台湾ラーメンからコンビニ飯、コッペパンまで。なぜ名古屋で「台湾グルメ」ブームなのか?
名古屋でなぜか「台湾グルメ」戦国時代に・・・!
名古屋のご当地グルメ、名古屋めし。その一角をなすのが台湾ラーメンです。激辛ミンチたっぷりのラーメンは名古屋の多くのラーメン店、中華料理店でメニュー化され、今やこの地域のご当地ラーメンとすらいわれます。
近年はこの台湾ラーメンにとどまらず、「台湾〇〇」とネーミングされた料理、食品が百花繚乱。さながら名古屋は「台湾グルメ」戦国時代の様相を呈しています。
しかも、これらは大本であるはずの台湾にはない食べ物ばかり。名古屋の台湾グルメは他のどこにもない名古屋オリジナルのテイストなのです。なぜ、台湾グルメは名古屋で独自の進化を遂げたのでしょうか?
名古屋流・台湾グルメの元祖「味仙」を直撃!
名古屋の台湾グルメの先駆けが台湾ラーメン発祥の店、「味仙」です。
「主人が辛いものが好きで、何でも辛くしちゃったんですよ」と笑うのは創業者(郭明優さん)夫人である郭美英さん。1940年に台湾で生まれ、すぐに日本へ来た明優さんは、若かりし頃から料理の研究や食材の調達のために何度も台湾へ渡っていたそう。そして、台南市を訪れた際に出会ったのが、天秤で担いで売り歩く担仔(タンツー)麺でした。1970年代初め、これをまかない用に自分好みの辛口にしたところ、常連がカウンターごしにリクエストし、ほどなくレギュラー商品に。さらに激辛ブームにも乗って大ヒットすることになりました。
このようにそもそも台湾ラーメンの誕生からして、台湾にはないアレンジがきっかけだったのです。
「厨房に注文を通す際に『台湾!』と呼んでいたら、お客さんが『台湾って何?』と興味を示してくれて、そこから自然と私たちも台湾ラーメンと呼ぶようになりました。その時はまさか名物になるなんて思ってなかったですから、台湾人が作ったんだから台湾ラーメンでいいか、と軽い気持ちで名づけたんです」と郭美英さん。また、台湾ラーメンが名古屋人にウケた理由は、珍しさと同時にもともとの嗜好にも合っていたからではないかといいます。
「当時は唐辛子が効いた辛い料理は韓国料理くらいしかなく、ラーメンにも辛いものはなかった。台湾ラーメンは名古屋の人が初めて食べる辛いラーメンでした。でも、ベースは醤油のスープで親しみやすいし、名古屋の人は普段から赤味噌に親しんで濃い味が好き。だから台湾ラーメンも口に合ったんだと思います」
台湾ラーメンの味の決め手が、唐辛子やニンニクで炒め煮したいわゆる台湾ミンチです。辛いだけでなく、じっくり時間をかけて肉のうまみを引き出すのが特徴で、だからこそうまみ嗜好の名古屋人に受け入れられたのだと考えられます。
味仙の台湾ラーメンが大ヒットしたため、名古屋の中華料理店やラーメン店はこぞってこれを採用。今では市内の7~8割の店でメニュー化されているといわれます。こうして、台湾にはない名古屋生まれの台湾ラーメンが地域限定で普及することとなりました。
台湾まぜそばのブレイクで「台湾〇〇」市場が一気に拡大
近年の新たな動きが、ラーメン以外のジャンルの「台湾〇〇」と呼ばれるメニューの急増です。「台湾カレー」「台湾丼」「台湾スパ」「台湾まぜうどん」「台湾ピザ」「台湾もつ鍋」「台湾まぜサラダ」などなど。これらはほぼすべて台湾ラーメンに欠かせない台湾ミンチを使ったアレンジ料理。そしてやはり、台湾にはない名古屋オリジナルメニューです。
このムーブメントの火付け役が「台湾まぜそば」の生みの親、「麺屋はなび」です。2008年に台湾ラーメンからヒントを得て創作した台湾まぜそばは、オープン間もなかった同店をアッという間に行列が絶えない大人気店に押し上げました。そして、2013年になごやめし博覧会実行委員会主催(名古屋市、名古屋観光コンベンションビューローなどで構成)の「新なごやめし総選挙」で準グランプリに輝いたことで知名度がさらにアップ。以後、名古屋めしの創作コンテストでは台湾ミンチをトッピングしたメニューがトレンドになり、実際に店舗でメニュー化されるものも後を絶たないほどになりました。
「台湾まぜそばがブームになったことで、お客さんが食べておいしいメニューという存在を越え、売り手が作って出したい!と思う存在になったと感じます」とは麺屋はなび店主の新山直人さん。台湾まぜそばの人気は全国に飛び火して、今や1000軒以上で出されているともいわれます。こうした状況にも「名古屋めしとして名古屋をアピールできる商品を生み出せた。それを多くのお店や企業が使ってくれるのは光栄なこと」と新山さんはいいます。
同店はFC店を含めて現在約50店舗を展開。韓国、アメリカ(L.A)、スリランカ、マレーシアなどにも出店し、これら海外の店舗では「名古屋まぜそば」のネーミングで販売しているそう。国際的な名古屋の認知度アップにもひと役買っています。
台湾まぜそばのブームによって、名古屋の台湾グルメはさらに広がりを見せ、ラーメン店以外のジャンルでも台湾ミンチを使った「台湾〇〇」というメニューを出す店が増えています。
コッペパンにも合う!万能な台湾ミンチ
台湾グルメはめん類が最も多いのですが、中にはこんなものまで。今年4月にオープンした「三ツ山猫ストア」(名古屋市千種区)の台湾ミンチコッペパンです。
「何か名古屋らしいメニューがほしいな、と考えた時に、台湾ミンチならパンにはさんでもおいしいだろうと考えました。調べた限りではパンと組み合わせた商品はなかったので、メニュー化することにしました」と店主の加藤季一さん。試作してみると台湾ミンチづくりは思いの外難しく、台湾ラーメンを出している中華料理店から仕入れることにしたそうです。
「台湾ミンチの味は店によって意外と違います。ひと言で台湾ラーメン、台湾グルメといってもいろんな味を楽しめることが人気の理由では?」と加藤さん。そんな中でも台湾ミンチ+コッペパンは他にはない個性的な味。10種類以上あるラインナップの中でも、一、二を争う人気商品になっているといいます。麺類はもちろん様々な食材と合わせられる万能性が、台湾グルメの幅を広げている大きな要因といえるでしょう。
スーパー、コンビニ、キヨスクでも買える!台湾グルメ
「台湾グルメ」は飲食店のメニューにとどまりません。スーパーやコンビニ、駅のおみやげ品売り場でも様々な「台湾〇〇」を購入することができます。
とりわけ売り場で目立つのが、名古屋のご当地麺商品のナンバー1メーカー・寿がきや食品の台湾グルメです。実に20年も前からカップ麺、袋めん、チルド麺を販売している同社は、名古屋で台湾グルメがウケる理由をこう分析します。
「『味仙』さんの台湾ラーメンが名古屋の飲食店に広まったのは、激辛ブームがあったからかもしれませんが、この地方特有の豆味噌文化で濃い味つけを好む嗜好に合致したからと推察します。さらに『麺屋はなび』さんの台湾まぜそばがおいしさとインパクトの強いビジュアルで人気になったことで、ラーメン以外のアレンジにも広がったのではないでしょうか」
また、近年は他エリアでの人気の向上、地元でのさらなる定着も実感するといいます。
「ここ数年は北海道や関東の催事でもご注文が増えています。特にチルド商品の『台湾まぜそば』は数年前のブームから定番商品として定着してきた感があり、お問合せをいただく機会も増えてきました」
コンビニでは、ローソンが麺屋はなびプロデュースの「台湾まぜそば」「台湾カレー」「大きな台湾にぎりめし」「らーめんサラダ(台湾ミンチ)」「冷し台湾まぜそば」などの商品化に取り組んできました。
「『麺屋はなび』の味を少しでも手軽に近所のローソンで楽しんでいただくための商品です。おにぎりやサラダ、冷し麺など、『麺屋はなび』にはない関連商品を複数販売することで台湾グルメを盛り上げ、地域活性化に貢献したいという思いもあります」とローソン中部商品部。愛知・岐阜・三重の東海3県でお客の支持が高く、他の地域限定商品と比べてもSNSでの反応が多く、注目度の高さは際立っているといいます。
台湾人はどう見る?名古屋の「台湾グルメ」人気
以上のように名古屋の「台湾グルメ」人気は、台湾で食べられているグルメが名古屋で人気を得ているわけではなく(タピオカは何度目かのブームとなっていますが)、名古屋発祥の「味仙流・台湾ミンチグルメ」が広がりを見せているというべき状況です。
このような現状を当の台湾の人はどう見ているのか? 名古屋・大須の「李さんの台湾名物屋台」店主・李承芳(リー・ショウホウ)さんは初めて台湾ラーメンを食べた時の衝撃をこう語ります。
「ひと言、“何じゃ、こりゃー!?”という感じ(笑)。あんなに辛い料理は台湾にはないからね」
とはいえ店の看板商品の台湾唐揚げもピリ辛さがウリ。子どもの頃から台湾で食べていた味を再現しているといいます。
「辛さは唐辛子の量で調節できるからね。でも、名古屋のお客さんはどんどん“唐辛子多め”を選ぶようになっていった。ウチの台湾唐揚げが定着したのは味仙さんの台湾ラーメンのおかげだし、辛いのを好んで食べるようになったのも味仙さんの影響が強いだろうネ」
つまり、台湾ラーメンが名古屋人本来の濃い口嗜好にマッチしていたのと同時に、その普及は名古屋人の好みをより辛口へと進化させてきたのだろう、というワケです。そして、台湾グルメが巷にあふれかえっている状況をこう語ります。
「何でも“台湾”とついてるのはちょっとビミョーな気持ち(笑)。でも、台湾人が日本に親しみを感じているのは、名古屋の台湾料理の人気も影響していると思う。ブームに乗るんじゃなく、本当においしいものを作ってくれればいいと思いますヨ」
日本人はもともと外来の食文化を自分たちの口に合うように手を加え、日本オリジナルの料理として発展・浸透させてきました。カレーやラーメンはその最たるものといえるでしょう。名古屋の台湾グルメも、そんな日本人らしいアレンジ精神が生んだものだと考えられます。そして、そのジャンルは広がるばかりです。この先、どんなユニークな台湾グルメが登場するかを期待しつつ、10年後も残って定着している台湾グルメに出会えることを楽しみにしたいと思います。
(写真撮影/すべて筆者)