マネジメントしなくてすむようになる方法〜口では大事と言っても、実態は多くの企業は採用を軽視しすぎ〜
■マネジメントができないのなら採用にもっと注力する
マネジメントの目的は、会社として目指すゴールに向けてメンバーに活躍してもらうことです。しかし、人はそれぞれの考えや思いで行動するため、誰もが同じイメージ、価値観でゴールを目指すことを期待するのは難しい。だからマネジメントが必要になるわけですが、マネジメントが苦手な人にとって、その負担は心身のバランスを壊す人が出るほど大きなものです。そこで、マネジメントの負担をできる限り小さくするための方法として「採用」を見直してみます。
■リクルートでは「おまえはどう思うんだ」とだけ聞けばよかった
古巣の現職社員に怒られてしまうかもしれませんが、私が在籍していた“当時”のリクルートでは、「リクルートではマネジメントするのは簡単。メンバーが何か言ってくれば『おまえはどう思うんだ?』と聞いて、何か答えたら『そうか。ならそうしてみろ』とだけ言えばいいのだから」と、複数の人が言っていました。
私も同感で、実際、私のメンバー達は皆優秀で、私は上記のような問いを投げかけていれば、プロジェクトが回っていたように思います。ある意味、「マネジメント力がなくても大丈夫な組織」に近い組織の1つだったかもしれません。
■「自律的行動力のある人」しか採らないようにしていた
そういうシンプルなマネジメントが通用したのは、もちろんそれに対応できる自律的に考えて行動できる人材が揃っていたからです。当時の採用基準は「自律的行動力」と言っており、問題が発生したときや、理想を掲げてそれを実現しようとなったとき、自分の頭でどうすればいいのか考えて、判断して、動ける人でなければ、一般的には優秀とみなされる人であっても採用しませんでした。このように組織の入り口で選考基準を厳格に適用していたからこそ、「おまえはどうしたい」マネジメントができたのです。日本人に多い、素直で従順で真面目な優等生タイプを入れてしまっていたら、そうはいきません。
■人事パワーの半分を採用につぎ込む
しかしながら、そういう「自律的行動力」のある人材は、教育の問題なのか、文化の特質なのか、理由はともかくも、残念ながら日本には多くはいません。つまり、そういう人を採用するのはとても労力が必要なのです。そのために、当時のリクルートでは100名ほどいた人事部員のうち半分の50名ほどが採用に携わっていました。おおよそ、10名採用するのに採用担当者フルタイム1名分という割合で採用体制作りをしていたからです。マンパワーだけでなく、採用にかけるお金も新卒採用でも1人あたり数百万円と、世の中の平均と比べてかなりかけていました。
■本当に「採用が重要」と思っているところは少ない
さて、「採用は最も重要だ」と多くの経営者や人事責任者は言います。しかし、重要なはずの採用に、実際に最も人事パワーを使っているところは少ない。もちろん嘘をつこうとしているとは思いませんが、結局そこまで重要だとは思っていないか、採用の重要性について心の底から理解、納得していないかでしょう。
以前、有名経済誌に「リクルートの人事の秘密」という特集がありました。それは主にリクルートの人事の様々な制度や社内における施策についてのものでした。その記事を見た偉い人が、「制度がいいのではなく、いい人を採っているからその制度が効いているだけなのにね」と言っていたのを思い出します。
■結局、「後工程」の人事で苦労している
「いい人を取れば、マネジメントが楽になる」というのは誰でも理解し、同意してくれるような簡単な話だと思います。それなのに多くの会社では、採用に必要十分な力を入れないので、その結果、入社後の人事、つまり配置や評価、育成、マネジメントなどが大変になるという「後工程重視人事」になってしまっています。結果として、人事パワーを採用以外の「後工程」にかけざるをえず、その分採用にかけられるパワーが限られてしまうという悪循環に陥っているのです。逆に、採用に今よりももっと力を入れれば、後工程が楽になり、さらに採用にさけるパワーが増えるという良循環になるのですが。
■採用は「重要だが緊急ではない」から軽視されてしまう
必要なほどには採用が重視されないのはなぜなのでしょうか。いくつか理由が考えられますが、1つは、人事の領域の中で採用だけが未来のための活動であり、想像はできても目には見えない。一方、それ以外の人事は、現在「今ここ」にいる人材に対する対策であり、目に見える――ということです。
人はどうしても目の前の問題にかまけてしまうものです。採用は「重要だが緊急ではない」ものですので、想像力を持ってきちんと未来を見据えることができなければ、「緊急なもの」を行っているうちに、採用へのパワー配分は最小限になってしまっているというわけです。
■採用は「簡単な仕事」だと思われているから軽視される
もう1つは、採用という仕事が実際より簡単な仕事と思われているので、本当は不足しているのに、「これで十分」と計算違いをしているのではないかということです。人事制度設計や育成体系の構築、マネジメント能力の底上げ、チームビルディングなどの組織開発の仕事のほうが、高尚で難しく専門性も必要でそれゆえに重要なものであると、意識的、無意識的かは別として当の人事部や経営層が思っている節を感じることがあります。
もちろん、そんなことはありません。採用は専門的な仕事であり、奥深く、担当者の長期間のスキルトレーニングが必要な仕事です。それなりにパワーをかけなければモノにならず効果が出ません。
■採用の価値をなかなか可視化することができないことが背景
私は、採用が軽視される背景には、採用の価値を可視化できていないからではないかと思っています。人事業務はどんな仕事でも価値の可視化が難しいものですが、採用以外の領域ならば目の前にいる社員に対してのことなので、データなどもまだ取得しやすい。しかし、採用では、不合格者や辞退者などの「採らなかった人」のデータは永遠に取れないため、現状が「全力を出し切った」のか「まだ伸びしろがある」のか、もっとパワーをかけたらもっといい人が採れるのかどうかわかりません。だから、採用目標人数をなんとか満たせていれば「よかったのではないか」とみなしてしまうのでしょう。
■自社の採用ポテンシャルを知る方法
もし、人事のパワーを採用にシフトさせ、後工程が楽になる良循環を生み出して、「マネジメント不要」の組織を作りたいなら、今以上に採用に力を入れたらもっといい人が採れることを確信しなければなりません。そのために、自社の採用ポテンシャルについて調べてみることが必要です。それはとりもなおさず「採り逃している層」「かすりもしなかった層」(選考途中辞退者や非エントリー者など)にアプローチして、彼らがどんな人なのか、何をしても採れない人なのか、工夫すれば採れるのかを検討することです。なかなか見えないそういう層を知ることで、「実は自社は採用に力を入れきれていなかった」ことが初めてわかるのです。
■採用担当者は「有言実行」で経営者を説得すべし
経営者や人事責任者も「こんな優秀な人がこれくらいパワーをかければ採れるのか」とわかれば、投資もしやすくなるというものです。そして、これを行うことが採用担当者の責任ではないでしょうか。
まだ見ぬ将来の採用者について、上記のような「こうすればこう人が採れます」と宣言し、「有言実行」の採用活動を行うことはとても勇気がいることだと思います。そのためには、自社の応募者以外の労働市場の状況をしっかり把握して、自分自身も確信をすることが必要でしょう。そうすれば、経営からの投資を受けることができ、十分なパワーを採用にかけられるのではないでしょうか。
※HRZINEから転載・改訂