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「メッセンジャー」黒田有が恐れる“無言のバリア”。そして、今噛みしめる「丸くなる」ことの正体

中西正男芸能記者
ラジオドラマに主演するなど仕事の幅が広がる中、今の思いを吐露した黒田有さん

 NHK朝の連続テレビ小説「ブギウギ」での好演でも話題になった漫才コンビ「メッセンジャー」の黒田有さん(54)。10月12日放送のNHK FMのラジオドラマ「大将のブルース」に主演するなど新たな一歩を踏み出してもいます。50代半ばに差し掛かり、自分のイメージについて深く考えることも増えたといいます。

無言のバリア

 まさか、自分が朝ドラに出してもらうなんてね。全く思ってもなかったことやったんですけど、やっぱりすごいもんですね。全国でたくさんの方が見てくださっていますし、特に年配の方からお声をいただくことが増えました。

 今回させてもらうラジオドラマもそうですし、仕事の幅が広がった。そこは確実に言えることだと思います。

 自分でもイメージしてなかったお仕事をいただける。これはね、本当にありがたいことです。それと同時に、イメージということの難しさも感じます。

 今までロケに行くことがあまりなかったんですけど、別に僕が「ロケなんか絶対にイヤや!」と言ってたわけでないんです。なんとなく「黒田はロケとか嫌がるだろう」というイメージがあって、スタッフさんたちの会議でそんな話が出ても、自ずと「どうせ、ロケとかしないだろうから」とその選択肢がカットされていく。

 それが去年、今年くらいですかね、ロケが急に増えだしたんです。さらに街ブラの番組「大阪おっさんぽ」(テレビ大阪)の司会まで今月からさせてもらうことになって。これってなんなんやろうなと。

 今まで“無言のバリア”みたいなものがあったんですかね。ホンマに僕がそれを嫌がっていたら当然のバリアなんですけど、そんな気もないのにバリアが張られていたら、まさに損ですからね。

東野幸治からの学び

 朝ドラで皆さんのイメージが変わったのか。もしかしたら、そういう部分もあるかもしれませんし、あと、今回ラジオドラマにも特別に出ていただく東野幸治さんの影響もあるのかもしれません。

 僕はあまり影響を受けないタイプの人間だと思ってはいるんですけど、それでも東野さんとお仕事をさせていただくと「こういうことか」と思うことが多々あります。

 もうこの10年ほど関西テレビ「ちゃちゃ入れマンデー」で東野さんとはご一緒させてもらっていますし、今年2月には読売テレビの企画で僕の生前葬をすることになり、その発起人も務めていただきました。

 若い頃は全く絡んでないですし、昔の東野さんの写真を見ていると狂気に満ちた顔をされてますからね。僕が言うのは生意気な話ですけど、10年ほど前からご一緒させてもらって、その頃には「整形したんちゃうか…」と思うくらいやさしい顔になってました(笑)。

 これも僕が言うのは烏滸がましい話ですけど、人とのバランスの取り方。接し方。この塩梅が絶妙だなと。そして、とにかく現場の空気を明るくする。初出演のゲストの方がいたら、収録前にサッと中和する。空気が滞っているところがあったら、スッとほぐしておく。

 僕と東野さんは違う人間なので、もちろん全部を取り入れるなんてことはできないんですけど、そうやって空気を見ることは改めて意識した部分だと思います。

 仕事が変わるということは、こっちのイメージが変わったということなのかもしれませんけど、ここがなかなか自分の意志でどうこうなるもんじゃない。それも感じています。

「丸くなる」ことの正体

 朝ドラの話をいただくように、思いがけないことがあるのも事実です。若い頃はとにかく前に進む。自分の脳と足で目の前の岩盤を掘って進む。そうやってきた意識があるんですけど、ここにきて「立ち止まる」ことも大切なのかなと今は思っています。何もしないわけではなく、与えられる仕事を待ってみる。それも面白いことなのかなと。

 僕らの世界では「丸くなる」ということはあまり褒められたことではない。そんな感覚があるんです。何歳になっても、何をしでかすか分からない香りがあったほうがいいですし。

 「丸くなる」ということを嫌う思いがあったんですけど、もしかしたら、こうやって待ちの体勢を楽しんでみる。それが「丸くなる」の正体なのかなとも感じます。

 それこそ、僕がまだ若手の頃に、先日亡くなられた桂ざこば師匠と二人で飲みに行かせてもらったことがあったんです。そこで師匠から「君らくらいの年代やったら、どんなことが面白いと思うの?」と尋ねられまして。当時若手同士でよくやっていた言葉遊びみたいなことをお伝えしたら「なるほど、僕らはそんな発想すらないわ」と言って、それを僕と一緒にこれでもかとやってくださったんです。

 自分の場所でだけ居座るのではなく、階段をひょいと降りる。東野さんもそうされているのかもしれませんし、今になってざこば師匠のすごさを改めて感じる年齢にもなったのかなとも思います。

 この仕事を始めた頃の自分が今の自分を見たら、ガッカリするのかもしれませんけどね。「丸くなりやがって!しょうもない!」と(笑)。

 ただ、その年齢、年齢で分かることがある。歳を取ることにはネガティブなイメージもあるのかもしれませんけど、こんな意味もあるんやなぁと噛みしめてもいます。

(撮影・中西正男)

■黒田有(くろだ・たもつ)

1970年1月29日生まれ。大阪府東大阪市出身。板前を経て、91年にNSC大阪校10期生の同期、あいはらと漫才コンビ「メッセンジャー」を結成。コンビとして上方漫才大賞、上方お笑い大賞など受賞多数。関西テレビ「ちゃちゃ入れマンデー」「旬感LIVE とれたてっ!」、MBSテレビ「よんチャンTV」、MBSラジオ「それゆけ!メッセンジャー」などに出演中。YouTubeチャンネル「くろだ煮」も展開している。NHK FMのラジオドラマ「大将のブルース」(10月12日午後10時~10時50分、作・村角太洋)で主役の居酒屋店主を演じる。出演は黒田のほか、北野秀気、隅田美保、ボブ・マーサム、川口詩織、安部洋花、サーシャ、山本浩之、東野幸治。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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