採用面接担当者にとってと、候補者にとってとでは、「わかりやすさ」の概念はまったく違うことにご注意。
■「わかりやすく話しなさい」とは言うけれど
新卒でも中途採用でも、面接を受ける際に誰かにアドバイスを受けると、必ずと言ってよいほど「わかりやすく話すこと」と言われます。この言葉自体は至極当然で、「わかりにくく」話すよりは「わかりやすく」話す方が確かに良いに決まっています。しかし、採用面接担当者を長年やってきた身から言いますと、問題はその「わかりやすさ」の意味なのです。
■候補者は「理解できること」と考えている
多くの候補者は、「わかりやすい」の意味を、相手が「理解」=「理屈で解する」できることと考えているようです。そのため、「自己紹介を」と問われると、「私は達成意欲が高く、一度決めた目標は必ずやり遂げようとするタイプの人間です。それだけは誰にも負けません」というように答えます。確かに、この話を「理解できない」という面接担当者はいないでしょう。意味は確かにわかります。しかし、この回答では、採用面接という場ではダメなのです。
■面接官は「イメージできること」と考えている
それは、面接担当者側では「わかりやすい」の意味を、相手が言っていることがシーン(場面)として「具体的にイメージできるか」と考えているからです。と言うのも、採用面接の基本は、「事実から相手の性格や能力を推測すること」であり、抽象的で主観的な「意見」は参考情報とみなすからです。ですから、いくら言語明瞭に話されても、そこに具体性がなければ信憑性の高い評価情報とはなりません。
■具体的!具体的!具体的!
そうなると、候補者側に対する真のアドバイスは変わります。ものすごく単純なのですが、「とにかく具体的に話すこと」です。「アルバイトは何をしていましたか?」と聞かれたら「飲食店です」ではなく「1日1000人のお客様が来る東京駅のスターバックスで店長とアルバイト3人で週3日程度3年間やっていました」と答えるということです。
■数字、固有名詞を使い、形容詞や比喩はあまり使わない
具体的に話すということを言い換えれば、数字にできることは数字で表現し、誰もがわかる固有名詞は積極的に使い、形容詞や比喩は極力避けるというようなことです。「大きい店」と言わず「100席ある店」と言い、「コミュニケーションに壁があった」と言わず「これこれこういう言い争いがあった/無視し合う関係であった」と言うということです。そうすれば、勝手な印象を抱かれることなく、候補者が伝えたい情景を面接担当者にイメージしてもらえるはずです。
■そもそも自己紹介とは自己の経歴の紹介
採用面接とは、入社したい会社に自己紹介をして、適否を判断してもらうものです(もちろん、候補者が会社を判断する場でもあります)。そこで考えてみていただきたいのですが、皆さんは日常ではどういう自己紹介をしていますでしょうか。きっと「こういう場でこういうことをやってきたこういう者です」と経歴を話すことでしょう。誰も「強みは3つで・・・」とか「キャッチフレーズは・・・」とか話すことはないでしょう。
■面接官は解釈し評価するのが仕事。こちらがする必要はない
採用面接もこれと全く同じで、「自己紹介(自己PR)をしてください」と言われても、経歴を具体的にイメージできるような表現ですればよいのではないでしょうか。そもそも「自分とはこんな人」という抽象的な解釈をするのは面接担当者の仕事であり、候補者が自分で行う必要は必ずしもありません。むしろ、限られた時間を使うのであれば、いかに自分についての具体的な情報を多く伝えるかに注力する方が、結果として自分を理解してもらえる可能性は高まるのです。