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トランプ大統領に必要だったのは信用力だったのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

3月1日に米国のトランプ大統領は就任後初めて議会上下両院の合同会議で今後1年間の施政方針を示す演説を行った。市場ではどのような内容の経済政策が打ち出されるのかを見極めようとしていたのかと思っていたがどうやらそうではなかったようである。

この演説でトランプ大統領は、外交・安全保障について、「戦争を防ぎ、もし必要ならば戦い勝利するために十分な装備が必要だ。国防費の大幅な増額を求める」と述べていた(NHK)。

また、30年ぶりとなる「歴史的な税制改革」や「1兆ドルのインフラ投資」への協力を議会に訴えた。ただし政権発足から1か月たっても政策の細部を詰める体制が整わず、具体策はいまだみえていない(日経新聞電子版)。

市場が期待した具体的な減税等の具体策は示されなかった、にも関わらずこの日の米国株式市場でダウ平均は303ドルも上昇し、21000ドル台に初めて乗せてきた。ナスダックも78ポイントの上昇となり、S&P500種株価指数も上げて、三指数ともに過去最高値を更新した。ドルも上昇しドル円は114円台に乗せてきた。

米株の上昇の背景としては、3月のFOMCでの利上げ観測の強まりによる米金利の上昇もあった。利上げに伴う利ざや改善の期待から大手銀行の株が買われたのである。米金利の上昇によりドルが買われた側面もある。

しかし、それ以上に影響したとされるのが、トランプ大統領の演説となった。その演説の内容というより、大統領の演説ながら「大統領らしい」演説となっていたことが好感されたようである。過激な発言やツイートを繰り返していたトランプ大統領がちゃんとした演説ができるではないかと、米国大統領がどうやら信用力をこれで取り戻したらしい。期待されていたのは政策ではなく、大統領らしさ、冷静さであったようである。

トランプ政権では上院での閣僚承認も遅れており、各省の次官など政治任用ポストもほとんどが空席のままとなっている。今回の議会の演説はこうした人事の遅れを少しでも取り戻すために、両院議員に理解を求める意図があったのかもしれない。少しでもトランプ大統領への懸念を払拭させることが演説の目的であったとすれば、市場の動きを見る限り奏功したといえる。ひとまずトランプ大統領に必要だったのは信用力であったようである。

トランプ大統領が経済政策を急がずとも、米国景気は緩やかなペースで拡大している(ベージュブック)。FRBも3月のFOMCでの利上げに向けて体制を整えつつあるぐらいに、足元の景気や物価は好調さを持続しているともいえる。これもトランプ大統領にとってはフォローとなっていよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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