救護中、他車にひかれて2人死亡 後続車に危険知らせる大切さと母の無念
9月10日未明、茨城県龍ケ崎市で28歳の男性が複数の車にひかれて死亡する事故が発生しました。その後、警察は現場を走行していた会社員(43)と、タクシー運転手(55)、そして飲食店店長(40)の3人を過失運転致死の疑いなどで逮捕しました。
<茨城の死亡ひき逃げ、タクシー運転手ら逮捕 「人ではないと思った」(2022年9月12日/朝日新聞デジタル)>
上記記事によれば、3人のうち2人の容疑者はいずれも「何かにぶつかったが、人ではないと思った」と容疑を否認しているそうです。しかし、衝突の衝撃を感じたのであれば、「人かもしれない」のですから、必ず停止して、現場を確認すべきでしょう。
■救護中の事故で息子を失った母
「龍ヶ崎市で起こったひき逃げ死亡事故の報道を目にし、思わず息子の事故のことを思い出してとても辛くなりました。もし、1台目の車がすぐに停止して後続車に危険を知らせていれば、被害者の男性は2台目、3台目の車にひかれることなく、もしかすると命が助かったかもしれない……、そう思うといたたまれません」
そう語るのは、福岡県の平井沙紀さん(45)です。
沙紀さんは昨年、息子の直哉さん(当時21)を事故で失いました。
「ひき逃げ」ではありませんでしたが、1台目の車に衝突された直後、現場交差点に進入してきた2台目の車にひかれて致命傷を負い、命を奪われたのです。
事故は、2021年2月11日、午後8時15分頃、熊本県天草市本渡町の小松原交差点で発生しました。
この日、現場交差点の前にある牛丼チェーン店でアルバイトを終えた直哉さんは、自宅に帰るため青信号に従って横断歩道を渡っていました。そのとき、右折してきた軽乗用車が、直哉さんを見落として衝突したのです。
軽乗用車を運転していたA氏(当時60)は、事故後、すぐにハザードランプをつけて自車を店の前に停め、交差点の中央に倒れていた直哉さんに駆け寄りました。
ところが、A氏が直哉さんを救護しようとしたそのとき、今度は青信号で交差点に進入してきた軽ワゴン車が、ノーブレーキで2人をはねたのです。
■第1事故から1分23秒後に起こった第2事故
A氏はその衝撃ではね飛ばされ、直哉さんは軽ワゴン車の下に巻き込まれるかたちで数メートル引きずられました。
2人はすぐに救急病院へ搬送されましたが、間もなく死亡。軽ワゴン車を運転していたB氏(当時54)は、自動車運転処罰法違反の疑いで現行犯逮捕されました。
2人が死亡した「第2の事故」が発生したのは、第1の事故から1分23秒後のことでした。
*動画(死亡事故の現場で状況を説明する母の沙紀さん)
A氏の車のドライブレコーダーに残っていた映像を確認したという沙紀さんは、こう振り返ります。
「そこには、青信号に従って横断歩道を歩く直哉の最後の姿が映っていました。右折車に衝突された直哉はそのはずみで道路に転倒しましたが、おそらくあの時点では命に別状はなかったと思います。それだけに、悔しいんです。なぜB氏は交差点の真ん中にいる2人の姿に気がつかなかったのか。青信号だったとはいえ、前方さえしっかり見てくれていれば……」
遺族は刑事裁判で真実が明らかにされることを望んでいましたが、結果は不起訴でした。
■後続車に危険を知らせることの大切さ
一方で沙紀さんは、最初に事故を起こしたA氏が、発炎筒などでいち早く後続車に危険を知らせていれば、今回のような重大な二次事故は防ぐことができたかもしれない……、そう思うこともあるといいます。
発炎筒(自動車用緊急保安炎筒)は法令によって、「運転手から目視できる場所」に搭載が義務づけられています。発炎筒が搭載されていなければ車検を通すことはできません。
大抵は車のドアポケットや助手席の足元などに固定されているはずですが、あなたは「発炎筒が車内のどの場所にあるか認識していますか?」と聞かれて、即答できるでしょうか。
また、事故やトラブルを起こしてパニックになっているとき、わずか数十秒で滅多に使用しない発炎筒をうまく発火させることができるでしょうか。
発炎筒はマッチのように擦って発火させ、使用するものです。平成以降の若い世代の中には、そもそも「マッチ」というものを擦った経験がない人も多いかもしれませんが、発炎筒のキャップを外し、本体の盛り上がった部分をキャップの裏にある擦り板でこするだけでOKです。
火が点いたら、事故車から50メートルほど離し、後続車からよく見える場所に置いてください。
使い方がわからず不安な人は、この機会に一度予行演習をしておくとよいかもしれません。カー用品店などに行けば、1000円前後で購入できます。
また、発炎筒以外にもLEDの非常信号灯や三角停止板など、さまざまな種類の用具が販売されていますので、万一のときすぐに使えるよう、日ごろから準備しておくことが大切です。
「ひき逃げ」は論外ですが、被害者の救護中にもこうした重大な二次事故が発生しています。
特に夜間は見通しが悪くなりがちですが、発炎筒の赤い煙は、暗闇の中で2キロ手前から確認できるそうです。持続時間は5分程度ですが、車の流れの速い道路や高速道路では、事故直後の秒単位の判断が危険の回避につながるといえるでしょう。
沙紀さんは語ります。
「息子は将来、アフリカでインフラ整備に携わりたいという夢を抱き、アルバイトに精を出していました。それなのに、まさかこのようなかたちで人生を終えることになるなんて想像もできませんでした。懸命に歩もうとしていた彼の死が無駄にならないよう、ぜひ多くの方にこうした事故の危険性を知っていただき、二次事故の回避方法について考えていただきたいと思います」