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「飲みニケーション」でマネジメント力不足を補うなら、6つのルールを守ろう〜若手に嫌がられないために〜

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
やっぱりお酒が一番手っ取り早い?(写真:アフロ)

■コロナでわかった「飲みニケーション」の価値

酒の席をともにすることで関係性を深めようとすることは、昔からオヤジギャグ的表現で「飲みニケーション」と呼ばれてきました。コロナ禍によって極端に減ったものがこの「飲みニケーション」です。しかし、無くなってみると、「飲みにいくことでしか解決できないわけでもない」とも思えますし、「飲みにいくことで、簡単に解決できていたことがあったなあ」とも思えます。

「飲みニケーション」に対してどう感じたかどうかは人によって違うと思いますが、お酒が入るとアルコールの作用によりお互いにリラックスし、コミュニケーションの壁が外れることで早く深い関係になれるという理屈です。

私も二十数年前、社会に出た際に「酒の3時間は仕事の3か月」(詠み人知らず)と言われた記憶があります。実際、何か月も隣で働いていてもパーソナリティが謎だった同僚が、飲みの席で数時間話すことで意外な側面を知ることができ、仲良くなったことは今まで何度もありました。

人事でありながら対人恐怖症気味の私にとって、お酒の席は重要でした。いろいろ深い話を、勇気を持ってすることができ、これまでの人生では飲みの席が重要な岐路になったものです。私にとって「飲みニケーション」は概ね良いものでした。

■「飲んでごまかそうとしている」など袋叩きの様相だが

しかし現在、巷では「飲みニケーションは終わった」と言われています。すでに死語の領域かもしれません。上司・部下との社内飲みニケーションは、特にそんな風潮です。世の中の言説のメインストリームは以下のようなものが大半で、袋叩きの様相を呈しています。

「仕事なんだったら残業代をつけて欲しいのに、むしろ無駄な出費になる」

「飲み会で作った関係はなあなあで、けじめの無いものになるのではないか」

「飲まないとできない仕事の話などないのではないか」

「飲み会で2~3時間など長すぎる。どんな用事でもふつう1時間で済む」

「お酒の弱い人には地獄」

「異性の上司部下とはそもそも行きにくい。性差別につながるのでは」

中には「上司がマネジメント力の無さをカバーするために、飲んでごまかそうとしている」「酒で勢いがついて、パワハラ、セクハラなどの温床になる」なんて辛辣な声もあります。

正直、私も上記の反対意見については賛同できることも多く、否定はできません。個人的にも健康のために禁酒中ということもあって、飲みニケーションができない状況です。やはり飲みの席を活用したコミュニケーションは、もう完全に無効なのでしょうか。

■飲み会だからではなく「つまらないから嫌」なのでは

ところで、世の言説は先に述べたように「否定派」が多いものの、実際には(私が鈍感なのかもしれませんが)若い人であっても、お酒の席を必ずしも敬遠するという人ばかりではないように思います。

むしろ上司の方が気を使って「もしよかったら、メシでも食べながら話そうか……。いや、別に昼間に会議室で話してもいいんだけどな」と恐る恐る誘うのに対し、「あ、え、もちろん。ぜひぜひ」みたいな場面に出くわしたりします。

一方で嫌がられたり、断られたりしている上司もいます。この違いは何か。考えてみれば当然の話ですが、結局「飲み会だから嫌」というよりも(もちろん一部あるでしょうが)、「あなたと飲むのは嫌」ということではないでしょうか。

そうでなければ、その若者はどんな飲み会でも断るはずです。しかし、そうはなりません。つまり、単にその上司が若者から飲みニケーションを断られているのは、参加するに値しない「つまらない場」だと思われているからです。

本来なら、上司の方も「動機は善」の飲みニケーション。決して部下に嫌な思いをさせたいわけではなく、彼らともっと深くコミュニケーションを取りたくて誘っているわけです。

確かに反対派の言うように「マネジメント力不足」という言葉には、ぐうの音も出ません。酒がないとマネジメントできないなんて、確かにダメです。しかし、その「不足する力」を補おうとする涙ぐましい努力が、飲みニケーションへの誘いだったりするのです。

■「強制しない」「短時間」「おごる」などは鉄則だ

ですから、もし以下のようなルールを守り、かつ楽しい場になるのであれば、若い人たちはマネジメント力の拙い上司を許してあげて欲しいと思います。

1.強制しない

大前提は「強制しない」です。そもそも上司の力不足を補うものです。部下に譲歩してもらうのですから、強制はもってのほか。直接的な強制でなくとも「断りにくい雰囲気」を作るのもダメです。

そもそも強制して嫌々来てもらっても、逆効果です。そういう場合は「飲み」はあきらめて、ランチやコーヒーブレイクで、あるいは普通に会議室で話しましょう。

2.短時間で終わらせる

2次会、3次会など何時間も連れまわしてはいけません。1次会のみで、2時間一本勝負ぐらいの短時間で終わらせ、用事が済んだら、さっさと帰してあげましょう。飲み足りなければ、一人でバーにでも行ってください。

3.おごる

上司から誘うのでしたら、基本はおごりましょう。「残業代くれ」くらいに思っているわけですから、それ以上の負担を若者にかけるのは避けたいものです。

4.飲み過ぎない

飲み過ぎると、どうしても調子に乗ってしまい、若者を説教してしまう可能性が高まります。そもそも議論に勝ったり、説教したりしても、人はあまり変わりません。また、感情の起伏も激しくなり、嫌がられてしまうかもしれません。

また、酔うと記憶力も弱くなります。せっかくその場では熱く話したとしても、「あれ、昨日の話なんだっけ?」となってしまうのでは本末転倒ですし、部下とした約束を忘れてしまっては信頼を失いかねません。

5.長話をせずに、相手の話を聞く

上司世代ともなると、どうしても話が長くなります。気づいていない人も大勢いますが、基本的にほぼ皆そうだと自覚した方がよいと思います(私もそうです)。そもそも上司は、指示は日中にいつでもできます。酒場で飲まないと話せないようなことを、いかに引き出すかが一つの価値であるなら、こちらが話すのではなく、相手の話を聞きましょう。

6.酒の席での話は寛容に、内密に

お酒というある種の薬物を使ってドーピングして、なんとか相手の本音を引き出すということをしているわけで、もしかすると部下も思い誤って言い過ぎてしまうかもしれません。

上司にとって失礼なことも言うかもしれませんし、本当は言うはずではなかった秘密にしておきたいことを口がすべって言ってしまうかもしれません。それを上司が、翌日いろんな人に吹聴したのではたまりません。酒の席でのことは酒の席限りが基本です(ただし、誘った上司側はそうであってはいけません)。

■目的に合わせて柔軟にスタイルを変えることが重要

以上、当たり前のことばかりで恐縮ですが、これらを満たせれば若い部下にとっても「飲みニケーション」は許せる場、有効な場になる可能性があります。

――と、こう書いてはみたものの、自分でも「こんなに気を使わないといけないなら、飲みニケーションなんていらないかも」と思えてきました(笑)。飲みニケーションは工夫をすれば今でも特定の人にとっては十分効果的かもしれませんが、他の手段があるのであれば、そちらで代替した方がよいかもしれません。

ともあれ、どんなコミュニケーションでも同じように、「飲みニケーション」も人によって適不適があるということですね。ワンパターンなコミュニケーションばかりしていないで、目的に合わせて柔軟にスタイルを変えるということが重要なのでしょう。

キャリコネニュースより転載・改訂

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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