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バイクは進化したのか!? 絶版車に乗って思ったこと

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

先日、バイク販売店グループ、レッドバロンが主催する絶版車試乗会に参加してきた。往年の名車、絶版車がずらりと勢ぞろいしていたのだが、これは同社が展開する「譲渡車検」付きという完全整備された中古車をメディア関係者に体験してもらうというのが主旨だった。

試乗した車両の中には80年代~90年代バイク全盛時代を彩った、2ストレーサーレプリカや4気筒250ccスポーツ、大排気量シングルスポーツなど今は絶滅してしまったカテゴリーも多く、あらためて時間の流れを感じさせられた。

昔のバイクの優秀性に驚く

どの車両も非常によく整備されていて、何十年も前の絶版車なのにとてもコンディションが良く、気持ち良く乗れたことが印象に残っている。もちろん、メディア向け試乗会ということもあり、力を注いで完璧なメンテナンスを施していたことは察しがつく。ただ、それ以上に驚き、感銘を受けたのは昔のマシンの優秀性だった。

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バイク本来の魅力はどこへ

時代とともに進化するのは、家電でもITガジェットでも自動車でもバイクでも同じだ。すべてのモノは便利な機能満載で扱いやすく、ユーザーフレンドリーになっていく。バイクにおいても、今や常識となったABSやトラコン、そしてライディングモードなどが搭載されたモデルが増えてきた。安全のためにも、こうした電子デバイスが普及するのは大歓迎である。

ただ、その一方でバイクが持っていた本来の魅力は失われていないだろうか……。

2ストロークエンジンの目が眩むような加速感。4スト250cc直4エンジンが奏でる2万回転のサウンド。速さを求めた高性能ビッグシングルのソリッドな鼓動感。これらを説明するのに能書きなどいらない。ライダーの感性に直球で入ってくる凄みであり、力量であり、美しい何かがかつてのバイクにはあった。それを今回の試乗会で感じたのだ。

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クラス最強が毎月入れ替わった時代

若者のバイク離れ、と言われて久しいが、こうしたバイク本来の魅力が昔と比べて薄らいだこともその背景にあるのではなかろうか。自分が青春時代を謳歌した80年代は日本におけるバイクブームの最盛期だった。性能第一主義とパワー競争の時代で、文字どおり毎月のように最高出力を更新してスペックを強化したニューモデルが登場していた。特に排気量250cc~400ccの、いわゆる中免(中型二輪免許、今の普通二輪免許)で乗れるクラスは各メーカーとも日本を主戦場として、レースシーンだけでなく公道モデルでもガチンコ勝負を繰り広げていたのだ。

そうした時代に作られたマシンは今でもやはり凄い。というよりも、同じクラスで比較すると明らかに速い! 速さがすべてではないが、バイクの魅力の大きな部分であることも確か。30年も前のバイクが今より優秀!? これはちょっとショッキングなことだった。

時代は変わっても本物への渇望は変わらない

ある意味、恵まれた時代に生まれたマシンだからこそ珠玉の輝きを持っていたと思うし、若者たちもその強さやカッコ良さに本能的に惹かれた。スマホやネット動画など存在していなかった時代、人々はリアルな刺激と興奮をバイクに求めたのだ。

もちろん時代は変わり、排ガスや騒音規制や安全基準などバイクを取り巻く環境も大きく変化してきた。バイク業界の主要マーケットも海外へと移っている。でも、だからといって中途半端なモノを作っても本物を求めるユーザーは振り返ってはくれないし、人間の本質は一世代ぐらいでは変わらない、と自分は思っている。

卓越した技術力で世界を席巻した国産メーカー。彼らが作ってきたバイクは絶版車となった今でも光り輝いていた。もう一度本気を見てみたい。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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