通勤列車が吹き飛び3千人死亡…北朝鮮「鉄道事故」の凄惨な現場
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は今月16日、北朝鮮の首都・平壌から東海岸の鉱山都市に向かっていた列車が昨年末、急勾配で脱線、転覆し、数百人が死亡したと報じた。
火薬を積んだ貨車が…
事故発生の当日は大雪だったこともあり列車は徐行していたが、梨坡(リパ)駅の直前で、電気機関車の車輪が空回りを起こし、坂道を逆走し始めた。電圧が低いのが原因だった。運転士はなんとかブレーキを掛けて列車を止めようとしたが加速する一方だった。
そして、新坪(シンピョン)駅の手前の急カーブで真ん中の客車が脱線、その勢いで後方の客車が相次いで谷底に転落したのだ。
きわめて悲惨な事故だが、北朝鮮ではこうした鉄道惨事が珍しくない。
実は、今回の事故現場付近では1998年11月にも、同じ平壌発クムゴル行きの列車が停電により脱線、転覆し、数百人の死者を出した。
ある脱北者はデイリーNKの取材に、当時の事故の詳細について次のように述べている。
「端川で列車が傾斜の激しい線路を登る途中に停電し、再び始動をかけ運転しようとした拍子に逆走を始めた。客車2両だけが残り、残りはすべて脱線し、乗客は全員死亡した。どのメディアも事故について報道しなかった」
北朝鮮当局は今回の事故においても、朝鮮労働党中央委員会総会という重要会議の開催を目前に控え、情報統制に汲々とした。しかし、事故の規模が大きいだけに、口コミで伝わる情報を抑えきれるものではない。
規模で言うなら、もっととんでもない事例もある。韓国の月刊朝鮮は2004年6月号で、1979年11月に起きた大事故について伝えている。
(参考記事:【目撃談】北朝鮮ミサイル工場「1000人死亡」爆発事故の阿鼻叫喚)
同誌によると、当時、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の龍城(リョンソン)駅で発生した列車爆発事故は、3000人あまりの死者と1万人以上の負傷者を出した、北朝鮮最大の爆発事故と呼ばれているという。
龍城駅は道都の咸興(ハムン)駅と、2·8ビナロン工場、龍城機械工場などがある工場密集地帯をつなぐ通勤列車と、その一帯の化学工場・機械工場などの生産物を運ぶ貨物列車が交差する駅だ。
咸興出身の脱北者キム・スンチョル氏が同誌に証言したところによると、「当時、事故現場では軍需工場である17号工場で生産された火薬を積んだ貨物列車5両が待機中だった」という。貨物列車1両に積まれた火薬は5トン程度だった。ちょうど通勤列車が到着したタイミングで、多くの乗客で込み合う中、最初に原因不明の小規模な火災が起き、状況を知らない人々が野次馬として群がった。
しかし、すぐに大爆発が起き、龍城駅はもちろん、近隣の住宅までをも完全に吹き飛ばしたという。駅から20キロほど離れた咸興科学院の窓ガラスが割れるほどの衝撃だったという。
これと比べれば、今回の事故は「小規模」に見えるが、大惨事であることに変わりはない。その情報が、国民に広く知れ渡ったらどうなるか。相変わらず核兵器開発にばかり貴重な予算を費やし、民生をかえりみない金正恩体制に向け、民衆が不満の度を強めるのは間違いないだろう。