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松山英樹は不安と戦い、星野陸也は緊張と戦った初日。残り3日間に求められるものとは?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 7月29日、早朝7時30分。五輪ゴルフの会場、霞が関カンツリー倶楽部(埼玉県)の1番ティは、ピンと張り詰めた空気に包まれていた。

 無観客試合とはいえ、1番ティの周囲には、大会関係者や世界各国のメディア、大勢のボランティアが立ち並んでいた。

【五輪ゴルフの第1打に緊張した星野】

 そんな衆人環視の下で、トップスタートを切る第1組の星野陸也とトーマス・ピータース(ベルギー)、セップ・ストラカ(オーストリア)は、みな緊張の面持ち。とりわけ、オナーとして第1打を打つ星野の表情は遠目にもわかるほど硬かった。

 それもそのはず。五輪でゴルフが行なわれるのは、この東京五輪が史上わずか4度目(1900、1904、2016、2021年)にすぎず、日本が「五輪のゴルフ」を母国で迎えるのは史上初。だからこそ、誰もが固唾を飲んで見守っていた。

 3番ウッドを握った星野は「ツアー1年目の初日の1番のティショットよりも緊張した」と振り返ったが、それでも堂々フェアウエイを捉えた。日本開催の五輪だからこそ授かったオナーの任務をしっかり果たした姿は立派だった。

 しかし、同組の2人がぐんぐんスコアを伸ばし、ストラカが8アンダー、ピータースも6アンダーでリーダーボードをぐんぐん昇っていった傍らで、星野は3番でバーディーを先行させたものの、4番でボギー、バンカーにつかまった6番ではダブルボギーを喫し、大きく躓いた。

 とはいえ、そこから2つスコアを伸ばし、イーブンパーまで戻した。順位こそ41位タイと出遅れた感があるが、彼が見せた踏ん張りは立派だった。

「ずっと緊張していた。前半のトラブルからは、いい流れになかなか持っていけず、悔しかったけど、そこからイーブンに戻せたので、まだまだ(先は)あるんだと思えた。今日はパー5もしっかり取れた。ティショットはほぼ完璧だった。明日はいいプレーをして、1つでもいいスコアで上がりたい」

【ノー・エクスキューズの松山英樹】

 日本のエース、松山英樹は、7月上旬にコロナ陽性となり、米国フロリダ州内の自宅で10日間以上の隔離生活を経て、22日にようやく帰国。なんとか東京五輪に間に合ったという滑り込みで初日を迎えた。

 開幕前の会見では「不安もあるけど楽しみな五輪になると思う」と気丈に語っていたが、コロナ感染後に一度も試合を経ずして、母国の大きな期待を背負いながら五輪の1番ティに立つことは、胸が潰れそうになるほど不安だったのではないだろうか。

 それでも松山は、前半に4バーディーを奪い、3位タイへ浮上した。しかし、9番で初めてボギーを喫すると、折り返し後の11番でもボギーを叩き、後半は1つもバーディーを奪えないまま、2アンダー、69、20位タイで初日を終えた。

 全体を通して、フェアウエイを捉えることに苦戦していたが、前半はアイアンショット&パットのコンビネーションでバーディーを奪うことができていた。

 だが、後半は、ティショットもアイアンショットも冴えず、冴えたときはパットと噛み合わないゴルフとなり、スコアを伸ばすことができなかった。

 その原因は、コロナ感染後の余波で体力気力が低下していたり、フィーリングが戻り切っていないといった影響が出ているのかもしれない。しかし、松山は「後半は上手くプレーできなかった。(疲労面もショット面も)想定内です。明日、いいプレーができるようにしたいなと思う」とだけ語り、コロナ感染後の影響等々には言及せず、エクスキューズは一切なし。ただし、表情には悔しさがありありと見て取れた。

 そこが、いかにも松山らしく、だからこそ、2日目以降、まだまだ期待できると感じられた。

【丸山ヘッドコーチの目線】

 チーム・ジャパンを率いる丸山茂樹ヘッドコーチの視線は鋭く、そして優しい。

トップスタートのオナーの任務を授かった星野に対しては「あれは僕が選手だったら僕だって嫌だもん。でも、出だし(のティショット)が真っ直ぐ行ったので、乗り切ったかなと思った」。

 まさに東京五輪のゴルフの幕開けとなるショットを、しっかりフェアウエイに運んだ星野の第1打は、初日の日本勢の一番のハイライトシーンだったのではないだろうか。

 松山に対しては「前半でボンボンと伸ばしたのは、さすがだった。ティショットの不安や体力的な部分からなのか、上体が(スムーズに回らず)ぎちぎちしている感があるけど、15番で(パーセーブパットを)入れてきたあたりは、まだ根性残ってるなと思った。技術的なことより、体力がしんどい。少し休んで、体力温存しようよって声をかけようと思っています」

 首位に立ったストラカは「先週の米ツアーでは調子が悪かったけど、今日はパットのルーティーンを変えたら上手くいった」と笑顔だった。

 3位タイに付けたピータースは「昨日の練習も今朝のウォーミングアップも不調でボロボロだったので、何も期待せず、キャディの言う通りにやったら上手くいった」と、やはり笑顔だった。

 蓋を開けてみれば、霞が関のコースセッティングや攻略法云々より、緊張や不安をどうハンドリングできるかが何よりモノを言っている。

 初日は日本勢が18ホールを終えた後、雷雨で一時はサスペンデッドになったように、残る3日間、天候も大きなモノを言うことは間違いない。

 そして、丸山コーチが指摘しているように、蒸し風呂のような酷暑の霞が関の4日間を乗り切るために求められるものは、最終的には体力と根性になりそうであり、それが一昔前のスポ魂ドラマの話ではなく、近代五輪のゴルフの実話であることが、なにやら妙に興味深い。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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