どうして政府・日銀は24年ぶりに円買い・ドル売りの為替介入を行ったのか。効果はあるのか。
政府・日銀は22日、1998年6月以来、約24年ぶりとなる円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。どうして政府・日銀は為替介入に踏み切ったのか。その前に為替介入とは何かについて再確認してみたい。
為替介入とは何か
これについては日銀のサイトを見ると一目瞭然なのだが、それの紹介とともに簡単に概要を説明してみたい。
「教えて!にちぎん」為替介入(外国為替市場介入)とは何ですか?
「為替介入(外国為替市場介入)は、通貨当局が為替相場に影響を与えるために、外国為替市場で通貨間の売買を行うことで、正式名称は「外国為替平衡操作」といいます。為替介入の目的は、為替相場の急激な変動を抑え、その安定化を図ることです」(「教えて!にちぎん」)。
急激な円高ドル安となった場合に、政府・日銀が円を売ってドルを買うことで、急激な円高ドル安にブレーキを掛けるというものである。急激な円安ドル高の際には、政府・日銀がドルを売って円を買うことになる。
介入は政府・日銀が行うとしたが、日本では為替介入は財務大臣の権限において実施することとされている。日銀は、特別会計に関する法律および日本銀行法に基づき、財務大臣の代理人として、その指示に基づいて為替介入の実務を遂行する、いわば実行部隊といえる。
「日本銀行は、財務省に対し、為替市場に関する情報を毎日報告しています。また、財務大臣が為替介入を必要と判断した旨の連絡を受けた場合には、財務省に対し、為替相場の変動要因や、介入決定の判断に資するようなマーケット情報を報告します。これを受けて、財務省は、日本銀行に対し為替介入実行の具体的指示を行い、日本銀行が介入を実施します」(「教えて!にちぎん」)
このため日銀による為替介入という表現は正しいようで正確ではない。介入の決定権はあくまで財務省にある。ただし、その実行部隊が日銀であるため、政府・日銀による為替介入と表記されることが多い。
どうして円安が進むといけないのか
それではどうして政府・日銀は今回、24年ぶりに円買い・ドル売りの為替介入を行ったのか。それは円安が急激に進んだことが理由となる。円安は一部輸出企業にとっては恩恵を受けるが、工場の海外移転などもあり、以前に比べるとそれほど恩恵は大きくはなくなっている。これは下記のトヨタ社長の発言からも明らかとなった。
トヨタ自動車の豊田章男社長は22日、東京都内での記者会見で、急激に進行した円安について「資材や部品の輸入が増えており、輸入価格やエネルギー価格の高騰によるデメリットが拡大しているのが現実だ」と、自動車産業への悪影響に危機感を示した。トヨタは、対ドルで1円円安になると、年間の営業利益が120億円押し上げられる。しかし、足元では原材料やエネルギー価格の高騰で、通期では1兆7000億円押し下げられる。豊田氏は、日本の自動車の輸出台数が10年前と比べて約2割減っているとし、「円安が収益に与えるメリットは以前に比べて大変減少している」とも指摘した(22日付読売新聞)。
最も恩恵を受けるとされたトヨタでも、原材料やエネルギー価格の高騰により、円安が収益に与えるメリットは以前に比べ大きく減少している。トヨタですらとなれば、日本の多くの企業では円安により、かなりのデメリットを被っている。
ドル円が146円に迫る
ドル円は9月に入り140円台に乗せてきた。そして22日には一時、146円に迫り、1998年8月以来およそ24年ぶりの円安ドル水準となった。
どうして円安ドル高が進んでしまったのか。その大きな理由は日米の金利の違いにある。信用度にそれほど大きな違いがない場合に、お金は金利の高い方に行きたがる。これは個人も同様であり、安全性を考慮した上で、より金利の高いところに預けるほうが得であろう。
その金利(短期金利)を決めているのはどこか。それが中央銀行である。米国の中央銀行にあたるFRBや日本銀行は金融政策によって政策金利を誘導する。政策金利は短期金利のはずであるが、例外的に日銀は長期金利まで誘導しているが、これは例外中の例外である。
その中央銀行の政策金利を決める際に影響を与えるのが、経済や物価動向である。特に物価が数十年ぶりの上昇率となってきたことで、一部の国を除いて、各国の中央銀行は利上げや国債の売却などを通じて物価の上昇を抑えようとしてきたのである。
しかもFRBは0.75%という大きな利上げを連続して行ってきた。21日のFOMCでも0.75%の利上げを決定し、政策金利は3.00~3.25%に引き上げたのである。先行きも4.4%あたりまで引き上げる予測も出していた。
これに対し日銀は22日の金融政策で金融政策の現状維持を決めた。
現在の日銀の金融政策とは2013年4月に決めた量的・質的緩和を何度もバージョンアップしたものである。政策金利はマイナスに。さらに市場で決定されるとしていた長期金利までも0.25%に抑えるという、まるで戦時下のような極端な金融緩和策を行っており、それを全員一致で維持することを決めたのである。
日米金利差がますます拡大
これにより日米金利差がますます拡大することになる。これを受けて円売りドル買いが進み、ドル円は146円近くに上昇したのである。
22日にトルコ中央銀行は1%の利下げを決定した。トルコは80%ものインフレに見舞われているにもかかわらずである。発表後にリラは下げ幅を拡大し、対ドルで最安値を更新した。これと同様のことがドル円でも起きたともいえる。
本来であれば為替介入の前に、日銀が少しでも政策を調整すべきであった。すでに日銀の目標とする物価は目標値の2%を超えている。しかし、日銀は頑として政策修正にすら動かない頑固な姿勢を示した。負けは認めたくはないのであろうか。しかもそれをあと2~3年続けるとも黒田総裁は発言したのである。
トルコのエルドアン大統領はトルコ中央銀行は利上げを実施する必要はないと黒田総裁と同じような発言をしていた。
ちなみに主要20カ国・地域(G20)のうち、金融引き締めと距離を置くのは中国、ロシア、トルコ、そして日本の4か国だけとなった。
これでは円安ドル高がさらに進行することが当然ながら予想される。そのために政府・日銀は為替介入という手段を執らざるを得なくなった。最後の為替介入は2011年11月であり、この際は円売りドル買い介入であった。円安阻止の為替介入の最後は1998年6月であり24年ぶりとなる。
24年ぶりの円買い・ドル売り為替介入
24年ぶりの円買い・ドル売り為替介入を受けて、ドル円は145円台から一時、140円台に下落した。しかし、そこから、143円台に戻って、142円台にいる。今回の介入は方向転換などには至らず、あくまでスピード調整にしか過ぎないであろう。ドル円はいずれ150円を目指すことも予想される。
1998年6月の円買いドル売り介入時は、米国財務省も加わっての協調介入であった。しかし、今回は日本が単独で行ったドル売り介入となった。米国財務省にも事前通達はあったとみられ、米財務省は急激な変動阻止というのであればと理解は示した。米国サイドとすれば、バイデン政権にとって大きな課題の物価高の抑制ともなるドル高を止めたくはないのが本音であろう。
為替介入は通貨間の売買であるため、その遂行には円やドルなどの資金が当然必要になる。「ドル買い・円売り介入」を行う場合には、政府短期証券を発行することによって円資金を調達し、これを売却してドルを買う。反対にドル売り・円買い介入を行う場合には、外為特会の保有するドル資金を売却して、円を買い入れる。
このためドル買い・円売り介入については、形式上は限度なくできることになる。これに対し、政府保有のドルは巨額であっても使える限度がある。
日銀が現在の異次元緩和の修正を行わない限りは、日米金利差は当面、拡大し続ける。この場合の「当面」は年内あたりまでとなる。ただし、米国は来年も高い金利水準を維持することが予想される。
この結果、何か起きるのか
日銀は「当面」として、あと2、3年も現在の政策を続けるとしている。しかし、現在の金融政策を取り巻く環境が大きく変化していることは、企業物価指数を集計し、物価の番人とされる日銀関係者は当然、理解しているはずである。
しかし、総裁など一部関係者によって政策修正が封印されている。これにより政策委員全員が現状の政策維持に賛成するという、やや異常な事態となっている。これをトルコ化とも呼ぶべきか。
この結果、何か起きるのか。前回のドル売り・円買い介入を行ったのが1998年6月。8月にドル円は147円台を付けた後、下落基調となった。これは介入が効いたというより「ロシアの通貨危機」などによる影響である。9月にはヘッジファンドのLTCMの破綻などもあった。そして1998年12月には日本国債の急落、いわゆる資金運用部ショックも起きている。
今回は特に日本では大きな矛盾を抱えた状態が続くこととなる。世界的な物価の高止まりも続くと予想される上に、新型コロナウイルスによる影響、さらにはロシアのウクライナ侵攻などもあり、いずれ大きなショックが国内外で起きるであろうことは否定できない。