ツール・ド・フランス100回大会 スプリントヒーロー
史上最強の自転車選手エディ・メルクスや、フランスの英雄ベルナール・イノー、「エターナル・セコンド」レイモン・プリドール……といった自転車界の超有名人は、実のところ、ツールやあちこちの自転車レースに長年くっついて歩いていると、しょっちゅうお目にかかる存在だ。しかもお三方にはインタビューで過去のありがたい話を何度か聞いたことがあるから、私にとっては「英雄」であると同時に、大切な先生でもある。
一方で、なかなか会えない伝説もいる。特に高齢のチャンピオンたちはレース会場にやってくることすら滅多にないし、残念ながらそれほど時間も残されていない。「山の天使」シャルリー・ゴール(2005年没)を一目見ることができなかったのは、今でも心残りだ。
それでもラファエル・ジェミニアーニやフェデリコ・バアモンテスのような陽気な有名どころなら、数年に1度くらいは触れ合うチャンスもある。で、やはり、いつか会えたらいいなぁ……、と長年夢想し続けて、ようやく100回記念大会で初めてありがたい姿を拝めたのがアンドレ・ダリガドである!
グランツールの総合を勝つような選手ではないから、世界的にはそれほど有名な選手ではないかもしれない。100回記念大会&ポイント賞マイヨ・ヴェール50周年を記念して招待されたかつての大スプリンターと、昨大会ポイント賞受賞者ペテル・サガンとの記念撮影が行われたが、案の定、23歳の若者は「誰なのか分かりません」と正直に答えていた(まあ、そもそも、サガンは自転車の歴史などほとんど知らないのだ)。
一方で現役最速スプリンターのマーク・カヴェンディッシュは、かなりのツールおたくぶりを発揮。デルガドの経歴や賞歴をそらで述べ、84歳の老人を喜ばせた。「マン島超特急」は「デルガドさんは本物のジェントルマンだ」と感激し、「ランドのグレーハウンド」は「カヴェンディッシュは世界最高のスプリンターだ。華々しい勝ち方や、燃えるような野心を持っている。メルクスの区間勝利記録も、早かれ遅かれ破るだろう」と若者を賞賛する。
そう、カヴェンディッシュは、1年前にダリガドの持つ区間22勝を超えた(よく「ダリガドはツール・ド・フランスを1回勝ったのと同じだけ勝った」と言われる)。2013年7月7日第9ステージ終了時点で、カヴの通算ステージ勝利数は24で、アンドレ・ルデュックの持つ25勝まであと1つに迫っている。それをクリアすれば、カヴの前に立ちはだかる記録はイノー28勝とメルクス34勝だけ!
84歳にして凛々しくエレガントなデルガドの前で、カヴがちょっと頬を赤らめながら、礼儀正しく気をつけしているのがなんとも微笑ましかった。世界最速スプリンターも、偉大なる先人であり、目指すべき模範であり、歴史上のヒーローの前では、1人の少年になるのだ……!