韓国の国会議員を夢見る元「平壌のプリンス」
春の総選挙に向け、候補者の人材発掘を急いでいる韓国の与党・国民の力のスカウト委員会は12月19日、7人の新人を党に迎え入れると発表した。ニュース専門チャンネルYTNのキャスターを務めた扈准錫(ホ・ジュンソク)氏、多文化家庭(どちらかの親が外国人)の出の弁護士のコン・ジヨン氏などがいる。
中でも注目されるのは、脱北者で国家報勲省の大臣政策補佐官を務めるキム・グミョク氏だ。北朝鮮の上流家庭で生まれ、何ひとつ不自由なく育ったという「平壌のプリンス」だ。
キム氏は1991年、北朝鮮の平壌の中でも、特権層が主に居住する中区域で生まれた。中学・高校に当たる平壌外国語学院を経て、最高学府の金日成総合大学外国語学部英語英文学科に入学し、在学中に中国の北京大学に2年間留学した。
韓国人留学生と討論を繰り広げ、北朝鮮人留学生による読書会を開くなど勉学に励んでいたキム氏は、北朝鮮の体制に疑問を抱くようになった。2011年に金正日総書記が亡くなったことを「祝う」パーティを開くなどしたが、読書会のメンバーが保衛部(秘密警察)に摘発され、自身の身にも危険が及びそうになり、韓国の情報機関、国家情報院の手助けで脱北した。
キム氏の両親については公にされていない。昨年8月のYTNとのインタビューでキム氏は、家族とは11年間連絡を取っていないことや、父に北朝鮮の体制変化と改革について話をしたところ「余計なことを考えたら家門が滅びる」とたしなめられたこと、そして父は亡くなった可能性が高いと聞いたことなどを述べた。
2013年に韓国の高麗大学の政治外交学科に入学し、卒業後は金容兌(キム・ヨンテ)議員の秘書を務めた。同時にテレビ出演、ユーチューバーとしての活動も行っていた。
また、世界的に人気を集めたドラマ「愛の不時着」の北朝鮮関連の助言を行う諮問委員としても活動した。主人公のリ・ジョンヒョクにまつわるストーリーは、同様に上流階級出身の脱北者でピアニストの金哲雄(キム・チョルン)氏の実話がベースになっているとのことだ。
キム氏は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)とのインタビューに、自身を「生まれてすぐに大飢饉の『苦難の行軍』を体験し、国が一体何をしたのかという根本的な問いを懐きつつ成長した世代」であるとして、家族中心、個人中心の自分たちの世代には、朝鮮労働党に無条件で従えという従来の集団主義ベースの支配方式は通用しないと述べた。
また、様々なデジタルデバイスを活用し、北朝鮮で韓流コンテンツを広げる役割を担ってきたのは自分たち世代だとして、北朝鮮の体制にとって最も脅威となっているとも述べた。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
そんな北朝鮮の若い世代に向けたコンテンツ制作と、情報流入の努力を継続し、そのためには韓国在住の若い脱北者の力の活用することで、さらに北朝鮮の若者の心に変化が生じるだろうと語った。
一方で、韓国の対北朝鮮政策は、大統領が変わるたびに変化するとして、他の政策はともかく、対北朝鮮政策は一貫性がなければならないと述べた。
キム氏が国会議員となれば、2012年5月から 2016年5月19日までセヌリ党(当時)の国会議員を務めた趙明哲(チョ・ミョンチョル)元金日成総合大学教授、そして国民の力所属の現職である元外交官の太永浩(テ・ヨンホ)氏、元コチェビ(ストリート・チルドレン)の池成浩(チ・ソンホ)氏に次いで、4人目の脱北者出身の国会議員となる。