日銀の追加緩和への壁
アフリカ中部ザンビアのエドガー・ルング大統領は10月18日に、自国通貨の急落を「癒やす」ことを願って神に祈りをささげたそうである。ルング大統領は前もってこの日を「不況脱却のため全国民が祈る日」と定め、全土でバーが休業し、サッカー国内リーグの試合も全て中止された(AFP=時事)。
先進国のなかにはデフレ脱却のため、自国通貨を下落させようと金融政策を行っているところもあったような気がするが、自国通貨が急落するとそれどころではなくなり、まさに祈るしかないような状態になりうる。
昨年10月末の日銀による量的・質的緩和の拡大、いわゆる異次元緩和第二弾は市場にとってかなりサプライズであった。このため、黒田日銀総裁が物価の基調は回復しつつあると主張しても、市場では10月30日の金融政策決定会合では、追加緩和を決定するであろうとの見方が依然として結構強い。これは、タイミングとしてのサプライズとなるとか、その内容はさておき、行動する事に意義があるとの理由のようである。つまり物価上昇を祈るのではなく、何でも良いから行動を起こすべきということになる。
その手段のひとつとして日銀の当座預金の超過準備の付利の引き下げや撤廃なども予想されていたようだが、超過準備の付利の変更については黒田総裁がきっぱりと否定した。このため、それを睨んでどうやら買い進まれていたらしい中期債には戻り売りが入る場面もあった。付利が無理ならば、今度は買入国債の年限長期化が想定されたようで、超長期債の売買が盛り上がるような場面もあった。
ただし、日銀が追加緩和をするにはいくつかの壁が存在している。たしかに今度の展望レポートでは物価や景気の見通しが下方修正される可能性が高い。もしそれを意識して追加緩和を行うであれば、これまで黒田総裁が主張してきた物価の基調についての考え方をあらためる必要がある。さらに二度の大胆な緩和で消費者物価指数が上がらなかったことの説明も必要となる。もしそれが原油安や消費増税とかの影響とするのであれば、日銀の金融政策とは違ったところの要因となりうる。大胆な金融緩和で物価が上がるという理論立てにも疑問も生じさせかねない。さらに追加緩和で物価上昇に働きかけられるとの説明にもかなり無理が出てくる。
政府の経済対策とも呼応して、世界的な景気低迷による景気下振れの回避のためとして、何でも良いから追加緩和を行うとしても、すでに追加緩和への在庫も限られている。このため、よほどの秘策でもない限り、大胆な緩和となることは考えづらい。これはつまりフレキシブルで逐次型の緩和に取られることにもなりかねず、これはリフレ派が否定していた本来の日銀の金融政策のあり方に戻ることになる。これも現在の日銀としては受け入れがたいものとなるのではなかろうか。