米国と緊張でも「ドル札」は大人気…北朝鮮の最新トレンド
暮も押し詰まり、平壌に住む人々は「新年の挨拶をいかにするか」について悩んでいる。
能力の有無や公正な人事制度よりも「カネとコネ」が物を言う北朝鮮社会では、誰にどのくらいの価値の「贈り物」をするかは、その人の1年、場合によっては一生をも左右する。そんな「贈り物」のトレンドについて、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。
平壌の情報筋の説明によると、北朝鮮では新年に、普段から世話になっている所属機関の上司、力のある機関の幹部などの自宅を訪ねて挨拶し、贈り物を手渡すことが習慣となっている。贈り物と言っても、事実上のワイロだ。
政府高官であっても月給は1万北朝鮮ウォン(約130円)にも満たないため、全国に根っこのように張り巡らされたネットワークを通じて吸い上げられたワイロ、付け届け、上納金、贈り物の類を実質的な収入としている。もちろん、上に行けば行くほどその額は膨れ上がり、高級幹部らは資本主義社会も真っ青の豪華な暮らしを営んでいる。
(参考記事:金正恩氏が手を伸ばす「サウナ不倫」は危ない遊び)
かつて、「新年の贈り物」と言えば、海外高級ブランドの時計、金縁メガネ、電化製品だった。平壌や地方都市の外貨商店にとって、この時期は書き入れ時だったことだろう。
最近は様子が異なる。「輸入病をなくせという党中央の指示があった」(情報筋)からだ。
輸入病とは、何でもかんでも輸入に頼る傾向のことを指す。金正恩党委員長は2015年の新年の辞で、「すべての工場、企業所が輸入病をなくし原料、資材、設備の国産化を実現するための闘争を力強く繰り広げ、党の掲げた典型単位に学び自らの姿を一新させねばなりません」と述べている。これをきっかけに輸入病根絶と同時に国産品愛用キャンペーンが繰り広げられた。
だからといって、幹部や上司に国産品を持っていってはいけない。「いかなるものでも新年の贈り物扱いされない」(情報筋)からだ。そこで、最近のトレンドとして浮上したのは米ドル札だ。相手の職責に応じて50ドル(約5500円)から1000ドル(約10万9000円)までの米ドル札を包むのだという。
一部例外もある。高級幹部は老人が多いこともあり、高血圧や血栓に効く薬を渡したりするという。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、幹部の中にはおおっぴらに「プレゼントしてくれるならドルで頼む」と要求する者すらいるという。
この地方では、輸入化粧品、電化製品、医薬品、衣類、果物の順で人気があったが、輸入病をなくせという指示があってからは、米ドル札に取って代わられたという。
中央から来た幹部や従業員の多い企業所の幹部に対する贈り物の額は相当なものになる一方で、地方政府や零細工場、企業所の幹部への贈り物は数十ドルで済まされている。情報筋はそれを「貧富の格差」と表現したが、食うや食わずの生活をしている庶民と比べれば随分と贅沢な話だ。