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日韓は同盟なのか? 日本は朝鮮半島有事の際に韓国と一緒に戦う用意はあるのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
日米韓のイージス艦によるミサイル警報訓練(韓国海軍配信)

 プーチン大統領の24年ぶりの訪朝の結果、ロシアと北朝鮮との間で「包括的戦略的パートナーシップ条約」が交わされた。

 この条約の第3条には「双方のうち、一方に対する武力侵略行為が強行されうる直接的な脅威が生じる場合、双方は一方の要求に従って当面の脅威を除去することへの協力を相互提供するため2国間協商ルートを遅滞なく稼働させる」ことが謳われている。

 また、第4条には「一方が個別的な国家、または複数の国家から武力侵攻を受けて戦争状態に瀕する場合、遅滞なく自国が保有する全ての手段で軍事的及びその他の援助を提供する」ことが明記されている。

 この条約を持ってロシアと北朝鮮が同盟関係を築いたとは言い難いが、金正恩(キム・ジョンウン)総書記はプーチン大統領歓迎宴で「ロシアのような強い国家を戦略的パートナー、同盟国としているのは我々にとってはまたとない誇りであり、光栄である」と、ロシアを持ち上げ、共同記者会見の場でも「両国は同盟関係という新たな高い水準に引き上げられた」と、胸を張ってみせていた。

 しかし、ラブコールを送られた肝心のプーチン大統領は平壌滞在中、歓迎宴での答礼挨拶で北朝鮮とは「同志的関係」にあると発言したものの「同盟」という言葉は一度も使うことはなかった。

 露朝が同盟の絆を結んだのかは周辺国の日米韓及び中国にとっては無関心ではいられないが、その一方で今、韓国の政界では日本との関係を巡って議論が沸騰している。

 事の発端は元陸軍大将で最大野党「共に民主党」の金秉柱(キム・ドンジュ)議員が国会で韓悳洙(ハン・ドクス)首相に対して「日米韓同盟は可能なのか?特に日本とは同盟なのか?」と質したことから始まった。

 金議員がこうした質問を投げかけた理由は与党「国民の力」のスポークスマンが6月2日に出した北朝鮮の「汚物風船」を批判する論評で「北朝鮮による相次ぐ低劣な挑発行為は韓米日同盟をより強固にするだけだ」と「韓米日同盟」という言葉を使ったからである。

 韓首相が「韓米同盟は強化する。しかし、日本とは関係を改善し、協力関係を維持するが、同盟はしてはならないと思っている」と答弁したことに勢いづいたのか、金議員は「精神状態のおかしい与党の議員らは党の論評で韓米日同盟との言葉を使っていた」と「親日」のレッテルを貼って与党を攻撃した。

 金議員の攻勢に与党は「韓米日安保協力を強調するために使った表現に過ぎない」と、スポークスマンを庇い、大統領室もまた、「韓国と米国、米国と日本は同盟関係だが、韓国と日本はそのような関係にはない」と、「日韓同盟説」を否定したが、日米韓の3カ国が軍事協力関係にあることは紛れもない事実である。というのも、昨年8月の日米韓首脳会談で3か国が複数領域で共同訓練を実施することで合意しているかである。

 日米韓は今年初めに開かれた3カ国国防相会談で計画に基づき、空でも海でも米国を挟んで合同軍事演習を行っている。

 例えば4月2日に済州島東南方の日韓防空識別区域(ADIZ )で実施した日米韓空中訓練には韓国の「F-15K」戦闘機と航空自衛隊の「F-2」戦闘機が一緒に参加している。昨年から数えて3度目の日米韓合同訓練である。

 また、約10日後の4月11日には済州島南方の公海で日米韓は北朝鮮潜水艦の脅威に対処することを目的に合同の海上訓練を実施したが、この合同訓練に米海軍の空母「セオドア・ルーズベルト」、韓国海軍のイージス駆逐艦「西厓柳成竜」、日本海上自衛隊の護衛艦「ありあけ」など6隻が参加していた。

 先月下旬(6月27~29日)にも済州島の南の公海上で韓国海軍からイージス駆逐艦や戦闘機が、また日本から海上自衛隊のイージス駆逐艦や海上哨戒機(P1)などが参加して「フリーダム・エッジ」と呼ばれる合同演習を行ったばかりである。

 韓国の同盟国は米国が唯一である。米国とは米韓相互防衛条約があり、米国は韓国を防衛する義務を負っている。日本と米国の間にも安保条約がある。しかし、日韓の間にはその種の条約は存在しない。日本は韓国を防衛する義務を負ってない。

 しかし、同盟関係にあるならば、話は違ってくる。「同盟」とは互いに共通の目的を達成するために同一の行動をとることを意味するからだ。

 金議員は「我が領土である独島(竹島)の略奪の野望を捨ててない日本との同盟はあり得ない」と声を上げ、また野党議員の席からも「日本が我々を侵略したのを忘れたのか」とか「日本の軍隊を我が国に入れてはならない」などの与党への罵声が飛び交っていたが、同じ理屈に立てば、日本もまた、日本の固有の領土である竹島を不法占拠している韓国と同盟関係を結ぶことはできないはずである。

 「北の脅威」が叫ばれる度に尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領をはじめ国防長官や合同参謀本部議長らが国民の不安を取り除くため「韓米日の安保協力を一層強化し、より強力に連帯していく」(尹大統領の3月22日の発言)と表明しているが、日本は韓国を守り、韓国と一緒になって北朝鮮と戦う用意があるのか、すなわち、同盟関係にあるのか、一度検証する必要があるようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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