欧州の天然ガス価格は過去最高値を更新、英国の家庭の光熱費が80%引き上げ、欧州はエネルギー危機の様相
欧州の天然ガス価格は26日に過去最高値を更新した。天然ガスの価格高騰に収束の兆しが見えなくなってきている。ロシアによるウクライナ侵攻と、それによる西側諸国による経済制裁により、ロシアから欧州の天然ガスの供給量が減少している。
それだけでなく、欧州を襲う熱波の影響でライン川の水位が低下し、欧州域内物流への影響が懸念されている。
欧州の河川輸送を担うライン川では連日の猛暑や雨不足が重なり、水位が大幅に低下。低水位時の特別サーチャージの適用や、船舶への貨物積載量を減らして運航するなどの措置を取っていたが、先週末から水位が40センチを割り込み、船舶の運航が困難な局面に直面している(16日付日本海事新聞)。
これにより原油や石炭などを船舶を通じて行うのが困難となりつつあり、ドイツ政府はこれまで「はしけ」で輸送していた石炭などのエネルギー関連貨物を、優先的に鉄道で輸送することなどを検討している。今後水位低下が解消されるめどは立っておらず、欧州主要コンテナ港で混雑が続いている模様。
欧州での天然ガスの価格は70ドル相当に上昇している。これは原油換算では1バレル410ドルに相当するとの見方がある。
ドイツ連邦統計庁が19日に発表した7月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比37.2%、前月比5.3%上昇し、いずれも1949年の統計開始以来最大の伸びとなった。エネルギー価格は前年比105%上昇した。天然ガスが163.8%、電気は125.4%それぞれ上昇した。
ドイツの7月の生産者物価指数(PPI)の前年同月比37.2%というのは、我が国の1973年に起きたオイルショック時の卸売物価をも上回っている。ドイツやイタリアを中心に欧州はエネルギー危機といった様相となっている。
また、英国のガス電力市場監督局は、家庭用エネルギー料金が10月から80%%引き上げられ、平均で年額3549ポンドになると明らかにし、この「危機」に政府の早急な対応が必要だとした(26日付ロイター)。天然ガスや卸電力などの価格高騰を受けた改定で、2023年には一段の上昇が見込まれる。
これは対岸の火事や他人事では済まなくなっている。
パナマ運河庁が7月、主に太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河の通航料を2023年から段階的に引き上げると決めた。LPG船の通航料は25年に、現行に比べ約9割値上がりする(23日付日本経済新聞)。
アジアの液化天然ガス(LNG)価格が上昇している上に、今度はパナマ運河の通航料の上昇もそこに加算されかねない。
日本でも物価はピークアウトしたどころではなく、ここからさらに上昇している可能性を意識する必要があろう。日本だけが供給ショックによるインフレ圧力が一時的となることはすでに考えづらくなっている。
日本でも価格転嫁の動きが今後、さらに拡がってくる。インフレが顕著な欧米は、すでに他人事ではなくなりつつある。日本でも物価上昇に対応した政策、特に金融政策が求められよう。