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NHK籾井会長の今後の釈明を予想する

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

NHK籾井会長が私用のゴルフの行き来にハイヤー(傭車)を使い、その代金をNHKが支払っていた問題がくすぶっています。筆者はこの問題は籾井会長が「請求が来て気付いたので払った。」という言い分を貫いて通すのかな、と思っていたのですが、今日(註:3月18日)、新たな情報が出てきて、雲行きが変わる可能性があります。

内部資料や関係者によると、籾井会長は今年1月2日、東京都渋谷区の自宅と小平市の小金井カントリー倶楽部(くらぶ)をハイヤーで往復。車両は午前7時に出庫し、約12時間利用した。伝票上は業務内容として「外部対応業務」と記され、籾井会長名のサインもあった。

出典:朝日新聞デジタル 3月18日(水)5時30分配信

この記事と、下記の記事を前提にして時系列をまとめると以下の通りになります。3月9日の「請求書」は、文脈からするとNHKから籾井氏に対する請求書と思われます。

1月2日

籾井氏が私用のゴルフでハイヤーを使用。代金4万9585円。籾井氏はこれを支払わず、請求書はNHKに送られることになった。

2月中旬

ハイヤー会社からNHKに1月分の請求書が来た。

2月中旬以降

NHKが1月2日の籾井氏のタクシー利用について「外部対応業務」の名目で伝票作成。籾井氏はそれにサインした。結果、NHKが代金を支払うことになった。

3月6日

籾井氏が内部監査委員から事情を聞かれた。

3月9日

籾井氏の元に請求書が届き、籾井氏は秘書室に支払った。

スポニチ3月18日http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2015/03/18/kiji/K20150318010005110.html

北海道新聞3月15日http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/society/society/1-0111887.html

着目点は少なくとも三つ

筆者が従前から着目していたのは、籾井氏が当日に代金を支払わなかった点です。あるいは、運転手に言って、籾井氏の請求書を自宅に送らせることもできたはずです。もっとも、筆者はハイヤーを使用したことがないので詳細は分からず、「私用分も後でまとめて処理するルールだった」と反論されるとそれで終わりかな、と思っていました。

次に、そのようなルールであれば、私用の代金が他と混じらないように、年明けの業務開始後、秘書等に「1月2日のは私用だから伝票を私用で切ってね」と念押しすることもできたはずですが、籾井氏はそれをしていないようです。ただ、この点については、すでに籾井氏がしている「年末の時点で秘書には言ってあった」が反論になり得、年明け後については「一度言ったので念押しまではしなかった」と言われると、それで終わりになります。

そして、今回、もう一つ着目点が増えました。籾井氏は1月2日のハイヤー私用について、「外部対応業務」と誤った名目が書かれた伝票にサインしていたのです。故意にやっていた場合、本来は自分が支払うべきハイヤー代について、籾井氏が公用の旨が書かれた伝票にサインをすることでNHKをだまし、NHKが公用であると誤信してハイヤー代を負担し、籾井氏自らは本来NHKからされるはずだったハイヤー代金の請求を免れたことになります。これは詐欺罪(二項詐欺)の構成要件に該当する可能性があります。

そうすると、籾井氏は、真実がどうであれ、「それと分かってサインした」とは言わないでしょう。「伝票の内容(日付、行き先等)を確認せずにサインした。サインすべき伝票は多数あり、事前に秘書に言っておいたこの件の伝票が回ってくると思わなかったのでうっかりしていた。」+「多忙で確認が疎かになっていた」などという釈明が考えられるのではないでしょうか。なお、朝日の記事によると、NHK幹部が「職員が業務用の伝票を誤って作成したため会長に請求書が届くのが遅れ、結果的に監査委員会の調査後の支払いになった」と説明しているようですが、籾井氏が業務用の伝票にサインをしている以上、説明になっていないように思えます。

その言い訳は通じるか

しかし、伝票まで過失だったということになると、当日の支払い(または請求先の変更)、例外的私用であることの事後の念押し、伝票サイン段階のチェックと、問題を回避できるポイントが3回もありながら全部スルーしたことになります。もともと例外であるべき私用の立替払いについて、2ヶ月以上も経っているのにその後どうなったのか気にならないのでしょうか。このような籾井氏の態度は、NHKという極めて公益性の高い団体に私費を立て替えさせたことの重大性を全く理解していないことになり、当然ながら高潔であるべきNHK会長としての資質に大きな疑問を投げかけることになります。

それにしても、私用のハイヤーについて、なぜ公用の伝票が作成されたのか。仮に誤って作成されたとしても、なぜそれが秘書の段階で止まらず、籾井氏本人のところまで行ったのか。秘書は会長の日程を把握しているはずで、1月2日のハイヤーは私用であることを分かり得たはずよね。なにやら組織的なノーチェックの構造を感じます。この問題、案外、根の深い問題なのかもしれません。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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