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北朝鮮 「さらば韓国!」 「10月7日」は南北「永久分断」の歴史的な日となるか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩総書記(朝鮮中央通信から)

 今日、10月7日は朝鮮半島にとって歴史的な日になるかもしれない。北朝鮮で憲法が改正され、建国以来の悲願もあり、堅持してきた朝鮮半島(南北)の統一政策を放棄するだけでなく、韓国国民を同じ民族とみなさず、他国(敵国)民として扱うことを公式に宣言するからである。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は昨年末の労働党中央委員会第8期第9回全員会議(総会)での報告で「南北関係は敵対的な2国間関係で、韓国は敵国、交戦国である」と断じ、対南政策及び路線の転換を「憲法に明記すべき」と提案し、続いて今年1月15日に開催された最高人民会議(第14期第10回会議)での施政演説では「大韓民国は不変の主敵である」と強調し、南北関係を完全に遮断・断絶する政策を打ち出した。

 金総書記はまた「共和国の民族歴史から『統一』、『和解』、『同族』という概念自体を完全に削除しなければならない」と述べ、これからは「三千里錦繍江山」とか「8千万民族」のような南北一体を表すような言葉を使わないだけでなく、憲法にある「北半部」や「自主、平和、民族大団結」のような表現を「削除すべきである」と強調していた。

 その最高人民会議が本日、開かれる。金総書記が言明した通りならば、会議では憲法が改正され、1972年12月27日に制定された社会主義憲法から「偉大な首領金日成(キム・イルソン)同志と偉大な領導者金正日(キム・ジョンイル)同志は祖国統一実現に不滅の業績を重ねた民族万代の恩人である。偉大な首領金日成同志と偉大な領導者金正日同志は祖国の統一を民族史上の課業として打ち出し、その実現のためあらゆる努力と心血を注いだ。偉大な首領金日成同志と偉大な領導者金正日同志は共和国を祖国統一の強有力な堡塁とする一方で祖国統一の根本原則と方途を提示し、祖国統一運動を全民族的な運動に発展させ、全民族の団結した力で祖国統一偉業を成し遂げるための道を切り開いた」との条文が削除されることになる。

 また、第1章第9条の「朝鮮民主主義人民共和国は北半部で人民政権を強化し、思想、技術、文化の3大革命を力強く繰り広げ、社会主義の完全勝利を成し遂げ、自主、平和統一、民族大団結の原則に基づき祖国統一次元のために戦う」との文言も消滅することになる。

 憲法改正を待たずにすでに金日成主席の統一偉勲を記念する塔である「祖国統一3大憲章記念塔」は解体、撤去されている。この記念塔は金正日総書記の指示によって、史上初の南北首脳会談直後の2001年8月、平壌の楽浪区域統一通りに建てられた。

 「祖国統一3大憲章」とは1972年7月4日の「南北共同声明」の祖国統一大原則と1980年10月の第6回党大会で提示した「高麗民主連邦共和国」及び1993年4月の最高人民会議で提示された「祖国統一のための全民族大団結10大綱領」のことである。それが、金総書記の「見苦しい」のたった一言で空しく撤去されたのである。

 また、韓国の現代グループの創業者、鄭周永(チョン・ジュヨン)名誉会長が平壌を訪問し、開拓した金剛山観光事業の施設も、2000年に合意した南北合作事業である開城工業団地も解体され、廃墟となっている。加えて、「6.15南北共同宣言」(2000年6月15日)に基づき、2000年に着工し、2007年5月に試験運行されていた南北鉄道のレールも完全に取り外されてしまった。

 そして、今日この日を機に1972年に7月4日に朴正煕(パク・チョンヒ)政権と金日成政権で発表された7月4日の「南北共同声明」も1991年12月13日に盧泰愚(ノ・テウ)政権と金日成政権下で交わされた「南北基本合意書」も、さらに2000年6月15日の金大中(キム・デジュン)大統領と金正日総書記による史上初の南北首脳で高らかに謳われた「6.15南北共同宣言」から盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下の2007年10月4日の「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」、文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2018年4月27日の「半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」を含めすべてが紙くずとなる。

 南北はこれまで互いの関係について外国同士の関係ではなく、特殊関係と位置付けていた。従って、国土を南北に分断しているラインは国境ではなく、軍事境界線である。しかし、二つの国家を宣言した以上、北朝鮮は軍事境界線を今後、国境と定めることになる。

 北朝鮮が統一を放棄し、韓国との断絶を宣言し、国際社会に二つの国家の存在の認知を求めれば韓国が憲法で定めた「北朝鮮の領土は韓国の付属とする」条項も形骸化し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の吸収統一も金正恩政権が自壊しない限り、また戦争が起きない限り、不可能であろう。

 韓国と北朝鮮は国連ではそれぞれ独立国として承認されている。韓国と北朝鮮と同時に国交を結んでいる国は世界160カ国以上に上り、また、韓国社会でも世論調査の度に「南北統一不要」が年々高まっている。おそらく今後、南北は「アカの他人」となり、別の道を歩む可能性が大だ。

 五輪真弓の歌「恋人よ」の歌詞の中に「恋人よ そばにいて こごえる私のそばにいてよ そしてひとこと この別れ話が冗談だよと 笑ってほしい」との一説がある。仮に「恋人」を「北朝鮮」に置き換えると、韓国からすれば、このような歌詞の心境かもしれないが、金総書記が尹大統領に「冗談だった」ということは万に一つなさそうだ。

 

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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