99.1%の原案がそのまま通過。地方議会の現実と役割 〜議員による政策的条例提案はわずか0.13%〜
地方議会の「政策提案」能力の現状と課題
地方議員のみなさんは、自分たちの「政策提案」「政策監視」の現実をどの程度共有しているだろうか。立法府としての役割は言うまでもなく「立法機能」であり、地方政治に言い換えれば「条例提案機能」と言えるのではないか。最新のデータで2012年を見ると、全国の地方議会における議案提出数は103,394件に上るが、うち91.2%にあたる94,316件は市長提案であり、議員提案はわずか8.8%の9,078件しかない。地方議員のみなさんに実感を持ってもらえる様に、一自治体あたりにすると、市長提案数が年間116.3件あるのに対し、議員提案は11.2件しかない。年4回の定例会を行う議会が多い事を考えると、1議会あたりの議員提案は3件にも満たないという事になる。
これを聞いて、思っていたより提案していると感じる地方議員もいるかもしれない。
しかし実際には、議員提案のうち60.0%は意見書案の提出であり、条例案はわずか14.4%しかない。全議案に占める割合から言えば1.27%にしか過ぎない。
議員提案の内訳を見ると、その75.8%は改正条例案である。新規条例案も23.6%あり、うち政策的条例案件は10.2%、政策的でない条例案件が13.4%となっている。
政策的条例提案だけが重要なわけではないが、全議案中の議員提案による政策的条例提案はわずか0.130%という事になる。
こうした問題は、推移を見ると、さらに深刻な事が分かる。2002年からの推移を見ると、2012年の議員提出議案は過去最低となっているのだ。2011年から310件の減、2010年からは2,079件の減、最も多かった2002年との比較では4,172回も減となり、その数は10年間で68.5%まで減っている。
図表1: 自治体当たり提出者別年間議案提出数(件)
図表2: 自治体当たり年間議員提案の内訳(件)
図表3: 自治体当たり年間議員提案による条例案の内訳(件)
図表4: 全議案に占める議員提案による政策的条例案の割合(%)
立法府としての議会における役割は、「条例提案」だけでなく、条例も含めた議案の採決にもある。そこで、市長提案94,316件の審議結果を見てみると、実にその99.1%にあたる93,428件が原案がそのまま可決されている。一自治体に換算すると、市長提案が年間116.3件のうち115.2件が原案可決であり、全てが原案可決となっている議会も多いという事になる。原案可決に対して、修正可決はわずか0.4%の354件、否決は0.3%の271件しかない。もちろん否決や修正の数が多ければ多い程良いなどと単純化していうつもりはない。しかし、「行政監視」や「チェック機能」が議会のもう一方の役割であるという事を考えたならば、行政案を議会に提案される前に議論するという事前協議ではなく、二元代表の一翼として、議会の中で、議会としての修正を図っていく機能を強化して行く必要性があるのではないだろうか。
国会とは異なる「地方議会」の本来の役割とは
地方議会については、地方議員や行政職員すらも誤解している人が多く、ましては、市民にとっては、「地方自治が自分たちの生活に関わっている」という認識すらないのが現実ではないか。しかし一方で、高齢者介護の現場も、保育所など子育て現場や教育現場、道路や公園にいたるまで、実は、多くの方が日々の生活の中で「どうにかならないものか」と感じているものの多くは、地方自治現場で決められている。もう一度、地方議会の役割について確認しておきたい。
国政においては、総理を選ぶ事ができるのは国会議員に限られるが、地方自治体では国政と異なり、市長も議員も選挙によって選出される二元代表制をとっている。地方議員にとっては常識的な事ではあるが、多くの人はこの事すら知らない。また、この二元代表制の仕組みも含め、地方自治では、法的には首長と議会それぞれにほぼ同等ともいえる権限が与えられてもいる。地方議会関係者でさえ、「地方議会は、国会の地方版」などと思っている人が多いが、この他にも実際には国会と地方議会では、その役割は大きく異なっている。
国会が「国権の唯一の立法機関」(憲法41条)である事は、多くの人に知られているが、地方議会は、会合して相談する「議事機関」(憲法93条1項)としてしか定められていない。同様に、国会は「全国民を代表する選挙された議員」(憲法43条)で構成され、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」「その権力は国民の代表者がこれを行使」(憲法前文)とされているが、地方議会は「住民が直接、これを選挙する」(憲法93条2項)と住民の権利しか明記されておらず、住民の直接請求に基づく住民投票で議員・首長のリコール、議会の解散(地方自治法76条等)なども住民の権利として認められているほか、特別法の制定についてなどは、逆に「住民の投票においてその過半数の同意を得なければ」(憲法95条)と住民が直接行使する事が位置づけられている。
こうした事からも分かるように、地方自治体におけるガバナンスは、国政と異なり、議会・行政・市民との3者のバランスにより成り立つ事が、本来より想定されているのだ。ジェームズ・ブライスの「地方自治は民主主義の学校」という言葉は有名だが、国政と異なるこの自治の仕組みをもう一度、自治の担い手として確認しておく必要がある。筆者自身、26歳で地方議員になり、34歳で部長職として行政職員も経験した。組織の中には、現状を何とか変えていかなければならないという想いや志を持ったものたちもいる。
一方で、これまで長年続けてきた仕組みや組織は、なかなか簡単には変わらない。こうした地方自治のガバナンスの仕組みを変えるためには、「議会の常識」や「役所の常識」といったこれまでの限られた人たちの中での常識から、「議会のあるべき姿」を共有しながら変革するパラダイムシフトが求められる。
筆者は今年1月に、ジャーナリストの田原総一朗が会長を務める政策監視や政策提言を行うNPO、「特定非営利活動法人 万年野党」(yatoojp.com)を竹中平蔵氏、岸博幸氏、高橋洋一氏、原英史氏、磯山友幸氏といった方々と立ち上げ、事務局長を務めている。
NPO法人 万年野党では、国会の監視もまた一つの役割と考え、国会議員の質問回数、議員立法提案数、質問趣意書提出数などの回数を三ツ星で評価する「国会議員三ツ星評価」や、質問の「質」を評価する「国会議員質問力評価」などを実施している。
企業がマーケットの中で市場原理で淘汰されていくように、政治においても特定の人たちしか関わらないという力学から、多くの目による監視の中で淘汰されていく仕組みを作っていく事で質を高めていく必要があると考えている。
こうした議会活動に関する客観的な評価を、地方議会においても創り上げる必要がある。
地方議員のみなさんには、是非、こうした事も意識してもらえればと思う。
次回以降は、実際に政策提言を行うための自治体の課題について、紹介していきたい。
高橋亮平
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中央大学特任准教授
特定非営利活動法人「万年野党」事務局長
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特定非営利活動法人Rights代表理事
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