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【総選挙】公約比較 貧困対策編

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
(写真:アフロ)

総選挙が始まりました。

第49回衆院選が10月19日に公示され、10月31日に投開票となりました。各党候補の動向がメディアでも大きく報じられています。

今回は、コロナ禍での選挙戦となることもあり、人を集めての街頭演説や集会等をおこないにくい状況もあると思います。

一方で、コロナ禍でさまざまな政策課題が浮き彫りになったのも事実でしょう。

選挙は、有権者である私たち一人ひとりが、投票行動で意思表示をする貴重な機会でもあります。

ですので、各党がどのような公約を掲げて選挙戦をたたかっているのか、特にコロナ禍でその必要性が顕著になった「貧困対策」に政策分野をしぼって整理し、比較をしたいと思います。

ちなみに、「貧困対策」と銘打って公約に明示している政党はありません。

暮らしの支援や生活の支援などという分類をされることが多いこともありますので、関連する施策をピックアップしていきます。

ここでは、主要9政党の公約比較をおこないますが、すべてを紹介するのは膨大な文字量になってしまいますので、各党の特徴をとらえながら紹介したいと思います。

■コロナ禍で生活が苦しくなった人が急増

まず、大前提としてですが、コロナ禍で失業したり、生活が苦しくなってしまった方が多くいます。

下記は、私が理事長を務める〈もやい〉という支援団体のデータにすぎませんが、相談件数は例年に比べて急増しています。

特に、コロナ禍での対応として、現在、毎週土曜日に新宿都庁下で食料品配布と相談会の活動をおこなっているのですが、食料品を受け取りに来られる方の実数を見ると、2020年4月には100人ちょっとの人数であったのが、2021年1月には200人をこえ、同9月末には400人近くにまで増加しました。

もやい集計データより大西連作成
もやい集計データより大西連作成

もちろん、上記はあくまで、いち現場のリアルでしかないのですが、公的支援の利用実績データを見ても、例えば、生活が苦しくなった人向けの貸付の支援制度である「緊急小口資金等の特例貸付」は前例のない大幅な利用者増となっています。

厚労省によれば、緊急小口資金貸付と総合支援資金貸付の「特例貸付」は、2020年3/25~2021年9/25までで全国での累計貸付決定件数は280万4767件にのぼり、累計支給決定額は、1兆2167.32億円に達しているといいます。

この数字は、東日本大震災が発生した直後である2011年度が全国で約10万件であったことを考えても、前代未聞のものです。

最大200万円の生活費の貸付を利用している人が、のべで280万人にものぼるということのインパクトは、コロナ禍で、非正規労働者などの低所得者に大きなダメージが及んでいることの証左といえると思います。

ですので、あらためて説明するまでもないかもしれませんが、コロナ禍で生活が苦しくなっている方が社会のなかで増加していて、彼ら・彼女らをどう支援していくのかは、喫緊の政治的課題になっているといえるでしょう。

前置きが長くなりました。では、さっそく、「貧困対策」の分野の各党の公約比較をおこなっていきたいと思います。

なお、ここでは、主要9政党として、自由民主党、公明党、立憲民主党、共産党、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組、社民党、NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で、の9党の公約を比較させていただきます。

それぞれ抜粋して各党の特徴を紹介したいと思います。

■自由民主党

まず、自民党です。政権与党として、このコロナ禍での対応を担ってきました。ですので、コロナ禍での政権運営の評価を抜きに考えることはできません。

安倍政権で個人向けの生活支援策としておこなったのは世帯に2枚の「アベノマスク」と10万円の定額給付金。

菅政権では、ひとり親家庭や低所得の子育て世帯への給付金、「生理の貧困」や「ヤングケアラー」の取り組み、孤独・孤立対策などの、個別の支援はありましたが、総論としての「貧困対策」には踏み込めなかった印象です。

「自助、共助、公助、そして絆」のメッセージも含め、国会での「最終的には生活保護」との発言もありました。

岸田新総理のもとでの総選挙となりますが、政権公約を見ていきましょう。

自由民主党政権公約

「貧困対策」としては、以下のようなものが該当します。

・非正規雇用者・助成・子育て世帯・学生をはじめ、コロナでお困りの皆様への経済的支援を行います。(感染症から生業と暮らしを守る)

・子供の貧困・虐待対策を、強力に推進します。(「全世代の安心感」を創出する)

・女性の雇用の悪化、自殺者の増加、ひとり親・非正規雇用者の生活困窮、生理の貧困など、女性の就業と生活の問題に対応するとともに、デジタル人材など女性の経済的自立を強力に支援します。(女性の活躍を応援する)

・生活保護の申請ができずに亡くなったり、育児や介護の負担に耐えられなくなったり、進学を諦めたりする方がいなくなるように、生活・育児・介護・障害・進学への支援策など利用可能な施策の周知を徹底します。

自民党の政策の基本的な方向性は、景気を回復させ、経済の成長により、雇用を守ろう、所得を増やそう、というものだと思います。

ですので、もともと、セーフティネット機能が大きなウエイトにもなる「貧困対策」への取り組みは不十分です。

今回の公約でも、給付金が話題になっていますが(上記の一番上)、例えば、定額給付金をまた支給するなら、選挙前に言わないで春先にどうして出さなかったのかな、など思うところもあります。

生活保護の申請が例示され、利用可能な施策の周知を徹底、とも記載がありますが、生活保護の利用が進んでいない背景には、2012年にまきおこった「生活保護バッシング」の影響も少なからずあると思います。

当時、野党であった自民党の一部の議員がそれを先導したのは記憶に新しいところですし、2012年12月の衆院選の政権公約に「生活保護の1割カット」を掲げ、その後、生活保護基準の引き下げがおこなわれていることも無視できません。

ただ、制度の周知徹底は重要です。スティグマ軽減についての記載や、さらなる拡充について書かれていたら良かったのにな、と思います。

■公明党

公明党も政権与党なので、これまでのコロナ禍での政権運営も含めて考える必要があるでしょう。

公明党マニュフェスト

公明党の「貧困対策」も多岐にわたりますので、いくつかピックアップします。

・生活困窮者を支援するため、緊急小口資金等の特例貸付や、住居確保給付金の再支給、自立支援金について、申請期限の延長や支給要件の緩和などを行います。

・賃上げや賃金格差の是正など家計の所得向上を推進します。

・コロナ禍の長期化に伴い、特に子育て世帯が大きな影響を受けていることから、0歳から高校3年生まで全ての子どもたちに「未来応援給付」(一人あたり一律10万円相当の支援)を届けます。

・コロナ禍において顕在化した住まいに対するニーズや単身高齢者の増加等を踏まえ、生活困窮者等住宅確保に困難を抱えている方々への住宅手当の創設など住まいのセーフティネットの再構築をめざします。

公明党は歴史的にも福祉施策に力を入れています。

社会的孤立の防止という観点から多くの施策を提案していることも特徴です。また、住宅手当の創設などの踏み込んだ内容は評価できるでしょう。

一方で、「特例貸付」の申請期限の延長等を盛り込んだことはいただけません。「貸付」では、貸付を受けた低所得世帯の将来的な負担が大きくなってしまいます。むしろ、返還免除の拡大等について検討していく段階に来ていると思います。

公明党は地方議員も含めたネットワークを活用した政策立案が特徴です。マイナーな分野の施策に丁寧に取り組んでいる議員も多いのですが、自公政権としてはなかなかそれらが実現されない、というところが大きな課題といえるでしょう。

■立憲民主党

次は、立憲民主党です。

自公政権との違いを訴えたいところだと思いますが、特に自民党が野党よりの政策も盛り込んでいることもあり、「1億総中流社会の復活」など、かぶる方向性もあります。しかし、個別にみていくと、考え方の違いも多く見えてきます。

立憲民主党政策パンフレット

・コロナ禍の影響で家計が苦しい世帯に対する即効性のある支援として、個人の年収1000万円程度まで実質免除となる時限的な所得税減税と、住民税非課税世帯をはじめとする低所得者への年額12万円の現金給付を行います。

・コロナ禍が収束した時点を見据え、税率5%への時限的な消費税減税を目指します。

・雇用は、「無期・直接・フルタイム」を基本原則とします。派遣法の見直しなどで、原則として、希望すれば正規雇用で働ける社会を取り戻します。

・低所得世帯を対象に家賃を補助する公的な住宅手当を創設します。

・自治体への支援を通じて、空き家を借り上げる「みなし公営住宅」を整備します。

所得減税をおこないつつ、非課税世帯への現金給付などの施策は独自色があります。

また、上記には載せませんでしたが、医療や介護、子育てや教育などの「ベーシック・サービス」の充実により将来不安を解消し消費を伸ばす、という方向性も特徴的です。

公的な住宅手当の創設や「みなし公営住宅」など、中長期で検討するべき政策課題について踏み込んでいるのは好印象です。

一方で、生活保護の文言が一切なかったのには驚きました。雇用政策はかなり充実しているので、雇用政策と賃金の上昇、「ベーシック・サービス」の拡充で生活を支えられる、と考えているのかもしれませんが、政権奪還を目指すなら、公的扶助(生活保護)の拡充やスティグマ軽減などの施策についても触れてもらいたかったところです。

■日本共産党

共産党については、まず、総選挙政策のパンフレットが56ページもあり、正直、読むだけでも大変だな、という感じです。

共産党は「貧困対策」に最も力を入れている党の一つだと思いますが、なにせボリュームが多いので、特徴的なものをピックアップします。

日本共産党総選挙政策

・コロナ危機で収入が減った家計への支援として、1人10万円を基本に「暮らし応援給付金」を5兆~6兆円規模で支給し、国民の暮らしを支えます。いわゆる中間層(年収1000万円未満程度)を含め幅広く対象にします。生活が困窮している低所得者には手厚い支給をします。

・マクロ経済スライドを撤廃し、「減らない年金、頼れる年金」を実現します。最低保障年金制度をめざします。

・障害者福祉・医療の「応益負担」を撤廃し、無料にします。

・生活保護を「生活保障制度」に改め、必要な人がすべて利用できる制度にします。生活保護費削減を復元し、支給水準を生存権保障にふさわしく引き上げます。保護申請の門前払いや扶養照会をやめます。

繰り返しになりますが、共産党の政策集は膨大で、すべてを拾いきれません。箇条書きではなく、文章で書かれているところも特徴があります。

掲げられている政策は今の施策を大きく転換するものも多く、魅力的なものもありますが、「正しさ」の極致のようでもあり、その実現可能性について考えるとイメージしきれない、というのも正直な感想です。

ただ、ある意味、愚直なまでにセーフティネットの拡充を考えている、とは言えると思います。

■日本維新の会

さて、日本維新の会です。

日本維新の会衆院選マニュフェスト

・長期低迷とコロナ禍を打破するため、2年(目安)に期間を限定した消費税5%への引き下げを断行します。

・「チャレンジのためのセーフティネット」構築に向けて、給付付き税額控除またはベーシックインカムを基軸とした再分配の最適化・統合化を本格的に検討し、年金等を含めた社会保障全体の改革を推進します。

・家庭の経済状況にかかわらず、等しく質の高い教育を受けることができるよう、義務教育の他、幼児教育、高校、大学など、教育の全過程について完全無償化を憲法上の原則として定め、給食の無償化と大学改革を併せて進めながら国に関連法の立法と恒久的な予算措置を義務付けます。

日本維新の会は、教育の完全無償化を以前からずっと主張しています。教育の無償化は「貧困対策」の観点からも、とても重要な政策であることは間違いありません。

一方で、社会保障改革としてのベーシックインカムなどの議論には、特にそれが社会保障費の削減という目的のもとに提起されているのであれば、危うさを感じます。

このあたりは、その具体的なイメージを聞いてみたいものです。

■国民民主党

次は国民民主党です。

国民民主党は、10万円の定額給付金の一律給付を先駆けて提案したり、孤独・孤立担当大臣の設置を提起するなど、機動力のあるイメージがあります。

国民民主党政策パンフレット

・一律10万円の再給付(低所得者は20万円、高所得者には確定申告時に課税)

・総合支援資金の再貸付延長と税・保険料の減免

・コロナ禍の影響が収束し、経済が回復するまでの間、消費税減税(10%→5%)を行います

・「給付付き税額控除」と「プッシュ型支援」で「日本版ベーシック・インカム(仮称)」を創設します

さて、こちらにも「ベーシック・インカム」が。国民民主党は「日本版」としており、マイナンバーと紐づけた申請不要の手当や給付金を自動的に振り込む「プッシュ型支援」についてを「日本版ベーシック・インカム(仮称)」としており、そこの違いはあります。

全体として、現金給付などの財政出動に積極的で、迅速に困っている人に支援を届けられる仕組みを作りたい、というメッセージは感じます。

ただ、ここでも、総合支援資金貸付などの貸付の再延長が書かれていますが、これはいただけません。生活費の貸付は中長期で低所得者の負担になります。

■れいわ新選組

続いては、れいわ新選組です。

れいわニューディール

・コロナ脱却給付金 1人あたり毎月20万円の現金給付

・消費税の廃止

・奨学金に苦しむ約580万人の借金をチャラに。教育は完全無償化へ。

・生活保護を、バラで受けられ、困る前に頼れるような、積極的に受給できる制度にします。

かなり大胆な政策が掲げられています。実現可能性については正直、疑問符もありますが、生活保護制度への取り組みなどは、れいわ新選組は以前から積極的です。

■社民党

社民党です。

社民党2021年衆議院総選挙公約

・あらたな特別給付金10万円を支給

・住居喪失者に空き家活用対策

・生活保護を利用しやすい制度へ

社会党時代からの継続性もあり、セーフティネットの拡充には意欲的な印象があります。

選挙公約はシンプルで、重点政策に詳細な記述がありますが、生活保護制度のオンライン申請の導入について記載するなど、細かいですが丁寧な視点があります。

■NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で

HPを見たんですが、NHKの話以外の政権公約的なものを見つけられず。

「貧困対策」には特に関心ないようですね。

■まとめ

思った以上に長文になってしまいましたが、主要9政党の「貧困対策」に関わる分野の政権公約を見てきました。

一部抜粋で紹介していますし、その党の特徴がわかる政策をピックアップしておりますので、抜けている視点等あるかと思います。

それぞれ、参照した各党のマニュフェスト、パンフ、公式HP等のリンクを載せていますので、気になる政党については、ご自身の目でチェックいただければと思います。

コロナ禍で生活が苦しくなってしまった人に公的な支援をどう届けていくことができるのか、まだまだ課題が多い状況です。

日本の「貧困対策」を進めていくには、どのようなアプローチが必要か、投票行動の一つの参考にしていただければ幸いです。

以上

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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