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1兆円を超えたアルケゴスによる損失、名だたる金融機関が勢揃い

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ビル・フアン氏のファミリーオフィス、アルケゴス・キャピタル・マネジメントのポジション崩壊に絡む損失は、野村ホールディングスとスイスのUBSグループが27日に合わせて37億ドル(約4000億円)余りを公表し、世界の銀行の合計が100億ドルを突破した(27日付ブルームバーグ)。

 アルケゴス・キャピタル・マネジメントとは米国のヘッジファンド、タイガー・アジア・パートナーズの元運用者であったビル・ホワン氏が運用するファミリーオフィスである。ファミリーオフィスとは超富裕層が外部の金融機関のサービスを利用せずに自ら運営し、金融資産を運用するものである。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、アルケゴスはホワン氏の個人資産100億ドルを運用していた。金融機関からの借り入れ(レバレッジ取引)によって実際の運用規模はその数倍に膨らんでいた。

 今回、まさにその個人資産100億ドルに相当する損失が明らかとなった。しかもそれには名だたる金融機関が関与していた。損失額はバラパラではあるが、ゴールドマン・サックス・グループとウェルズ・ファーゴ、JPモルガン・チェース、シティグループ、ドイツ銀行、UBS、モルガン・スタンレー、クレディ・スイス・グループ、そして野村ホールディングス、三菱UFJ証券ホールディングス、みずほフィナンシャルグループなども絡んでいたとされる。

 金融機関は過去、何度も手痛い思いをしている。典型的だったのは2008年9月のリーマン・ショックであろう。

 このため、金融機関はリスク管理を徹底していたはずであった。しかし、少しでも手数料を挙げるため、過度なリスクを取ってしまった結果がこれである。

 リーマン・ショックなどによって金融機関は体力増強に勤めた結果、株価の上昇などの恩恵もあって、これだけの損失を計上しても、金融機関の経営危機とまではならず、いわゆるシステミック・リスクに及ぶことはなかった。

 とはいえ今回の損失はボディーブローのように効いてくるであろう。アルケゴスは例外で同様の事例は起きないとは言えない。そもそも金融機関の収益が向上していたのもバブル相場の恩恵を得ているためとみられ、それはつまりリスクそのものも膨れ上がっているということになる。

 今後、相場が急変することも当然ありうる。その際に今回のようにリスクを大きく傾けていたところが破綻するということは十分に考えられる。金融機関にとって収益源となる現在のバブル相場にあって、大きくリスクを落とすこともむしろ考えづらい。今回の事態は決してレアケースではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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