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日銀金融政策決定会合の政井氏の棄権と17年前の水野氏の棄権の違い

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 日銀の政井貴子審議委員は18日の金融政策決定会合で採決を棄権した。決定会合での棄権は17年ぶりと極めて異例だと18日の日経新聞が報じていた。

 日銀によると、政井氏は退任後に民間企業の取締役に就任予定で、「金融政策に関する意思決定の中立性・公正性を明確にするため」自身の判断で棄権したという。政井氏の日銀審議委員の任期は29日まで。7月1日付で三菱ケミカルホールディングスなどの社外取締役に就任する予定となっている。

 この記事のなかで、決定会合で採決を棄権するのは2004年の水野温氏審議委員以来となるとも伝えられていた。

 これだけでは2004年の水野氏の棄権も同じ理由ではないかと受け取られてしまうかもしれないが、実際には水野氏の棄権は全く違う理由によるものであった。

 水野審議委員(当時)が、金融政策決定会合で棄権をしたのは、2004年12月16日、17日に開催された金融政策決定会合においてであった。

 水野氏が日銀の審議委員に就任したのは2004年12月3日であった。つまり、2004年12月16日、17日に開催された金融政策決定会合が水野審議委員にとっての初会合となった。

 すでにこの会合から10年以上が経過しているため、この会合の議事録を日銀のサイトで確認することができる。どうして棄権したのかその理由も議事録に記載されていた。

 2004年12月17日の金融政策決定会合の金融市場調節案に関する議長案については全員一致で可決されている。

 ところが、この会合での2004年10月29日分と2004年11月17日・18日開催分の金融政策決定会合の議事要旨に関する承認について、水野委員は棄権したのである。

 これについて当時の福井総裁(議長)が次のようなコメントを出していた。

 「水野委員の棄権は、今回から参加され、議事要旨は以前の分であるので棄権するということである」

 就任前の決定会合の議事要旨であったことで、棄権するということであった。

 ただし、須田委員(当時)は、これについて「今まで我々は棄権でなくサインをしていたのだが」とコメントしている。どうやら慣例によってこのような場合はサインをしていたようである。

 とはいっても、参加していない金融政策決定会合の議論を要約した議事要旨にコメントをするのは適切ではないとの水野氏の判断は適切であったと思われる。

 このように水野審議委員(当時)と今回の政井審議委員の棄権については、意味合いがまったく違っていたのである。

 今回の政井審議委員の金融政策決定会合での棄権については、いろいろと議論が分かれるところではあろう。決定会合の議論に参加し、意見表明も行った上で、棄権票を投じても良いのかという意見もあろう。

 今回においては、就任先(予定)が事前に報じられてしまったというイレギュラーなことが起きてしまったということもあった。しかし、退任後の就任先との関係について、どのように対応すべきかという問題も浮かび上がる。

 このあたりは制度面で対応せざるを得ない問題でもあるが、今回の政井氏の棄権については、それなりに深い意味を持つものでもあったと思われるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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