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幼保無償化からの森のようちえん排除は多様性の否定でしかない、だから鳥取県は決断した

前屋毅フリージャーナリスト
平井伸治知事は森のようちえんの「質」を大事にした (写真提供:鳥取県庁)

●鳥取県が森のようちえんを無償化できた理由

 国の幼保無償化制度では「森のようちえん」は対象外にされてしまったが、鳥取県は森のようちえんにかよう子どもたちも無償とする独自の制度をスタートさせた。なぜ、鳥取県は森のようちえんの無償化を実現できたのだろうか。鳥取県庁に子育て王国課の稲村潤一課長を訪ねて質問してみると、次のような答が戻ってきた。

「子育て王国」を謳う鳥取県のシンボルマーク (写真提供:鳥取県庁)
「子育て王国」を謳う鳥取県のシンボルマーク (写真提供:鳥取県庁)

「鳥取県には森のようちえんを認証する制度があることが大きかったとおもいます」

 2015年3月に鳥取県は、「とっとり森・里山等自然保育認証制度」を創設している。自然保育の実践を、県が正式に認める制度だ。認証を受けたのは認可幼稚園や認可保育園もあるが、そこに森のようちえんもはいっている。鳥取県として、森のようちえんは幼児教育・保育を実践している団体として正式に認めたことになる。

 鳥取県に初めて誕生した森のようちえんは智頭町の「まるたんぼう」で、2008年3月のことだった。そこから、西村早栄子代表を中心に、森のようちえんに対する助成を町や県に求めていく声がひろがっていく。それに智頭町が積極的に応えていき、県も動いていくことになる。

「利用者のニーズは多様です。認可幼稚園にかよわせたい保護者もいれば、私立幼稚園にかよわせたい保護者もいます。そうした多様なニーズのひとつの選択肢として、森のようちえんがあってもいい」

 稲村課長はいった。多様なニーズを大事にするために、鳥取県は認証制度を設けることにした。もちろん、「認めてもらった」だけでは意味がない。認証制度と同時に鳥取県は「とっとり森・里山等自然保育事業費助成事業」を創設し、森のようちえんに対しても運営費を県と市町村が助成する制度をスタートさせた。

 この助成がなければ、森のようちえんの運営費も保護者に負担してもらうしかない。県が助成することで保護者の負担も和らぎ、森のようちえんとしても運営しやすくなった。

●自分の足と目で質を確認

 もちろん、どんな森のようちえんも鳥取県が認証し助成しているわけではない。稲村課長が説明する。

「認証にあたっては、基準を設けました。児童6人に対して保育者を最低2人は配置し、そのうち1名以上は保育士か幼稚園教諭であること、週に5日活動して、自然フィールドでの活動も週3日以上などの基準項目があります。絶対に譲れないのは安全対策で、マニュアルも作成して、守るべきことを決めています」

 そのために県では、森のようちえんの視察を重ねている。実際に自分たちの目で森のようちえんの実態を確認し、幼児教育・保育の場であることを確認し、認証に必要なルールを決めたわけだ。

 それだけではない。認証制度をつくるにあたり、鳥取大学地域学部の塩野谷斉教授に委託して、自然環境のなかでの活動が幼児の身体的・精神的・知的・社会的発達に与える影響についての調査を委託している。2013年3月に提出した報告書で塩野谷教授は、「この度の調査対象となった『森のようちえん』の子どもたちは、同年齢の子どもたちに劣らず、身体的、精神的、知的、社会的に好ましい発達が得られているものと判断できた」と述べている。

 森のようちえんが認可幼稚園や認可保育園に劣らない幼児教育・保育の成果をあげている、という結論である。認可の幼稚園や保育園と同等なのだから助成しないという選択肢はありえない、ということで鳥取県は助成にのりだす。

 今回の無償化も同じことで、認可の幼稚園や保育園などが無償化の対象とされるのに、同等である森のようちえんが無償化から外されるのでは理屈がとおらない。だから、鳥取県は独自の無償化を決断したのだ。

 ごく当然の判断を鳥取県はくだしたといえる。他県や、そして国が同じように考えないことのほうが不思議なくらいだ。森のようちえんの実態を自分たちの目で確かめ、検証してみれば、きっと鳥取県と同じ結論になったはずである。

「ただ、森のようちえんを認可施設と同じように支援する方針は、知事の判断があってこそできたことです。事務方としては、国の基準を守っているほうが楽ですからね」

 と、稲村課長は笑った。平井伸治知事が決断し、それを県職員が制度として落とし込んだからこそ、森のようちえんでの無償化が鳥取県では実現した。現状を的確にとらえて決断できるリーダーと優秀なスタッフがいれば、国が森のようちえんを幼保無償化から外すことなどなかったかもしれない。

●国がきちんとやるべき

 とはいえ、鳥取県にある全部の森のようちえんで完全無償化が実現しているわけではない。鳥取県の制度では、森のようちえんでの無償化のための予算は、県が半分で各市町村が半分を負担することになっている。しかし、負担を決断できない市町村もある。財政状況をふくめ、さまざまな理由があるのだろう。

「県と市町村は同等の立場ですから、県が市町村に対して負担を強制することはできません」

 と、稲村課長も残念そうだ。そのため県のつくった制度にしたがって半分の負担を受け入れたところもあれば、負担を4分の1だけに留めたところもある。負担を受け入れなかった自治体もある。同じ鳥取県内の森のようちえんでも、無償になるところもあれば、保護者が2分の1を負担するところ、4分の1を負担するところがでているのも現実だ。

「こんなおかしなことになっているのは、国が実態の確認もしないで、森のようちえんを対象外にしたからですよ。国がきちんとした制度にしていれば、市町村によって対応が違ってくるなんて混乱は起きなかった」

 と声を強めるのは、鳥取市議会の足立考史議員である。彼は森のようちえん問題に熱心に取り組んできている。

足立考史・鳥取市議会議員 (撮影:筆者)
足立考史・鳥取市議会議員 (撮影:筆者)

 国の制度に欠陥があるからこそ、鳥取県が独自で森のようちえんの無償化に取り組まなければならないし、その鳥取県でも自治体によって温度差が生まれるようなことになってしまっている。

 幼保無償化は子どもたちの成長に資する制度でなければならないはずだ。それには政治家も官僚も森のようちえんに自らの足を運び、自分たちの目で実態を確認すべきである。森のようちえんを無償化制度の対象外にしてしまったことが正しい判断だったのかどうか、自らの目で確認すべきだろう。それが「欠陥」と気づいたなら、改めるための行動を起こすべきではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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