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聞く力

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

2月に構想日本に戻ってきて以降、政治/行政の分野に関わらず、多くの人と会話をする。また、勉強会などの場で、多様な職種の人たちと議論する。構想日本は特にそういう場が多いかもしれない。

その中で感じることが、「聞く力」の重要性だ。

「議論」とは「互いの意見を論じ合うこと」。論じ合うためには、相手が何を言っているのかを聞き、理解しなければならないはず。

しかし、勉強会などで議論を聞いていると、以下のような人たちがいる。

・相手が言っていることと噛み合わず、「持論」を展開するだけの人

・質問を求めているのに、主張だけをだらだらと述べて、最後に「今の意見についてどう思うか?」と付け足し程度の質問をする人

・議論していたポイントとはまったく違うところの質問や、さっき他の人が聞いたことを繰り返し聞く人(他人の話を聞いていない)

誤解を恐れずに属性でカテゴライズすると、政治家にそういう人が多い。

政治家は有権者に対して情報を発信することが重要な役割であるから、仕方ないという言い方もできるのかもしれないが、情報発信さえすれば、整理もせず受信者のニーズがわからなくても良いということには当然ならない。

自省も込めて言えば、政治や行政の世界にいる人は、情報を発信することこそが重要と勘違いし、自己満足な発信になっているように感じる。

一緒に議論していて、「本質を突いている」と感じる人の多くは、主張ではなく、まずは聞く。それも自分の意見の裏取りのための質問というよりは、素直な疑問点をぶつける。現状を知るためだと思う。そこから論点や本当の課題を浮き彫りにしていく。

これは、単に議論のテクニックなのではなく、実はあらゆる物事に通じることではないだろうか。

あるべき論を言い続けている状況においては、それ以上議論が深まらず本質に行き着かないことも少なくない。

一方、「聞く」ためには、その場で思考を巡らし、議論の流れや背景などを理解していなければならない。

「ニュートラルに聞くこと」

これは意外に難しい。主張を持っている人ほど、聞くときには自分の考えのバイアスがかかり、そこから本質にたどり着くのは難しいことも多いと感じる。

質問から現状を把握し、物事を分解していくことによって本質を取り出していく作業は、事業仕分けにも共通している。

自分自身も含めて、「聞く力」をさらに養って、物事の本質を見極めることが求められていると感じる。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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