共事業・公共施設を取り巻く現状

図表1: 維持管理・更新費の将来見通し   (兆円)

画像

(出典)国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」中間取りまとめ 概要

統一地方選挙まで、あと半年となり、地方政治に関わる人たちも動き初めて来た。

現職の地方議員や地方議員をめざす方々からお話もいただく。こうした方々には、コンサルなども含めて、対応するので、ご相談に来て頂ければと思うが、地方自治に求められる事も、また取り巻く環境も、この間、大きく変わっている。

地方政治を担う立場に立つ方々はもちろんだが、こうした地方議員を選ぶ事になる有権者のみなさんにも、自治体のおかれている現状と課題について共有して頂けないかと思っている。

こうした事から、今回は、自治体の議員向けに書いたコラムを加筆して、公共施設や公共事業などといった社会基盤の維持管理費と更新費が、今後どういう状況になって行くかという事について紹介していく。

2012年に中央自動車道で、笹子トンネル天井板落下事故が起こった事は、記憶に新しい。日本の高速道路上での事故としては、死亡者数が史上最多の事故となった。この事故にはもちろん様々な要因があったのだろうが、その1つに、トンネル自体の老朽化があったと言われている。全国に造られたトンネル、橋梁はじめ、様々な社会基盤には、同時期、場合によってはそれ以前に造られたものが数多ある。こうした事故は、決して単なる偶然の産物というものではなく、同じ様に第2、第3の笹子トンネルが出かねない状況にある事を認識しなければならない。

図表1は、耐朽年数を迎えた社会基盤の構造物を現状と同一機能で更新すると仮定した場合、現在ある社会基盤ストックの維持管理費と更新費がどうなって行くかを示したものだ。

2010年までは実績、2011年以降は推計値になっているが、グラフ最初の1960年代から「維持管理費と更新費(以下、維持管理更新費)」は常に上がり続け、2030年頃には2010年時からの比較でも約2倍にまで膨らむと予想されている。

単純化して説明すれば、これまでは新規で社会基盤を整備し続けてきたが、今後は「維持管理更新費」にそのほとんどを費やさなければならなくなるため、新規での基盤整備や建設の余地はほとんどない時代に入っていくという事だ。

社会的基盤の更新維持費の負担は、地方に行けば行く程多くなる

図表2: 都道府県別人口と人口一人当たりのストック額と維持更新費(2010年)

画像

(出典)国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」中間取りまとめ 概要

図表3: 都道府県別人口と人口一人当たりのストック額と維持更新費(2030年)

画像

(出典)国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」中間取りまとめ 概要

図表4: 都道府県別人口と人口一人当たりのストック額と維持更新費(2050年)

画像

(出典)国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」中間取りまとめ 概要

こうした「維持管理更新費」の将来負担は、都市よりも地方ほどその負担割合が大きい事も分かっている。

都道府県別の人口1人当たりの「維持管理更新費」は、人口の多い県の負担より、人口の少ない県においての負担の方が大きく、例えば、人口が最も多く1,291万人の東京都の場合、人口1人当たりの維持更新費は64,000円、人口1人当たりのストック額は430万円に過ぎないが、人口が最も少なく60万人の鳥取県では、人口1人当たりの維持更新費は92,000円、人口1人当たりのストック額は1,000万円にも及ぶ。

ちなみに、最も負担が大きいのは、島根県で、人口1人当たりの維持更新費は107,000円、人口1人当たりのストック額は1,230万円にもなる。

しかし、こうした地方を取り巻く問題で、さらに深刻なのは、こうした地方における「維持管理更新費」の負担は、年々増えて行くのはもちろん、都市部に輪をかけて、地方に行けば行く程顕著に増加するとされている事だ。この事は、図2〜4によって、2010年から2030年、さらに2050年と比較して見るとよく分かる。

最も影響の少ない東京都から見ていこう。人口1人当たり維持更新費の増加が一番小さな東京でさえも、64,000円だったものが、100,000円、102,000円と1.6倍程度も増加している。

しかしこれが人口の少ない自治体では、比べ物にならない程大きく膨らむ。最も影響が大きいのは、島根県で、2010年に107,000円だった人口1人当たりの維持更新費は、2030年に284,000円、2050年には374,000円と3.5倍にまで増加する。

2050年の人口1人当たりの維持更新費が高い都道府県から紹介していくと、この島根県に続いて高いのは秋田県で、2010年に88,000円だったものが、226,000円、347,000円と3.9倍となる。

以下、高知県は、84,000円が、219,000円、324,000円と3.9倍。

北海道は、92,000円が、210,000円、281,000円と3.1倍。

徳島県は、84,000円が、184,000円、280,000円と3.3倍。

鳥取県は、92,000円が、208,000円、268,000円と2.9倍。

新潟県は、82,000円が、185,000円、259,000円と3.1倍。

岩手県は、76,000円が、200,000円、253,000円と3.3倍。

福井県は、78,000円が、200,000円、246,000円と3.1倍。

長崎県は、68,000円が、156,000円、243,000円と3.6倍と並ぶ。

今回は、字数の関係で維持管理更新費に注目したが、実際にはストック額についても共有してもらえればと思う。

こうした問題は、決して都道府県レベルの話という訳ではなく、当然、市区町村でも同様な問題が起きている。それぞれの基礎自治体においても、同様にこうしたデータを準備しながら、自治体における社会的基盤、公共施設などについて、データに基づく戦略的な計画が求められる様になる。その具体化においては、費用の確保、効率的な維持管理・更新の方策など、さらなる検討が必要になる。

冒頭で笹子の例を出したが、社会基盤ストックの維持管理や更新が適切に実施できない場合は、こうした構造物の機能や安全性は低下するため、自治体なども計画的な維持補修や長寿命化等によりどうやって維持管理費や更新費の平準化を図るかが重要になる。また、その際には、将来の都市または地域の持続可能な成長や魅力の向上等をはかる必要があり、単純に更新を行うだけではない社会基盤の維持管理と更新のあり方に関しても積極的なスクラップアンドビルドや統合といった戦略も含め、また、PPP(Public Private Partnership)など民間活力の活用、連携といった手法など、これまでの常識に捕われない発想やイノベーションが求められている。

是非、こうした事も含め、地方現場からこそ、積極的に知恵を出してもらえればと思う。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

高橋亮平の最近の記事