【ヤマハ「MT-10」試乗記】 R1の性能を日常で!リッターネイキッドの常識を覆す俊敏性と安心感
先日開催されたヤマハ・MT-10の国内メディア試乗会から、モーターサイクルジャーナリストでWebikeニュース編集長、ケニー佐川のインプレッションを動画付きでお伝えしたい。当日は雨という天候であったが、進化した電子制御技術が際立った試乗会となった。
意のままに操れるストリート最強性能
「MT-10」はスーパースポーツ「YZF-R1」をベースに開発されたスポーツネイキッドモデルである。
開発コンセプトは“意のままに操れるストリート最強のスポーツ性能”として、サーキット性能を追い求めたR1に対し、普段使うことの多い常用域に合わせてチューニングされているのが特徴だ。
▲【Webikeモトレポート】ヤマハ MT-10 SP 試乗インプレッション
R1のポテンシャルを日常域に最適化
エンジンはR1ベースの水冷直4クロスプレーンだが、よりストリート走行に適したトルク特性とするため、吸排気系・動弁系・燃料供給系など40%を新設計とし、最高出力も160馬力に最適化。
車体もR1同様のアルミ製デルタボックスフレームをベースに強度・剛性バランスを最適化しつつ、ボディパーツの約60%を専用品に変更。シート、タンク形状、フットレスト位置、ハンドルなどのライポジも最適化され、幅広いシーンでのライディングに対応させている。
電子制御システムもフル投入され、トラクションコントロール(TCS)やツーリングで便利なクルーズコントロール、エンジン出力のモードを選択できる「D-MODE」や、素早く確実なシフトアップ操作を可能にするクイックシフター(QSS)などを標準装備。
デザインコンセプトに掲げた”The King of MT”にふさわしい迫力ある独自のスタイリングや灯火類のフルLED化を含め、MTシリーズの最高峰に相応しいハイグレードな装備が与えられている。
今回試乗したのは上級バージョンの「MT-10SP」である。
装備としてはOHLINS製電子制御サスペンションと、そのサスペンションの制御やエンジン出力を含めた「ライディングモード」を自在に選択出来る「YRC(ヤマハ・ライド・コントロール)」を装備。
さらに、フルカラーTFT液晶メーターやアルカンターラ調シートなどが専用に装備されるなど、ハイスペックと高級感が与えられた仕様となっている。
今までの何物にも似ていない
何にも似ていないデザインだ。
MTシリーズ共通のデザインコンセプトである「ネイキッドとモタードの異種混合」はMT-10にも継承されているが、一方でネイキッドという言葉の響きからくる懐かしさやモタードから連想される線の細さは微塵も感じさせない。
むしろ、高密度なエネルギーを持った未来の精密兵器のような雰囲気を漂わせている。ロボット的な面構えからして見た目は“かなり手強そう”というのが第一印象だ。
常識外のコンパクトさ
近くでみると意外なほど小さい。同じヤマハのビッグネイキッド、XJR1300などに比べるとふた回りはコンパクトだ。
データで見てもホイールベース1400mm(なんとR1よりも短い)、車重210kgというのは従来のリッタークラスの常識を覆す軽量・コンパクトさだ。
跨ってみると、まずシートが高すぎないので安心する。R1より30mm低い825mmということに加え、前後サスペンションのビギニングが柔らかいので体重をかけると沈み込んでくれる。身長179cmの自分で楽々足が着いてヒザも十分曲がるレベル。
ハンドル形状はファイター的で比較的ワイドで高い位置にある。ステップ位置も高すぎず低すぎずで、リラックスした自然なライポジになっている。
際立つ低中速の扱いやすさ
エンジンを始動。R1に似た直4クロスプレーンのザラッとした粒感のあるサウンドだ。バーグラフで回転数を表示する鮮やかなフルカラーTFTメーターが目に飛び込んできて、軽くアクセルをブリッピングするだけで気持ちが高揚してくる。
ヤマハの開発者によるとMT-10のキーワードは3つ。「トルク」、「アジャイル」、「多用途性」だと言う。
R1譲りのハイパフォーマンスを日常域でも楽しめるように最適化されたモデルということで特に低中速トルクの特性を熟成させているが、それでも最高出力160馬力となれば通常は使いこなせるものではない。
そこで登場してくるのが電子制御だ。
スロットル開度25%までの低開度での応答性にこだわって作り込んだという電制スロットルは、開け始めでは極めてスムーズでトルクの出方がスイート。
エンジンの出力特性を切り替えても“ツキ“の穏やかさは変わらない。スロットルを開けていけばもちろん超強力なトルクが弾けるが、最も印象に残ったのは、この低中速域での扱いやすさである。
当日の天候が雨であり、路面もフルウェットだったため、なおさらだ。
電光石火のフットワーク
アジャイル(俊敏性)はR1譲り、というよりもR1を上回るほどだ。ハンドルとステップの位置関係もあるとは思うが、ちょっと体重移動したり、ステップ入力するだけで電光石火のごとく車体が反応してくれる。
いわゆるビッグネイキッド的な重量感はまるでなく、それでいてカッチリとした車体としっとりとした前後サスのおかげで安心してコーナリングを楽しめる。
安心・安全な電子デバイスに守られて
いわゆるライディングモードである「YRC」は4つの設定枠があり、Aは最もエンジンのレスポンスがシャープ。以下、Bがワインディング向けのスポーティな設定で、Cが街乗りやツーリング向け、Dがレインを想定したより穏やかな設定で、操作もボタンひとつで切り換えるられるなどとても分かりやすい。
当日は雨天だったので特にDモードの扱いやすさが光った。レスポンスも極めてリニアかつ穏やかで、出力特性やトラコン介入度、電子制御サスペンションのダンパー特性などもモードに合わせて最適化される仕組みだ。パワーの出方がマイルドでサスの設定もソフトなので凄く安心感がある。
トラコンの介入タイミングはDモードでも決して早くなく、けっこう開けていったが雨でもなかなか滑らない。
タイヤとサスペンションが良い仕事をしてくれているおかげもあると思うが、電制もあくまでもライダーが主役であることを実感させてくれるスポーティな味付けだと思った。
さらにブレーキもABSはかなり突っ込んだところで効く設定で、ウェットでも積極的にスポーティな走りが楽しめた。駆動力が途切れることなくギアアップできるクイックシフターに加え、過度なエンジンブレーキを緩和してくれるアシスト&スリッパ―クラッチも含め、雨天では大きな安心感となってライディングを助けてくれた。
試す機会がなかったが、クルーズコントロールも高速ツーリングでは便利な装備だろう。
ストリートスポーツの新たなベンチマークへ
ちなみにSTDのMT-10にも最後に少しだけ乗ってみたが、おそらくサスペンションの違いからくる乗り心地のグレード感やメーターディスプレイの華やかさ、気軽に多様なセッティングを試せるYRCの楽しさなどの点で、正直に言えばSPとの価格分の差は見られた。
MT-10はあらゆる意味で今までの“ネイキッド”の常識を覆す、完成度とパフォーマンスと持ったモデルだ。ストリートスポーツの新たなベンチマークとなり得る傑作機と言えるだろう。