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スコットランド女性首相、現地版ネトウヨの一掃を宣言

ブレイディみかこ在英保育士、ライター

スコットランド自治政府首相でSNP(スコットランド国民党)党首のニコラ・スタージョンが、ネット上で感情にまかせた誹謗中傷やヘイト発言を繰り返しているSNP党員たちを一掃する意志を宣言した

この声明は、女性や同性愛者に対する蔑視的な中傷や、排外的表現、労働党議員への暴力的攻撃の予告などを展開しているSNP党員数人のツイッター・アカウントがスタージョンのアカウントとリンクしていたことを英紙デイリー・メールが暴露した翌日に発表された。

スコットランド自治政府首相ニコラ・スタージョン
スコットランド自治政府首相ニコラ・スタージョン

SNPは労働党よりも左翼的な進歩的なポリシーで知られるが、その一方で過剰なナショナリズムを剥き出しにする攻撃的な党員も存在し、昨年行われたスコットランド独立の是非を問う住民投票の前からネット上での過激な言動が問題視されてきた。スコットランド版ネトウヨと呼べる彼らはメディアにCybernat-サイバーナット(Cybernationalist-サイバーナショナリストの略)と称されている(スコットランド版デイリー・メール紙は2014年に彼らの身元を特定するキャンペーンも行った)。

ダイハードなナショナリストである彼らは、独立反対派の人々を口汚い言葉で集中攻撃してきたが、中でも大きな話題になったのがスコットランド在住の『ハリー・ポッター』シリーズの作者J・K・ローリングへのバッシングで、彼女が独立反対派に回った時には、「裏切り者のビッチ」、「スコットランドでシングルマザーとして生活保護を貰っていたくせに、その恩を忘れたのか」といったツイートが殺到した。また、5月7日の総選挙でSNPがスコットランドのほぼ全ての議席を獲得した時にも、勝利の美酒に酔うSNP党員がJ・K・ローリングへのサイバーいじめを再開し、「SNP一色になったスコットランドでまだご無事でおられますか?」「スコットランドでは貴様ら左翼の時代は終わった。特にお前だ、くされビッチ」などのツイートが相次いでいた。また、こうした一部のSNP党員は、先日他界したスコットランド出身の元自由民主党党首チャールズ・ケネディの死去に際しても、「売国奴」「酔っ払いの小汚い野郎(C・ケネディは飲酒の問題を抱えていた)」などのツイートを連投して非難された

SNPは反戦、反核、反緊縮の左翼的政策と、燃えるようなナショナリズムを共存させている特殊な政党である。だから党員や支持者には自分たちのことを右翼だと思っている人々もいるが、サイバーナットたちを党内に抱えていることは、プログレッシヴでポジティヴなメッセージを送っている筈のニコラ・スタージョンの汚点とも言われてきた。「ネットで暴れる愛国主義者たちを容認し、彼らを支持層にしている」「SNPには汚れた側面がある」と批判される材料になっていたのである

自らのアカウントが数人のサイバーナットとリンクしていたとデイリー・メール紙に書かれたスタージョンは、彼らとのリンクを断ち、「ネット上での言葉による虐待、威嚇、誹謗中傷などをスコットランドの政治から一掃したい」という声明を発表して、SNP党内でネトウヨ的行為を行う人々には然るべき処分を課すことを明言した。彼女は他の政治家たちにもこうしたネット・ユーザーたちとの一切のリンクを断つように要求しており、「彼らの煽りを飼うのはやめましょう」と呼びかけている。

以下はニコラ・スタージョンがスコットランド版デイリー・メール紙に寄せた声明文「私たちはもっと高いところを目指しましょう」からの抜粋。

「政治的な反論は、それが情熱的で揺るぎなく、オープンで、正直で、相手へのリスペクトをもって展開されていれば歓迎します。たとえその意見が、私なら使わないだろうと思う言葉を使って説明されていたとしても構いません。それが言論の自由というものの本質だからです。(中略)しかしながら、私たちの政治ディベートのレベルを、暴力的な脅しやミソジニー、ホモフォビア、性差別、レイシズム、障害者差別などの低みにまで下げることは是認できません」

「当然ながら、私はツイッターのすべての投稿を一人で監視することはできません。私は3500人をフォローし、23万人からフォローされています。そこに投稿されている発言のすべてを個人的にチェックすることは不可能です。しかし、SNPの党員が一線を超える発言を行い、私たちがそれに気づいた時には、SNPは然るべき行動を取りますし、過去にもそうしたことがあります。私たちが求めるスタンダードに劣る態度を示している党員には、警告させてもらいます。私たちは彼らにディベートのスタンダードを上げることを要求します。個人的な資質についてではなく、ディベートの論点について語ること、そして虐待的で乱暴な言葉を使うのではなく、パッションのこもったぶれない議論を展開することを求めます。そうできない人々は、必要な場合には懲戒処分を課すということをこの場で明らかにしておきます。SNPには党員の行動規範とネット使用のガイドラインがあるのです」

「もちろん、ツイッターによる誹謗中傷が一方方向でのみ行われていると言う人は間違っています。それはすべての政治思想を持つ人々の間に広がっているからです。だからこそすべての政党に、スコットランドの政治をこうした行為に汚させてはならないというメッセージを送る必要があるのです。政治家は、個人を中傷するのではなく、論点を議論し合うディベートの、良き手本を示さねばなりません。ディベートのレベルを上げることは、すべての政党の責任です」

「15世紀に初めて出版された印刷物が学習やディベート、デモクラシーの可能性を広げたように、インターネットも21世紀に新たな可能性をもたらせました。(中略)それは社会をより良い場所にする力を持っています。私たちはそれを目指そうではありませんか」

出典:”Let us all aim for higher ” By Nicola Sturgeon (SNP Official Site)

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スタージョン首相のこのスタンスは、スコットランドの全政党から歓迎されている。

同性愛者であることを理由にSNPのサイバーナットから激しい誹謗中傷を受けて来たスコットランド保守党党首ルース・デヴィッドソンもこう語っている(ちなみに彼女は英国初の同性愛者であることをカムアウトしたメジャー政党党首)。

来年5月、スコットランドでは独立投票以来初めての、非常に重要な選挙が行われます。それを個人的な攻撃の場ではなく、理念の戦いにしましょう。公共システムの改善について、教育システムをより良くし、NHSが21世紀の需要に応えられるようにするにはどうしたらよいのかということについて議論する場にしましょう。私たちは正当なやり方でそれを行いましょう。スコットランドの誇りになるように

海外でのイメージアップや外交(オリンピックとか)のためでなく、国内での政治ディベートの質を上げてより良い国をつくるためにヘイトスピーチ対策が必要なのだというスコットランドの政治家たちは、愛国心の新機軸を示している。

在英保育士、ライター

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』(太田出版)、『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。

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