北朝鮮で大規模な列車火災…「謎の大爆発」惨事の悪夢よぎる
国境の川・鴨緑江(アムロッカン)をはさみ中国の対岸に位置する北朝鮮の新義州(シニジュ)市で9日、大規模な火災があったようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が、その様子を写真や動画とともに報じている。
RFAによれば、火災は同市内の江岸(カンアン)駅で発生し、15両編成の列車が丸焼けになるなどの被害が出たという。
筆者は北朝鮮の列車火災と聞いて、2004年4月に龍川(リョンチョン)で起きた大爆発事故の記憶がよぎった。8000棟の建物が吹き飛び、1500人が死傷した悪夢のような大惨事である。
今回の事故で人命被害が出たかどうかはわかっていないが、RFAが公開した動画を見ると、真黒な煙が上空100メートルにまで達している。列車15両が全焼するとは火の勢いは相当なものであったと思われ、被害の規模が気になるところだ。
(参考記事:【写真と動画】大規模火災で黒煙が空高く立ち上る新義州)
ただ、積荷はどうやら食用油などの食糧品だったようで、その点では、2004年の大爆発事故とは状況がだいぶ異なる。当時、爆発した列車に積まれていたのは化学肥料に使われる硝酸アンモニウム(以下、硝安)だった。これと燃料油が混ざると、「硝安油剤爆薬」というシロモノに化ける。
北朝鮮側の説明では、事故は龍川駅の引き込み線で、硝安を積んだ貨物列車と油槽車両の入れ替え作業中に起きた。油槽車両に高圧電線が接触して火災が発生、過熱された硝安が大爆発したという。
しかし、硝安油剤爆薬はそう簡単に爆発しないので、起爆にはダイナマイトなどほかの爆薬を使った雷管が必要になるとも言われる。さらには発生現場が、直前に特別列車で中国を訪問した金正日総書記の帰路上にあった。そのため当時は「暗殺未遂説」も出たのだが、それを否定する見方もあり、真相はいまだミステリーのままだ。
一方、今回の江岸駅での火災は、列車が新型コロナウイルス対策のため長時間停車している間に起きたようだ。首都・平壌に向かう前に列車を消毒し、貨物も一定期間、隔離しなければならないからだ。
新義州の知人から事故の様子を聞いたという中国・丹東市民がRFAに語ったところでは、「駅には消火器があったが中身が空っぽで、火災の初期鎮圧に失敗した。それからたったの数分で貨車に積まれていた大豆油が燃え始めたのだが、煙がすごくて現場に近づくこともできなかったらしい。1時間半の間、なす術もなく見守っているうちに、駅の倉庫の保管品まですべて燃えてしまった」という。
列車の積荷は、新型コロナウイルス対策で貿易を停止した影響で、物資欠乏が伝えられる北朝鮮への中国からの支援物資だったかもしれない。その一部が失われてしまったことだけでも、現在の北朝鮮には相当な打撃だろう。