2014年ツール・ド・フランス第10ステージ ツール開催委員長というお仕事
自転車取材を始めたばかりのころ、前ツール開催委員長ジャンマリー・ルブランの専属運転手「ブブ」に、とても可愛がってもらった。エディ・メルクス全盛期に走っていた元プロ選手で、ツアー・オブ・カタールでは彼の運転するプレスカーに何度も乗せて貰った。右も左も分からない取材初心者の私に、自転車界の慣例やらを、たくさん教えてくれた。
そのブブは、いつもこんなふうに言っていた。
「良いツール・ド・フランス開催委員長であるための最大の条件。それは、頑強な胃袋を持っていること」
レース知識とかカリスマ性とか、自転車への愛とか、色々大切な条件はある。だけど、なにより開催委員長は、「ツールの顔」として、1年中パーティーや接待にひっぱりだこ。そこではすすめられた食事を全て平らげ、注がれたお酒を全て飲みほさなければならないらしい。
すると、ブブの新旧委員長への評価とは?
「ジャンマリーは、とにかく大食漢だったね。お酒もかなりいけた。クリスティアン(プリュドム)は……、むしろ『ざる』かな。一日に何度乾杯しても、絶対に潰れないし、二日酔いもない。まさしく開催委員長にふさわしい人間だ」
たしかに、開催委員長は、オフィシャルカー内ではVIPと共にシャンパンをたしなむのがしきたりだ。レース後は招待客エリアへ顔を出して挨拶周り。夜は開催自治体の長やらスポンサー関係者からの接待をハシゴ。もちろん、その合間には、開催委員長としての本来の業務もたくさんこなしている。分刻みのメディアインタビューに、ヴィラージュで毎日行われる式典司会。レースはスタートからゴールまでオフィシャルカーで帯同し、表彰式は裏側から見守り……。
アルザス生まれのクリスティアン・プリュドム氏は、ツールがアルザスに入ったこの日、いつも以上に胃袋と肝臓を酷使したことだろう。
スタート地のヴィラージュ(スポンサースタンド)では、民族衣装を身にまとった女性たちからツール・ド・フランス地図が描かれたケーキやら名物のフォアグラ、クグロフを勧められ、全てをおいしそうに平らげたのだった。