北朝鮮は、リアル「翔んで埼玉」の国…移動統制の実態
北朝鮮は、居住や移動の自由がない世界的に見ても珍しい国だ。登録した居住地から市や郡の境界線を越えて別の地域に移動するためには、旅行証と呼ばれる国内用パスポートが必要だ。日本で例えると、東京から埼玉に移動するために許可が要る、リアル「翔んで埼玉」の世界だ。
市や郡の境界線上には10号哨所と呼ばれる検問所があり、旅行証を提示した上で、荷物検査を受けようやく通過が認められる。しかし、市場経済が進捗の度合いを深めていた2010年代には、検問所に定期的にワイロを払っているタクシーやソビ車、ポリ車(個人経営のバスやトラック)に乗ると、検問を受けることなく通過できるなど、移動制限がなし崩し的に緩和されていた。
ところが、コロナ禍をきっかけに移動統制が再び強化されるようになった。居住地の外で旅行証を携帯していなければ、身柄を拘束され「集結所」と呼ばれる拘禁施設に収容され、地元の安全部(警察署)の迎えが来るまでずっと強制労働を強いられる。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、氷点下20度を下回る寒さの中で、集結所の収容者は、人糞や家畜の糞を集めて肥料を作る「堆肥戦闘」に追いやられていると伝えた。
他の拘禁施設と同様に、集結所の栄養、衛生状態は劣悪だ。今月19日には、収容されている50代の女性が作業中に倒れてしまった。この女性は1週間も高熱にうなされ、睡眠や食事がまともに取れていない状況で作業を強いられていた。
規定では、病気になれば外部の病院に行くことになっているが、上部の承認が必要など手続きが複雑であるため、集結所側は動こうとしない。また、患者本人も、医療費が払えないため外部の病院に行こうとしないという。結局、他の収容者に面倒を見てもらい、なんとか釈放まで耐えるしかない。
収容者が住民登録している地域の安全部が身柄を引き受けにやってきて、ようやく釈放されるが、面倒だとなかなか来ようとしないケースもあり、ガソリン代などの費用は収容者に請求される。
戒護員(看守)は、収容者を人間扱いせず、暴言や暴行は日常茶飯事だが、これでも教化所(刑務所)や管理所(政治犯収容所)に比べればまだマシなのだ。
国際人権規約に定められた移動の自由が制限されるという極めて異常な状態が日常化しているが、国民を縛る効果的な手段であると同時に、システムそのものが利権化していることを考えると、おそらく撤廃はされないだろう。