ソーシャルゲーム業界はどうやって「まともな業界」になれるのか?―ドラクエMSL炎上を振り返る(2)―
前回に引き続き、ドラクエMSLの炎上事件について詳しくみていきたい。
前回は、AppleとGoogleが抱えているリスクについて書いたが、ソーシャルゲーム業界が抱える問題と、ドラクエMSLの開発・運営サイドの問題を中心にまとめていく。
■ドラクエMSLのガチャ確率はどこまで「渋かった」か?
本題に入る前に、ドラクエMSLの案件が、そもそも、極めて悪質とされるほどのものだったのかどうか。ゲーム界隈の一人である筆者の見解としては「うーん、微妙」ぐらいの感じである。
まず、ソーシャルゲーム業界の現状の業界団体内のガイドラインに照らして言えば、ガチャ(ふくびき)の確率は「理想的な運用とも言えないが、悪質な運用とまでは言えない。」水準である。現状、ソーシャルゲームの業界団体として出されているガイドラインはJOGAとJASGAによるものがあるが、ドラクエMSLの運用はJASGAの基準は満たしていないが、JOGAの基準の範囲内ではある。過去にドラクエMSLよりも、渋い設定のゲームはユーザー数の多いソーシャル・ゲームの中にも存在する。まあ、ボーダーラインケースといっていいだろう。(※1)
2012年9月より一部ソーシャルゲーム事業者でのガチャ確率の公表がなされるようになっており、公開情報によれば
- 『FF Brigade』では、最上級のSSRが2.58% 準最上級のSR+が7.49%。
- 『ONE PIECE グランドコレクション』では最上級のSR+が0.05%、準最上級のSRが0.5%。
- 『アイドルマスター シンデレラガールズ』ではSレアアイドルが1.5%、
- 『大連携!!オーディンバトル』では、神器レアが0.0002%、SSレアが0.8%、Sレア+が2.3%
などとなっている。一方、ドラクエMSLでは今回の対応前は、Sランクが1.3%。Aランクが4%。
全てのゲームが公表しているわけではなく、また公表されていたとしても比較基準の難しい要素であるため、ソーシャルゲーム全体からみた平均がどうこうということはいささか難しい。ドラクエMSLの設定よりも厳しいゲームもあれば、ゆるいゲームもあるという状況である。
■本当に誤った支払いをした可能性のあるユーザーはせいぜい0.1%か
また、「金の地図と銀の地図の画像の表示割合が、地図の取得確率であるという表示である」というのが今回の議論の一つの前提となっているが、個人的には、画像の表示を、取得確率として解釈して受け取る人がいた、ということのほうに驚いた、というのが正直な感想だ。おそらく99.9%以上の人はそうは受け取らなかったと推測してよいのではないだろうか。
問題となった2ちゃんねるの書き込みでは、
実際お前ら8割ぐらい金出ると思ってたの?
俺は思ってないwwwwwwww返金行ってくるwwwwwwww
という便乗犯的な人間が登場した。こういう人は多かったはずだ。もちろん、今回の返金申請を行った人のうち実際に勘違いによって1000円から2000円程度のお金を払ってしまったユーザーは少数存在した可能性は確かにある。だが、返金申請を行ったほとんどの人は「表示を勘違いをしていなかった」可能性がきわめて高い。
なぜか。
「勘違い」によって課金をしてしまうためのプロセスをシミュレーションしてみよう。
まず、画像表示が、取得確率を示しているという勘違いが本当に発生するという事態が引き起こされるためには、いくつかの前提条件がいると推定される。
- 条件1.それまで他のソーシャルゲームで有料ガチャなどを引いたことがなくサービスの性質を知らず、推測能力を働かせにくいこと
- 条件2.「金の地図」がSランク、Aランクのモンスターを意味し、「銀の地図」がBランク以下のモンスターであるということを理解していること
- 条件3.画像表示が取得確率を意味しているという解釈すること
- 条件4a.無課金時に、金の地図ふくびきを1回~3回程度引けるが、この際に金の地図が連続で出現したため、金の地図ふくびきが、金の地図が高確率で登場するものだと誤解してしまった場合
- 条件4b.または無課金時に、金の地図ふくびきをやってみた場合に、金の地図はほとんど出なかったが確率の理解が非常に苦手なので、金の地図が高確率で登場するものだと誤解してしまった場合
- 条件5.実際にサービスにお金を払った
この全ての条件が当てはまる必要はないが、3つか4つ以上の条件があてはまらなければ勘違いをひき起こすことはそもそも難しいだろう。
細かい計算は長くなるので割愛するが、いま公表されているメンテナンス前の確率では実際に「金の地図」がひかれる確率が5.3%といった数字などを合わせて考えるに、勘違いをした上で課金をしたユーザーは、かなり多めに見積もって0.1%。少なめに見積もると0.0005%とか、そのぐらいの数字になる。すなわち、プレイヤーが100万人だと想定した場合、1000人~5人程度が実質的な勘違いでの被害者だということになる。おそらく実際的には、100万人のうち、だいたい100人~30人ぐらいが本当に勘違いをした、というぐらいがリアルな数字ではないだろうか。
それも勘違いをしたケースがあったとしても、概ね1000円~2000円の少額課金者に限られると考えてよいだろう。確率的に考えて少数ではあるが、そのような誤解が発生する余地はあった。ただし10000円をかけて、20回も金の地図ふくびきを引けば、よほど確率の計算が苦手でない限りは、銀の地図が出る確率のほうが圧倒的に上回る。その場合、今回クレームにあがったような誤解をするほうがむしろ難しい。2ちゃんねるのスレを見ていても、本当に勘違いをしたと強く主張している人はわずかにいるが少額課金者に限られる印象だ。5万円や、8万円を投じたユーザーからは、「えっ、マジ返金されんの?やっべ、返金してもらおう」といったノリが主であり、高額課金者の中で心底、「5割」や「8割」の確率で出現すると勘違いしてしまっていた雰囲気の人は見受けられない。それはそのはずである。彼らは勘違いしようがないのだから。悔しがっているとしても、「5割」であることを悔しがっているのではなく、「1割以下なのは渋すぎる」のを悔しがっている印象だ。
システムの設計上ざっくりと見て、「99.9%の人にもあまり問題なく伝わるものだったが、0.1%未満の消費者が間違えて2000円ぐらい払ってしまう可能性のあるサービス」が悪質なのかどうか。どうだろうか。インフラ系のビジネスや、日本の工業製品などでは、「99.9%はありえない。99.999%の精度のものをつくれ!」というのがあたりまえだという基準も、あるにはある。そういった基準からすれば、確かにドラクエMSLは一流ブランドとしてはリスク管理能力が不足していたのかもしれない。
■実際に2ちゃんねるで騒ぎ立てた人数は20人未満。この中に0.1%の人々はいたのか?
なお、問題の発端となった2ちゃんねるのスレの書き込みID数を調べてみたところ、全てで256あったが、書き込みの5割は27人の人々によって行われている。このうち、返金を煽る書き込みをしているのは、19人である。数人は「おまえら、自分で金つっこんどいて、金返せとか、ばかじゃねーの」といったツッコミをし、数人は淡々とAppleとGoogleでの返金報告をしている。
この19人の中に、実際に勘違いをした可能性のある0.1%未満の人々がいたのだろうか。というともし含まれていたとしても1人。せいぜい2人いるかいないかだろう。
彼らの書き込みからわかるプロフィールは、中学生から30歳前後の人間。自分が被害にあったということを訴えているというよりも、「誇大広告だ!」「優良誤認だ!」と論じたり、ドラクエMSLの実質的な開発・運営を担当していると思われるサイゲームスに対する嫌悪感や、ソーシャル・ゲーム業界自体に対しての嫌悪感を露わにする傾向が強い。一方で、実際に、自分がなぜどうして勘違いしたのかというエピソードを詳しく述べている人間はいなかった。
また、最も頻繁に書き込んでいる人間はソーシャル・ゲームに対するクレーマー気質の強い人間だと推測される。スレッドの初期から居座り、今回の案件よりも前に起きたスクウェア・エニックスのソーシャル・ゲーム『ミリオン・アーサー』における返金事件や、返金実例を盛んに紹介し、返金を煽っている。被害者なのではなく、返金を煽る事自体を目的としている人間が、常に数人いるという状況だった。
今回、炎上を広げたのはこのような人々である。
直接の被害者であるよりも、もともと抱いていたソーシャルゲームや特定の企業に対するネガティヴなイメージを抱えた数人が、リスク管理上の穴をついた結果、AppleとGoogleが、あたかも、それを公的に認めたかのような話の見え方が生まれ「炎上」につながった形である。
■「3万円つっこんで、レアアイテム出ないって、やっぱ心情的に厳しい」
こうしたソーシャル・ゲーム業界に対するそもそもの嫌悪感の存在と、「ドラクエ」というメジャーブランドのかけあわせが、今回の炎上を加速させた結果となった。
(1)ソーシャル・ゲームに対する感情
ソーシャル・ゲームの仕組みというのは、商売としてこれでいいのか、どうかということがこの数年、ずっと議論になっている。2012年には消費者庁から「コンプガチャ」について指導が入り、この一件でソーシャル・ゲーム業界は社会的にネガティヴなイメージを定着させたと言っていいだろう。
そして、こうした社会的な批判に答える形で、この数年は業界団体による自主ガイドラインも策定が進み、JOGAやJASGAなど複数の業界団体による基準が策定されるという流れができた。
そして、JOGAの基準では、レアアイテム取得ための「確率が1%を下回らない」「期待値が5万円を超えない」ならば、ガチャレアアイテムの提供割合を細かく表示しなくてもよいということになっており、今回のドラクエMSLでは、その基準は満たしていた。
また、ドラクエMSL内で、ユーザーの年齢に応じて、利用可能金額に制限を設けるなど一定の配慮もなされていた。
だが、それらのガイドラインや、ドラクエMSLの措置が、本当に世論の合意を得ているかというと、それはまだ議論が成熟していない段階といっていいだろう。
「5万つっこんだら、平均的にはレアアイテムがゲットできるはず、というのは、ちょっとエグくないか?」「そんなんに5万もつぎ込むんだったら、ゲーム数本買ったほうがマシだわ」という話はまあ、それはそれでよくわかる話である。
(2)「ドラクエ」というブランドに対する感情
特に、今回、ドラクエということではじめて数万を支払ったユーザー層がいたはずで、そういったユーザーが「裏切られた」気分になったであろうことは想像に難くない。それが詐欺的であるとまで言えるかどうかはわからないが、「大好きだったドラクエ」のあり方がこのようなものであってほしくなかった、という気持ちになったユーザーはかなりいたはずだ。
そういったユーザーが直接的な被害者といえるかどうかはともかく、ネガティヴな感情を用意してしまったことは確かである。これは、『FF7』『FF8』がリリースされた時にも大量に発生したユーザー層だが、既存のユーザー層の一部の需要から確実に外れる新規の試みをする際には、こうしたユーザーの発生は不可避となる。
この構造下では、炎上リスクは自然とかなり高まることになる。
■ソーシャル・ゲームは「社会的にまともな産業」とみなされるのか。その試金石。
一方で、これがもっと30代、40代のゲームに慣れたユーザーのみを中心としたタイトルであれば、今回のような事件は起こらなかったのではないか、という見方も散見される。一部のソーシャル・ゲーム慣れしたユーザー層から「ドラクエMSLユーザーが、この程度のことで怒るとか、ちょっと信じられない」という声も聞こえてくる。
実際、たとえば『アイドルマスター シンデレラガールズ』のユーザー層が今回のようなケースで怒りを覚える可能性は極めて低いだろう。
今回、「3万円つっこんで、レアアイテム出ない、というのは心情的に厳しい」ということが一つの問題となっている。だが、「期待値5万円以内」「確率1%以上」といったガイドラインは、『アイドルマスター シンデレラガールズ』のユーザー層のようなものまで含めて想定されている。だが、20代~40代のややオタク層を想定して「大丈夫だ、問題ない」とされる基準を、老若男女の遊ぶ「ドラクエ」に適用したら「大丈夫じゃなかった」ということが明らかになったということが今回の炎上の一側面である。もっとも、寛容なユーザー層向けのビジネスを基準にして考えるのは危険、というごくあたりまえの話でもある。
今回、けっこう多くの人が「え、3万つっこんで、レアアイテム出ないの?それ辛くね?」と思ったはずだ。
ドラクエMSLの場合、3万つっこまなくとも、無課金ユーザーに対する配慮は非常に細かくなされていた。その点では標準的なソーシャル・ゲームよりも「無課金で遊べる」度合いはドラクエMSLは過剰といってもよいほど「良心的」な設計ではあった。ただ「課金ユーザー」に対する配慮は、既存のソーシャル・ゲームの標準をそのまま引きずる形でしか展開できなかったというのは問題の根っこを作ってしまったといっていいだろう。
今回明らかになったのは、現状の業界内ガイドラインでは、ドラクエをプレイするようなユーザー層は、満足してくれない、ということだった。
家庭用ゲームが対象ユーザー層の年齢別のレーティングをすることで、「表現のエグいゲーム」と「ほんわりしたゲーム」を区分けし、マーケットでの摩擦を減らした。今後、ソーシャル・ゲームも世間的に「まともな産業」とみなされるようになるためには、ガイドラインの使い分けなどを用いることで、市場との摩擦を減らしていく努力が必要になるだろう。
■Apple/Googleの顧客対応に、業界ガイドラインが考慮されるのか?
前回の記事では、Apple/Googleの対応が、今回の炎上をApple/Googleが意図しない形で広まってしまった、ということを述べたが、Apple/Googleの側で炎上の初動対応に手落ちが見られたのには、上に述べたようなソーシャル・ゲーム業界への対応という特有の事情もあったと考えてよいだろう。
とくに2ちゃんねる初でのソーシャルゲームへの「返金」運動自体は、今回のドラクエに限ったことではなく、他のゲームでもいくつか存在しており、appleからの返金も行われていた前例はすでに複数あった模様である。
そして、今までの事例は今回ほどの大規模な炎上にもつながっておらず、Apple/Google側でも、いままでとほぼ似たような対応で事なきを得られると考えていたのではないだろうか。ソーシャル・ゲームの業態自体にユーザーとの摩擦を引き起こしやすい要因が多数、抱え込まれており、Apple/Googleとしても、現状の業界ガイドラインで何が定められていようが、業務プロセスの中にそれを反映させる価値を見出していないのではないか。Apple/Googleの顧客対応プロセスが抱えているリスクに、業界固有のリスクがかけあわされやすい現況においては、今後も似たような「返金」「炎上」案件が引き起こされる可能性は高いだろう。
ソーシャル・ゲームの業界側でユーザーとの摩擦を減らすための一層の努力が求められるだろう。
■もう一方の今回の被害者:本来のゲームを遊べなくなってしまった99%
さて、「意図せずに」課金をしてしまった数十~数百のユーザーも、もちろん、今回の主要な被害者ではある。
しかし、今回の炎上のもう一つの被害者がいる。それは、99%のゲームユーザーではないだろうか。
ゲームをはじめて、一番ゲームにはまりたい瞬間でゲームの機能が一部停止したうえ、本来、開発陣が丁寧に用意していたはずのゲームを味わう機会を失うこととなった。これは、ユーザーと開発会社の信頼感の問題であるが、筆者はスクウェア・エニックスが「ドラクエ」というブランドでリリースするタイトルには一定以上の信頼をおいている。そこにはかなり作りこまれ、調整されたゲームのがあったはずだ。実質的な開発・運用にサイゲームスがかなり入っていたとしても、既存のドラクエシリーズのノウハウと、現状のソーシャル・ゲームのノウハウが融合したゲームのあり方が提示されていたはずで、ユーザーはそれをたっぷりと楽しむことができたはずだった。まだ、ゲームが遊べるようになってから数週間しないうちに、もともと用意されていたはずのゲームのあり方は乱暴に切り刻まれることとなり、二度と味わうことができなくなった。
初期バージョンのゲームの内容が実質的に「あくど」かったのかどうか、ということの判定は、そもそもはとても難しいものだ。「3万回してレアでないのは辛い」というのは心情的なインパクトとしては理解できるとしても、実際のゲームの敵の強さの調整がゲームのシステム全体の構造によってゲームというものはできあがっており、そんな一部を見てあくどいかどうかというのは、そもそも論で言えば印象論の域を出ない。
実際の「悪質性」認定は、実質的な病的依存率の頻度(※2)など、複合基準を用いた基準によって行われるべきである。コンプガチャのようなユーザーの意識に深刻な錯覚をおこさせやすい課金手法は確かに問題だが、ガチャの確率だけを見てそのゲームが悪質といえるかどうか、というのは論外である。
今回はゲームの「悪質性」認定については、きわめて雑な議論が行われてしまった。残念なことである。もちろん、業界側から「悪質性」基準についてのじゅうぶん説得的な内容が世間に向けて発信できていなかったことが問題の根幹にはあるが、再びこのようなことが起こらないことを祈りたい。
■まとめ:各セクターの抱えていた問題点
最後に、複数のセクターの問題を、あらためてまとめると、次のようになる。
(1)スクウェア・エニックス及びサイゲームスは、「ドラクエ」というブランド展開をさせる際に、ソーシャル・ゲーム業界の標準的範囲にのっとって仕事をしてしまったことが致命傷だったというべきだろう。「ドラクエがソーシャルゲーム」というだけでそもそも反感が強い(※3)。指摘されたような図像表示の問題も具体的なポイントとしては存在したのだが、図像表示の問題がたとえあったとしても、予め提供アイテムの確率表示や、確率自体の緩和(※4)が行われていれば、今回の炎上自体は避けれた可能性は高かった。
(2)ソーシャルゲーム業界全体の構造的問題としては、業界のビジネスモデル自体がユーザーとの間に摩擦を起こしやすい状況をまだ多数抱え込んでいることが改めて明らかになった形だ。業界団体が、現況のガイドライン運用の徹底および、ガイドラインをレーティングなどを含めて再構築するなどの取り組みをする必要性が浮き彫りになった。
(3)2ちゃんまとめブログおよび、ネットのニュースメディアの構造的問題としては、2ちゃんまとめブログはもうどうしようもない感じが…漂ってしまっているが、各種ニュースメディアには、炎上事件を報道する際にもう少し背景を調べていただきたい。
(4)Apple・Googleの返金対応措置としては、既存の返金ポリシーが炎上時においては有効でないことを認識し、プラットフォーム事業者としてのあるべき対応を求めたい。
今回の炎上でスクウェア・エニックス及び、サイゲームスは少なく見積もっても1億以上の損失を被ったのではないかと思われる。Apple経由での返金の場合、消費者からの入金時にAppleに3割の手数料が払われるが、返金時にはスクウェア・エニックス側の100%負担となると言われている。その場合Appleは損をしないが、スクウェア・エニックス側には大きな損害が発生するという構図になる。
また、直接的な損害額だけでなく、今回の緊急対応にかかった人件費はおそらく相当なものになっているはずである。ゲーム内容の修正も細かい部分の微修正などでは済まないはずだ。何よりも、ゲーム内の基本となる難易度調整に大きく手をいれる必要が出るだろう。いままですでに出来上がっていた部分で、今後追加投入予定だった難易度設計を全てゼロから作り直す作業を余儀なくされる状態であると推測される。開発スタッフはここ数週間は、家に帰れない日が続くだろう。
もっとも、すでに繰り返し書いているように、ソーシャル・ゲームに関して、社会的な「健全化圧力」が官庁や、非ゲームユーザーからの圧力ではなく、ゲームユーザー自身の声によって、健全化圧力が発生し、それが履行されたという点では、今回の件はソーシャル・ゲームが「社会的にまともな産業」になるための重要なトリガーとなった。その意味では、この炎上は、良い側面もある。
今後、ソーシャル・ゲーム業界が「まともな産業」として、世間的に認められる契機をうまくつかめるように願いたい。
注
※1 だがサイゲームスと、スクウェア・エニックスはJOGA非加盟で、JASGA加盟という形となっており、何か少し不思議な気分のする状況になっている。
※2 ソーシャル・ゲーム(主に、カードバトル系のタイトル)の病的依存率の頻度については筆者が、昨年、田中辰雄氏を中心とした調査で調べている。その調査では家庭用ゲームよりは依存が起きやすいが、MMORPGなどのオンラインゲームと比べると相対的に依存率は低かった。問題があるのは確かだが、ゲームによってもばらつきがあり、ソーシャル・ゲームビジネス自体を、「社会悪」というように認定するほどかどうかと言われると、やはり断言は難しいのではないか、という範囲である。
※3 個人的には、筆者も長年のドラゴンクエストシリーズのかなりコアなファンなので、ドラゴンクエストブランドを、ソーシャル・ゲームで展開されるのは、いささか苦々しい気分もある。
※4 もっとも、アイテムの提供割合なしに、確率表示の緩和のみが行われていた場合、逆効果となる。初期無料分の1回~3回で「金の地図ふくびき」に金の地図を連続で引いてしまうユーザーの母数も増えるため、「金の地図ふくびき」が本当に金の地図しかでないふくびきだと、誤認するリスクも向上する。「金の地図が、字義通りではない」という誤認を避けるという目的ならば、むしろレアモンスターの取得率を低下させろ、という論理になってしまうだろう。
追記:2014/02/13 強調部分を若干変更しました。