試される「思い切り打つ」スパイク 女子バレー
バレーボールの4年に一度の国際大会、ワールドグランドチャンピオンズカップ女子大会が5日に開幕する。7月に行われたワールドグランプリ、優勝した8月のアジア選手権を経て、中田久美監督が「今季の集大成」と位置づける大会に挑む日本。昨年のリオデジャネイロ五輪を制した中国や世界ランキング2位の米国、ブラジルやロシアなど強豪がずらりとそろう中で、どのような戦いを見せてくれるだろうか。
史上初の外国人コーチがこだわったこと
今季、中田監督が就任すると同時に、日本代表女子は史上初めて外国人コーチを迎え入れた。フェルハト・アクバシュ氏である。31歳と若いトルコ人コーチだが、指導経験は豊富。2011~12年に中国リーグで優勝した広州恒大や、トルコリーグで木村沙織さんもプレーした世界的強豪のワクフバンク・イスタンブールでのコーチを経て、2014~15年には28歳の若さでトルコ代表監督も務めた。
日本代表でのニックネームは「フェロー」。中田監督が「彼のコーチングには助けてもらっている」と言うようにチームからの信頼は厚い。練習中や試合でのタイムアウトでも選手らに細かく指示を出す。
そんなアクバシュ氏が就任以降、こだわって指導してきたことがある。スパイクを「思い切り打つこと」だ。アクバシュ氏は「海外と日本ではスパイクの見方が少し違う」と言って、次のように説明してくれた。
日本ではスイングの仕方や体の動きなどフォームに着目することが多い。しかし、海外ではいかに思い切り打つか、いかにパワーを乗せるかを重視するのだという。「いいスパイクを打つには、両方が必要。日本人はテクニックはいい。そこにパワーを加えていきたい」
そのための筋力トレーニングにも取り組んできた。しかし、最も重要なことは「メンタルの部分」とアクバシュ氏は強調する。練習中や試合中、選手らがスパイクを打つ瞬間に「攻めろ!」「パワー!」と言い続けることで、選手達に「意識付けをしてきた」と言う。
もちろん、気持ちだけでスパイクは決まらない。「相手チームのブロックやレシーブの映像を分析して、こういうところに打っていくと決まると教えてもいる」
「うまくやろうとせずに決めてやろう」
昨年のリオデジャネイロ五輪にも出場した鍋谷友理枝は意識の変化を口にする。
「試合中でもフェローが『strong!strong!』『振り切れ』『攻めろ』と言っているのが聞こえる。相手を潰してやるっていう気持ちで打つようになった。以前よりも、うまくやろうとせずに決めてやろうと思って打っている」
結果的にスパイクの威力が上がり「『どうしてあんな球を打てるようになったの?』と他の選手やコーチからも聞かれるんです」とプレー面でも変化を感じている。
もちろん、相手のブロックやレシーブがあってのことで、精神面だけでスパイクが決まるようになるわけではない。だが、意識の変化によってプレーが変わることはある。
日本のバレーと言えば、しぶとく拾って守備で粘り、泥臭く得点するスタイルを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、ラリーに持ち込まずに決めることができれば、攻撃を切り返されて失点する可能性はない。さらに、体力的にも精神的にも負担は少なくてすむ。
中田監督は6勝3敗だったワールドグランプリを振り返り「気になった問題点は、被ブロック数(相手にブロックされた数)。相手にブロックされた本数が130本で、1試合平均10本前後ある。この本数を減らすことで、もう少し点数を取る展開が増えるのではないか」と分析した。
セッターとアタッカーのコンビネーションやトスの質、ブロックフォロー、スパイクの打ち方など様々な原因があるだろう。「思い切り打つ」ことで被ブロック数が増えた可能性もあるかもしれない。ただ、アクバシュ氏は「チームとして成果は出てきている」と手応えを語る。
アクバシュ氏の意識改革、「思い切り打つこと」は突破口になるか。日本は5日、韓国との開幕戦を迎える。