キャッシュレスはマネーのペーパーレス化と考えれば普及は進むか
日本金融学会2018年度秋季大会における日銀の雨宮副総裁の特別講演「マネーの将来」が日銀のサイトにアップされた。この内容がいろいろと興味深い。
たとえばビットコインなどの「暗号資産」が円などのいわゆるソブリンマネーを凌駕するのかについては下記のように雨宮副総裁は指摘している。
「暗号資産がソブリン通貨を凌駕して使われるためには、既に確立されている中央銀行の信用と競わなければなりません。しかしながら、暗号資産は、信用をゼロから築き上げるために、取引の検証 ― マイニング ― のための膨大な計算や、これに伴う大量の電力消費などのコストがかかります。このような制約を持つ暗号資産が支払決済に広く使われていく上でのハードルは、相当高いように思われます。現在、暗号資産が日常の支払決済手段としては殆ど使われず、専ら投機的な投資の対象となっている姿も、このことを裏付けているように思います。」
ビットコインなどがソブリンマネーに置き換わる可能性は、ソブリンマネーの信用力が著しく低下した国などではさておき、日本などで起きることはまずあり得ない。ただし、暗号資産ではなく決済としてのキャッシュレス化については今後、進展するであろうことは確かである。
「マネーの本質が信用にある以上、それが必ずしも金属や紙という形をとる必然性はないと考えられます。・・・これまでマネーの媒体として広く使われてきた「紙」は、情報やデータを「書き込み」、「伝達し」、「表示する」という機能を併せ持つ、人類の偉大な発明の一つであり、だからこそマネーや証券の媒体として広く使われてきました。しかし現在では、情報やデータの書き込みや伝達をデジタル技術で行い、これをスマートフォンやPC上に表示することが、より容易になっています。」
いわゆるペーパーレス化がマネーの世界でも起きつつあることが示されている。すでに国債などの債券、株式などではペーパーレス化は進んでいる。さらにここにきて公的文書などでもペーパーレス化が検討されている。
自民、公明両党は19日、参院の経費削減策を検討する作業チームの会合で、文書のペーパーレス化を進める方針で一致したと報じられた。実は日銀そのものもペーパーレス化が遅れているとの指摘もあるが、文書のペーパーレス化は今後、公的なものを含めて進展すると予想され、それがマネーの世界でも同様の動きとなってもしかるべきか。それは下記のような雨宮副総裁の指摘のように利便性ももたらす。
「技術革新や、eコマースなどデジタル・ベースで行われる経済取引の発達などに伴い、キャッシュレス化が人々の生活の利便性向上に結び付く局面も増えています。例えば、電子マネーやETCの普及により、駅の改札や券売機、料金所などの混雑は、かなり緩和されたように思えます。現金からキャッシュレス手段への移行局面では様々なハードルもある訳ですが、人々が、例えば「支払のために列を作って待たなくても良い」といった利便性を実感するにつれ、キャッシュレス化の勢いは増していくでしょう。」
それだけではなく、キャッシュレス化によって蓄積されるデータが「21世紀の石油」として、付加価値を生み出すアセットとしての性格を強める点も雨宮副総裁は指摘している。ただし、災害時における停電などによってキャッシュレス決済ができなくなる恐れもあるなど、特に自然災害の多い日本では、ある程度の現金決済は残っていくことも予想される。