南野マフラーと横断幕が登場。地元リバプールで高まる南野拓実への期待
2日に行われたリバプール対シェフィールド・ユナイテッド戦を取材しようと、本拠地アンフィールドを訪れた。
試合前、少し時間があったのでスタジアム周辺を散策し、サポーターグッズを取り揃える売店をのぞいてみた。欧州チャンピオンズリーグ優勝を記念したマフラーや、人気選手のマフラーがところ狭しと並んでいるなか、目に飛び込んできたのが南野拓実のマフラーだった。リバプールとの契約が決まったのは12月19日。つまり、わずか2週間ほどで準備されたことになる。
しかも、クリスマスの12月25日とボクシングデイ(祝日)の12月26日は、各都市を結ぶ列車が運休になるほど、英国全体がまったくといっていいほど稼働していない。実質的な作製期間は10日ほどかと思うが、新年最初の試合で店頭に並ぶことになった。店員によると、大急ぎでこしらえた甲斐もあり、売り上げは上々だという。
こうした光景からも、10月にアンフィールドで行われたCLグループステージでのインパクトは相当なものだったと分かる。ザルツブルクの一員として先発した南野は1ゴール、1アシストの大活躍。3−4で敗れはしたが、欧州王者のリバプールを相手に大善戦した。そして、英BBC放送で「南野拓実、スター誕生か」と速報されるほど、鮮烈な印象を残した。
このようなマフラーは、モハメド・サラーやサディオ・マネといった人気選手を中心に作られる。南野のマフラーが登場したのはアンフィールド界隈で実力が認められている証であり、日本代表MFへの期待がひしひしと伝わってきた。
実際、熱心なサポーターが集うゴール裏の「KOPスタンド」に目をやると、「WELCOME TAKUMI MINAMINO 18」の横断幕が掲げられていた。街でも、宿泊したホテルの受付に「リバプールの取材で来た」と伝えると、「南野の取材ですか?」と返された。タクシーの運転手とも同様の会話を交わしたことから、リバプールでの知名度と期待値は、かなり高いように感じた。
そんな周囲の期待に対し、冷静になるよう呼びかけているのがユルゲン・クロップ監督である。定例会見の席で、早口でまくしたてるように語った。
「(南野の適応に要する時間?)時間を与えなかったらおかしい。タキ(南野)に少し時間を与えてほしい。現時点で我われは、非常に良いチームができあがっている。彼は攻撃的な選手だが、我われの攻撃陣には、おそらく世界最高の選手たちが揃っている。彼は複数のポジションをこなすため、多くの起用オプションがある。タキがどのポジションから始めるかはまだわからないが、彼の持ち前の技術を生かしたいし、そのためにやっていく。だから、あれこれ詰め込むようなことはしない。できるだけ自然体でやってもらいたい。我われは、ザルツブルクで活躍した“あの選手”と契約したんだ。だから、現時点で多くを変える必要はない。タキのままでいてくれたらいい」
振り返れば、これまでもクロップ監督は、プレミアリーグに順応するための十分な時間を選手たちに与えてきた。今や不可欠の存在であるブラジル代表MFファビーニョも加入当初は苦しみ、ベンチ暮らしを強いられた。昨夏の移籍期間に退団したDFアルベルト・モレノは、クロップが獲得した選手ではなく、正直リバプールレベルの選手でもなかったが、それでもドイツ人指揮官は根気強く使った。
選手を成長させるには時間が必要──。負けが込めば直ちに解任となる厳しい世界で、そう割り切って選手を信用できるのは、クロップの持ち味であり、非常に優れている点だ。間違っても、数試合で簡単に見切るような器の小さい男ではない。
当の南野は、プレミアリーグの規定によりシェフィールドU戦に出場登録できなかった。ベンチ裏の関係者席に腰を下ろし、試合前にサポーターが歌う「You’ll Never Walk Alone」を携帯で撮影。2−0で試合を終えると、交代でベンチに退いていたサラーとハイタッチして勝利を祝福するなど、リラックスした様子だった。
現在リバプールでは、クロップ監督が「万全の状態でプレーできる選手は12名しかいない。あとはユースの選手だ」と語るように、怪我人が続出している。しかも、ちょうど年末年始の過密日程を終えるタイミングで選手たちは疲労困憊しており、5日に行われるエバートンとのFA杯3回戦で、南野が出場メンバーに加わる可能性は高い。試合まで練習を4回だけこなして臨むことになるが、地元ライバルのエバートンとのマージーサイド・ダービーでどんなプレーを見せてくれるか。
とはいえ、すぐにインパクトを残せなくても、クロップ監督もサポーターも、南野をすぐ見放すことはないだろう。クロップの指導を受けつつ、リバプールの街やクラブ、戦術、アンフィールドの雰囲気、プレミアリーグ特有のプレースピードに慣れながら、ゆっくりと前に進んでいけばいい。
「自然体でやってもらいたい──」。クロップの言葉通り、まずは南野らしいプレーをアンフィールドで見せていってほしい。