日銀が恐れる「円高」の悪夢=長期金利操作で「円高助長」の恐れも
9月21日、政策運営の枠組みを見直し、「長期金利操作」を新たに導入した日銀。黒田東彦総裁は「緩和効果を最大限得るための枠組み」と胸を張る。ところが、幹部らの表情はいまひとつさえない。ドル・円相場がなお不安定で、円高が再燃しかねないためだ。間の悪いことに、長期金利の操作では「むしろ円高を助長する恐れがある」(大手銀行)という。黒田総裁が胸を張る新たな枠組みは、円高に対して脆弱(ぜいじゃく)になったと言える。
日銀が導入した「長期金利操作」は、デフレに苦しむ先進国では初の緩和手段だ。国債を購入して潤沢に資金を供給する「量的緩和」、短期金利を0%以下に誘導する「マイナス金利」は米国、欧州で採用されたが、長期金利を特定水準に誘導する「長期金利操作」を手掛けるのは日銀が初めてで、「非伝統的な緩和策でフロントランナーになった」(幹部)のは間違いない(ただし、前回解説したように緩和効果は乏しい)。
金利が低下する場合は国債購入を減少させる…
日銀はこの長期金利操作で誘導水準を「0%程度」に設定した。資金需給を調整して誘導する短期金利に比べ、長期金利の操作はどのように行うのだろうか。基本的には、長期金利が上昇する際には、国債購入を増加させて金利上昇を抑制。一方、金利が低下する場合は国債購入を減少させ、金利低下の阻止を図る。ただし、長期金利はさまざまな要因によって変動し、国債購入の増減によるコントロールは簡単ではない。
冒頭で紹介したように、なぜ日銀幹部が円高を懸念し、その際の長期金利操作が円高を助長しやすいのか。これは以下のようなメカニズムによる。例えば、中国経済の不安や欧州金融問題など外的な要因で円高が進行したとしよう。この場合は世界的に株価も下落すると考えられる。内外株安と円高が発生すると、日本の長期金利は低下基調が強まってしまう。日銀はこれを阻止するために国債購入を減らさざるを得ない。
国債購入を一段と減額。それがさらなる円高につながる、という悪循環
困ったことに、国債購入の減額は、金融市場では「量的緩和の縮小」と受け止められる可能性が高い。おそらく「外為市場では円高が進展する」(外資系証券エコノミスト)ことになり、その円高が長期金利をさらに低下させる。「0%程度」の誘導目標を課せられた日銀は、この低下を阻止するために国債購入を一段と減額。それがさらなる円高につながる、という悪循環に陥る恐れがある。
これを避ける唯一の手段は、「長期金利の利下げ」である。ところが、そうすると短期金利に加えて長期金利もマイナス圏に水没してしまう。マイナス金利の導入に伴って長期金利もマイナス圏に落ち込み、金融機関の収益悪化懸念から日経平均株価が下落したのは記憶に新しい。それが再現されてしまう。結局のところ、「日銀としては円高が発生しないことを祈るしかない」(銀行系証券アナリスト)という状況だ。
ドル円相場は10月に入って米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測で持ち直したが、先行きは予断を許さない。過去の記事で解説したようにドル・円相場への影響力は、日銀よりもFRBの方が圧倒的な力を誇る。FRBが利上げへのやる気をなくし、ドル安・円高が加速したら「日銀は万事休すになるのではないか」と大手邦銀のアナリストは予想する。日銀はFRBの利上げを切望しながら為替動向を見守っているわけだ。