過去最高値更新が続くパラジウム、年初から20%高
自動車の排ガス触媒や宝飾品などに使用される貴金属パラジウム価格が高騰している。年初からの12営業日中の11営業日が前日比プラスとなっており、しかも10営業日で過去最高値を更新している。昨年末の1オンス=1,909.30ドルに対して1月7日の取引で早くも2,000ドルの大台に乗せたが、その2営業日後の1月9日に2,100ドル、更に5営業日後の1月16日に2,200ドルと、短い時間で価格水準が激変している。
1月17日に付けた高値は2,298.80ドルに達しており、昨年末から既に最大で20.4%の急騰地合になっている。金融市場では米国株が連日の過去最高値更新となっていることが注目を集めているが、ダウ工業平均株価の昨年末からの最大上昇率が2.9%であることと比較しても、パラジウム相場の異常さは際立っている。
パラジウム相場は2016年から4年連続で上昇中であり、ここ最近になって突然に上昇している相場ではない。昨年も1年で712.10ドル(59.5%)の急騰相場になっている。ただ、今年は1月下旬時点で早くも315.60ドル(16.5%)となっているだけに、マーケットの注目度も高まっている。
背景にあるのは、世界各国における排ガス規制強化の動きだ。今、世界は脱化石燃料のトレンド上にあり、ガソリンや軽油などの化石燃料を使う伝統的な自動車から、環境負荷の小さい電気自動車(EV)へのシフトを進め始めている。ただ、当面は技術的にもコスト的にも全ての自動車をEVに代えることはできず、排ガス規制強化の形で環境負荷をできる限り限定する方向性にある。例えば、欧州では「Euro 6d」と言われる新基準の環境規制が今年1月から導入されている。中国も今年7月に現行規制の「国5」から更に基準を引き上げた「国6」を導入するが、既に北京や上海など一部地域では先行して規制強化が行われている。インドも今年4月に「BS-VI」規制を導入するが、これと同様の動きが世界的に広がりを見せている。
いずれも新基準に適合しない自動車は、販売停止や罰金などの対応を迫られることになり、新モデルの販売を断念する動きも広く報じられている。こうした中、自動車メーカーは排ガス用触媒貴金属の調達量を増やしており、貴金属調査会社GFMSは今年のパラジウムの自動車触媒用需要が昨年から3.0%増加するとの見通しを示している。
通常、ここまで短期間に価格が急騰すると、需要家の買い控えや消費量の抑制といった形で価格は鎮静化されることになる。しかし、現在はパラジウム相場の高騰よりも強化された新排ガス規制をクリアできないリスクの方が強く警戒されており、天井知らずの値上がりになっている。
実際に、パラジウム先物市場では、受け渡しまでの期間が短い期近物が、期間が長い期先物よりも大きく値上がりしている。通常は期近物より期先物の価格の方が高くなり、これを順サヤというが、この関係性が逆転した逆サヤは、現物市場の需給がひっ迫化している際に発生する現象になる。逆サヤの拡大、リースレートの上昇など、投機的な高騰相場とは言えない動きが多数観測されている。過去に経験したことのない価格水準とあって、どこがパラジウム価格の高値限界なのか、誰も分からない状態になっている。
では、増産すれば良いと考えられがちだが、パラジウムはプラチナやニッケルと同時に産出されるため、パラジウムの高騰で直ちに増産を進めるといった議論にはならない。しかも、主要生産国である南アフリカでは電力供給不安から既存の生産体制を維持できるのかさえも、疑問視される状況になっている。
パラジウムとプラチナの間には一定の需要代替性があるが、設備更新には数年単位の時間が必要なことに加えて、新排ガス規制クリアのためのぎりぎりの対応が繰り広げられる中、プラチナがパラジウムの半値以下の価格水準といっても、触媒用貴金属の切り替えといった冒険主義的なことも行われづらい。
過熱感は間違いなく強い。現在の上昇ペースが持続できるはずはなく、突然に急反落する事態になっても、当然と受け止められよう。ただ、拡大する需要に供給が対応できない構造問題が長期化している市場であり、上昇相場そのものが大きく修正を迫られる可能性は低い。