階段を上れる電動車イス
世界中の車イスの利用者が健常者と同様の生活ができるような状況に一歩近づいた。階段を上ることができる電動車イスを、スイスのチューリッヒにあるスイス連邦工科大学が開発した。完成度の高い車椅子で、米National Instrumentsが主催するNIWeek 2015の基調講演会場で発表されると同時にデモも行われた。学生が開発したこの電動車イスを会場にいた、聴衆の一人が壇上から床に降りる場合もスムーズに降りることができた。
この電動車イスは、通常の車輪に加え、キャタピラも付けた。階段を上る時はキャタピラが動く。その場合、乗っている人間が不安を感じないように、水平になるように補助車輪を使ってイスが水平になるように調整する。乗車する人間は階段を登る方向に背を向け下を向く。通常の車輪は階段に触れないように中に浮いた格好に保ち、キャタピラだけで階段を登る。階段の頂上に着くと、補助輪を使って水平面になるまで移動させ、水平面に着いたら、通常の車輪を降ろし、今度はキャタピラ部分が中に浮いた形になる。動画も見せた。
これまでも階段を上ることのできるロボットはあったが、障がい者が実際に使えるようなレベルの電動車イスはなかった。NIWeek 2015では、「学生設計コンテスト」で優勝した。このイスはスイス連邦工科大学の3年生の学生たち(図2)が作り上げたもので、さまざまな車イスの設計アイデアを検討した。
階段を昇降できることを目標に、車イスを設計した。まず心がけたことは、どの方向にも回転、走行、停止できるような俊敏性があること、倒れず安定であること、しかも安全であること、そして毎日使える耐久性を持つこと、である。これらをベースに設計すべき大きさや寸法、重量、耐久性などを全て書き出した(図3)。そして最終的に、キャタピラ付きの電動車イスの形になった。
この電動車イスScalevoには最新のテクノロジーが使われている。センサを多数取り付け、モータを回して車輪やキャタピラ、補助輪などを動かす。モータは通常の回転モータに加え、リニアモータも使ったという。センサからのデータを処理し、アクチュエータとしてのモータを必要な回転や直線だけを制御するコントローラには、ナショナルインスツルメンツのMyRIOを選んだ。
NIWeekで設置した「Student Design Competition」賞を受賞した。このイベントに参加した学生の内の一人は「失敗を恐れず、目標に向かって進んだことが良かった」とその喜びを語った。
(2015/08/17)