いかにキム・ヨンギョンを封じるか 女子バレー 運命の日韓戦
運命の韓国戦
バレーボール女子のリオデジャネイロ五輪世界最終予選兼アジア予選で、日本は2連勝と好スタートを切った。そして、次に戦うのは韓国だ。世界ランキング5位の日本と同9位の韓国。長年にわたってアジアの舞台で、そして世界の舞台で激戦を繰り広げてきた。バレーボールに限らず、どの競技でも「永遠のライバル」「アジアの強敵」というような言葉がよく使われるが、女子バレーだとなおさらぴったり当てはまる。
ロンドン五輪の出場権を懸けた4年前の大会。日本は3連勝、しかも失セット0と波に乗って韓国戦を迎えた。しかし、1-3で敗れた。真鍋監督は「韓国に負けてからうまくいかなくなった」と振り返る。その後、最終戦で2セットを取るまで五輪切符が確定しない苦しい戦いを強いられ、選手らには今も苦い記憶として残っている。
韓国とのこれまでの対戦成績は悪くない。前述した敗戦以降は6連勝中。ロンドン五輪の3位決定戦でも勝ち、昨年のワールドカップでも勝っている。それでも、やはり韓国は侮れない。17日の日韓戦は、リオ行きの切符の行方を左右する大一番だと言っても過言ではないだろう。
韓国のキーマンはキム・ヨンギョン
韓国で最も警戒しなければならないのは、真鍋監督に「世界ナンバーワン」と言わしめるエースのキム・ヨンギョンだ。ロンドン五輪で4位ながら異例の最高殊勲選手(MVP)と得点王になり、韓国では「100年に1人の逸材」と言われる。最大の武器は192センチ、最高到達点307センチの高さから繰り出す強烈なスパイクとジャンプサーブ。ここまでの2試合で50得点をたたき出し、ベストスコアラー部門で首位に立つ。15日のオランダ戦では、強豪ひしめくヨーロッパで2位の実力国から24得点を挙げた。その圧倒的な力には、木村がトルコのワクフバンクでプレーした時の指揮官で、ドイツ代表監督としても辣腕をふるったオランダのグイデッティ監督ですら「二十数年の監督のキャリアの中で、キム・ヨンギョンのようなすごい選手を見たのは初めてだ。そしてこの先、何十年もあのような選手は出てこないだろう。脱帽した」と舌を巻いた。
攻撃力だけではない。守備力も高く、レセプション(サーブレシーブ)では、リベロを含めた3人で守っているときでもコートの約半分を1人で受け持つ。まさに韓国の攻守の柱。そして主将を務め、闘志あふれるプレースタイルでチームを引っ張る精神的支柱でもある。
どうやって封じるか
このキム・ヨンギョンをどう攻略するかが、日本が韓国に勝つ鍵になる。日本の主将・木村沙織は「日本対キム・ヨンギョンという形に持って行きたい」と話す。
では、この世界の大砲にどう立ち向かうか。日本の長所であるディフェンスはもちろん重要だ。キム・ヨンギョンのスパイクに対して、しつこくブロックにつき、コースを絞ってレシーブを上げる。それをいつも以上に徹底する必要がある。ディフェンス担当の辻健志コーチは「スパイクコースを他の選手よりも詳しくデータを出してシフトする」と話していた。だが、オランダ戦でのキム・ヨンギョンはリベロを除く先発の平均身長が187.7センチの相手のブロックを含む守備を完全に上回っていた。世界トップクラスの高いブロックが、常に2~3枚でキム・ヨンギョンを徹底マーク。空いたコースにはレシーバーがいてボールに食らいついた。それでも、スパイクだけで20点をもぎ取った。1本で決まらなくても、切り返しで2本、3本と続けてトスが上がっても打ち抜き、最後にはしっかり決めるタフさがあった。
二つの有効なサーブ
そんな大エースに対して有効だと考えるのは、日本のもう一つの武器であるサーブでの揺さぶりだ。その守備力の高さゆえ、コートの半分近くを受け持つ守備範囲を逆手に取ればいい。
体の正面に来るような足を動かさないで簡単にレシーブできるサーブではなく、キム・ヨンギョンの足をいかに動かしてサーブを取らせるかがポイントだ。特に、前に落として取らせるサーブが有効になる。足を動かし、一度しゃがむようにして前のボールを取らせ、そこから体勢を起こしてトップスピードでスパイクの助走に入るように仕向けるのだ。これはかなりきつい運動だ。あるアタッカーは「毎回フルスクワットをさせられているようなもの」と表現していた。想像してみてほしい。フルスクワットをして、すぐにスパイクのために4~5メートルをダッシュで助走する。助走してから、最後はフルパワーでジャンプしてスパイクを打つのだ。間違いなく下半身に負担がかかる。これをひたすら繰り返させればいい。オランダ戦の3セットでのキム・ヨンギョンのレセプション本数は20本。韓国チーム全体では68本だから、キム・ヨンギョンに取らせる本数をもっと増やせばいいのだ。増やせば増やすほど、試合が進むにつれて疲労は蓄積される。
幸いにも、真鍋監督が「日本に絶対的なエースはいない」と言うように、日本にキム・ヨンギョンのような存在はいない。ここまでの2試合は木村沙織と古賀紗理那、長岡望悠の3人のサイドアタッカーでスタートしているが、途中出場している石井優希、迫田さおりも調子はいい。フルセットのような長い試合になってこの3人が疲れたとしても、日本には代わりにスパイクを決める選手がいる。だが、韓国にはいない。ましてや、キム・ヨンギョンの代わりが務まる選手はなおさらいない。
もう一つ、有効だと考えられるサーブがある。ここまでの2試合で、キム・ヨンギョンはレフトの位置でレセプションを受けた後、通常のレフトのスパイクの位置より0.5~1メートルほどセンターよりのところから打つことがあった。また、Bクイックの真後ろから時間差に入る攻撃も多用していた。Bクイックにブロックが全く引っかかっていなくても、だ。つまり、キム・ヨンギョンは通常のレフトの位置より中に切れ込んで打つスパイクを得意としている可能性もある。そのタイミングを少しでも崩すために、キム・ヨンギョンがレフトの位置でレセプションを受ける際に、韓国側のレフトサイドのエンドラインとサイドラインが交わる角を狙って打つ。そうすれば後ろに下がらざるを得ない上、さらにサイドライン側に体を移動させないといけなくなる。そうやって少しでも助走に入るタイミングを変えさせたり、通常の助走距離よりも長くさせたりすることで、ストレスをかけられる。
これはキム・ヨンギョンに対する一つの策に過ぎない。日本がキム・ヨンギョンにいかに対峙するか。そして、韓国をどう攻略するか。そこに着目して試合を見ると、よりいっそう楽しめるはずだ。